本論文は本年2月の平成15年度国際共同研究最終報告会において発表された論文を要約・翻訳したものである。

ESRI Discussion Paper Series No.109
開放経済において人口変動が公的年金制度と政府財政へ与える影響について(抄訳)

2004年6月
  • Ralph C. Bryant(ブルッキングス研究所上席研究員)著
  • 島澤 諭(内閣府経済社会総合研究所客員研究員)訳

要旨

1.問題意識

21世紀初めの世界はかつてない人口転換の只中にある。20世紀の多くを通じて乳幼児死亡率は大きく減少し、成人の平均余命は伸長した。出生率は、20世紀後半にはまず先進国で、続いて途上国で下落し始めた。こうした人口変動は先進工業国における人口の年齢構造にすでに大きな影響を与えており、成人に対する若者の比率を減少させている。人口転換は21世紀においても継続する。工業国は、これから数十年の間に顕著な高齢化を被ることになる。その後遅れて、さらなる出生率の低下と老年人口従属比率の飛躍的な上昇が途上国においても生起することになる。
日本は、出生率が劇的に低下し、かつ急速に高齢化する先進国のなかでももっとも顕著な例である。
人口成長と経済成長の関係に関する先行研究の多くは、残念なことに、人口の規模と成長率に焦点を当てるだけで、人口の年齢構造のシフトについてはほとんど注意を払っていない。また、財政と年金制度に焦点を当てた文献は、出生率低下や若年人口従属比率の下落の影響を無視している。国境を超えた人口転換の影響に関する研究は皆無である。人口変動が国境を越えて与える影響、ないしは、貯蓄投資バランスに与える影響についての研究も行われていない。

2.分析手法

Blanchard=Weil=Yaari型の連続時間型世代重複モデル(perpetual youth model)に、若年者の扶養コストと高齢者への公的なトランスファー(公的年金制度)を明示的に導入し、かつ開放体系化したシミュレーションモデルを開発することで分析し、併せて年金制度改革の影響についても分析している。

3.分析結果の主要なポイント

もし世界に自国より出生率の低下が深刻でない国が存在し、かつその国と財や資本の自由な取引きが可能であれば、少子高齢化の影響はかなりの程度緩和される。具体的には、出生率の低下が深刻な国では、

  • (イ)大人一人当たり(per adult)貯蓄と金融資産は、開放経済におけるほうが高くなり、増加した貯蓄は、外国へ投資される。
  • (ロ)為替レートは増価するため、交易条件が改善する。その結果、海外からの輸入が増加する。
  • (ハ)純投資所得受取りは貿易赤字を相殺する以上増加するため、対外純資産が積み上がる。
  • (ニ)出生率低下が世界の他の国以上のペースで進行する場合には、人口規模、GDP、マクロの消費が世界のそれに占めるウェイトが縮小し、世界での影響力が低下する恐れがある。
  • (ホ)マクロ経済への効果から考えると、均衡年金財政制度が赤字を生み出す年金制度より貯蓄率を高めるため望ましい。また、政府の財政赤字を蓄積する政策は、資源を将来世代から現役世代へと世代間での再配分を惹起することとなり望ましくはない。

4.むすび

本稿のシミュレーション分析から得られた結論から、

  • (1) もし、自国で高齢化が進行したとしても、海外に自国とは異なる人口変動パターンを持つ国が存在する場合には、国際貿易と国際資本移動を介して、高齢化の経済に与える影響を緩和することができる。ただし、そのためには、自由な貿易と資本移動の環境整備等が必要である。
  • (2) 貯蓄を奨励し、国際資本移動により高齢化のマイナス効果を緩和させる効果(海外取引のクッション効果)を最大限に利用しようとする観点からは、年金部門に赤字を累積させないような年金制度を設計することが望ましい。

とのインプリケーションが得られた。


注 本論文は、内閣府経済社会総合研究所国際共同研究プロジェクト「持続的成長と社会システム改革(社会保障制度改革、財政改革、ITの活用)」に提出された "Demographic Pressures on Public Pension System and Government Budget in Open Economy"を、島澤 諭(内閣府経済社会総合研究所客員研究員)が、本論文の著者であるブライアント博士の許可を得て、要約・邦訳したものである。したがって、詳細および引用等については必ず原論文を参照されたい。

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全文の構成

  1. 1ページ
    要約
  2. 3ページ
    1.はじめに
  3. 5ページ
    2.不均衡年金制度、政府債務と世代間公平
  4. 12ページ
    3.結論
  5. 14ページ
    〔参考文献〕
  6. 23ページ
    図表
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