ESRI Discussion Paper Series No.106
マッチングの技術的効率性と入職経路選択行動

2004年6月
  • 上野 有子(内閣府経済社会総合研究所)
  • 神林 龍(東京都立大学経済学部)
  • 村田 啓子(内閣府経済社会総合研究所)

要旨

1.研究の目的

近年我が国で継続して見られる高失業状態の原因の一つとして、労働市場の「ミスマッチ」に起因する失業の存在・増加が挙げられている。こうした「ミスマッチ」は、景気循環とは比較的独立の技術的な問題から主として生じるものとして、解消に向けた施策が講じられてきたが顕著な効果は見られない。したがって本稿では、「ミスマッチ」の背景にある技術的な問題の重要性を考察し、その解消のために行われてきた諸施策が正しいかどうかを検証し、今後の施策の方向性を模索する。

2.分析手法

我が国の労働統計は労働者側の行動を扱ったものが多く企業の求人・採用行動を調査したものが限定されているため、労働市場の需要・供給両面から整合的にデータを利用できる機会が少ない。本稿では、この問題を解決するために「雇用動向調査」事業所票と入職者票を接合し、事業所ごとに求人充足状況や採用時の利用経路を把握できるようにした。これらを用いて、事業所の求人経路選択行動及び求職者の求職経路選択行動がランダムか否かを検証するとともに、推計上の幾つかの問題点を明らかにした。

さらに、経路選択行動はランダムでないことが明らかになったことを踏まえ、利用経路の一つである公共職業紹介所におけるマッチングに関するデータを用いて、マッチングのスピードへの経路選択行動の効果を分析した。具体的には、事業所の平均的な属性・求職者の平均的な属性に加えて、経路選択行動をあらわす変数を追加して、集計マッチング関数(以下AMF)の推計を試みた。

3.分析結果

各分析結果と「ミスマッチ」関連施策への含意を要約すれば以下の通り。

  • 1)事業所分析については、90年代後半以降の紹介業への民間参入促進の結果、事業所が民間紹介を他の求人経路と補完的に活用するようになったとは未だ評価できない。90年代を通じて求人経路の利用に何らかの構造変化が見られ、公共紹介や求人広告を利用する事業所の特徴が顕著になってきた傾向が見られるが、こうした経路間の「役割分担」の促進とミスマッチ解消策との関連は明確でない。
  • 2)入職者分析では、経路選択がランダムでないことは明らかであるものの、90年代を通じた顕著な傾向は見られず、したがって政策の影響も明らかではない。
  • 3)都道府県別パネルデータを用いたAMF関数推計の結果、90年代を通じて、事業所の経路選択行動の予測精度が高いほど公共職業紹介所での紹介までのスピードは速くなることが示された。他方、求人の充足に必ずしも結びつくとはいえない。入職者の予測精度については、精度が高いほど紹介までのスピードが速く、紹介から就職にいたる確率も高くなった。これは言い換えれば、求職者の属性が予測しにくいほど、公共職業紹介のパフォーマンスも低下することを意味する。

4.結び

実証結果より、マッチングの技術的効率性を高めるには、求人求職双方の経路選択行動の予測精度を高めること、すなわちどのような事業所やどのような求職者がどの経路を選択するか、あらかじめ確からしい状態にすることが有効であることが示された。これにより、各経路のマッチング技術において情報化やシステム化が困難な部分(公共紹介についていえば対面業務)での効率化に結びつくことが期待される。ただし、こうした「選択と集中」策の結果逆選択が発生する(求職者が自分の属性に最も適した経路を選択しない)可能性も想定されるため、両者のトレードオフを踏まえ「集中」に向けた策を検討することが必要である。

キーワード:入職経路選択、マッチング関数、職業紹介事業

JEL Classification Code: J41, J64

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全文の構成

  1. 2ページ
    (要旨)
  2. 4ページ
    0.はじめに
  3. 6ページ
    1.確認できる事実
    1. 6ページ
      (1-1) ベバリッジ曲線の上方シフト
    2. 6ページ
      (1-2)失業フローの変化
    3. 7ページ
      (1-3)職安経由率の相対的な減少
  4. 8ページ
    2. マッチング・ファンクションの理論的基礎
    1. 8ページ
      (2-1)壺・ボールモデル
    2. 10ページ
      (2-2)ストック・フロー・アプローチ
    3. 12ページ
      (2-3) directed search model
  5. 14ページ
    3. 事業所の入職経路選択行動
    1. 14ページ
      (3-1)雇用動向調査事業所票
    2. 15ページ
      (3-2)事業所の属性(基本統計量の分析)
    3. 15ページ
      (3-3)事業所の基本属性と離入職率、未充足求人率との関係
    4. 16ページ
      (3-4)事業所の経路選択の状況と同一事業所での複数経路の使い分け
    5. 17ページ
      (3-5) 事業所の求人経路選択行動はランダムか?
      1. 17ページ
        (3-5-1)ヘックマン・プロビットモデルを用いた分析
      2. 20ページ
        (3-5-2)ヘックマン・トービットモデルを用いたクロスセクション分析
      3. 20ページ
        (3-5-3)プールデータを用いたヘックマン・プロビット分析
    6. 23ページ
      (3-6)小括
  6. 25ページ
    4. 求職者の入職経路選択行動
    1. 25ページ
      (4-1)雇用動向調査入職者票
    2. 26ページ
      (4-2)求職者の入職経路選択行動はランダムか?
    3. 27ページ
      (4-3)全サンプル・生来的属性
    4. 28ページ
      (4-4)新卒者・生来的属性
    5. 29ページ
      (4-5)新卒者、既卒就業未経験者、転職者の生来的属性の違い
    6. 29ページ
      (4-6)既卒就業未経験者・生来的属性
    7. 30ページ
      (4-7)転職者
    8. 31ページ
      (4-8)小括
    9. 31ページ
      (4-9)プロビットモデルの説明力
  7. 36ページ
    5. マッチングの技術的効率性と事業所・入職者の経路選択行動
  8. 40ページ
    6. おわりに:マッチングの技術的効率性を高めるには
  9. 43ページ
    参考文献
  10. 45ページ
    付録1. 事業所側から見た経路選択行動の分析に関するデータベース作成手順
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