ESRI Discussion Paper Series No.110
短期日本経済マクロ計量モデルにおけるフォワードルッキングな期待形成の導入の試み

2004年6月
  • 村田 啓子(内閣府経済社会総合研究所企画官)
  • 青木 大樹(内閣府経済社会総合研究所研究官)

要旨

1.問題意識

日本政府、少なくとも内閣府(旧経済企画庁)が過去に公表したマクロモデルでは、過去の経験のみに基づく後ろ向きの期待、言い換えれば、バックワードルッキング型期待形成が標準となっており、期待形成が将来を見越した前向きの性質を有する可能性(フォワードルッキング型期待形成)への取り組みは永年の懸案とされてきた。

合理的期待等、フォワードルッキング型のモデルを用いれば、現在の政策変更や外的ショックのみならず、将来に予想される外的ショックや政策変更が、期待の変化を通じて現在の主体の行動に及ぼす影響の分析も可能となる。つまり、フォワードルッキング型モデルは、政策当局が個別経済主体の反応にも配慮しつつ政策(ルール)の選択を考える際に有益なツールとなる。

そこで、本稿では、一つの試みとして、Hori et al.(2002)にならい、内閣府経済社会総合研究所の短期日本経済マクロ計量モデル(ESRIモデル)にフォワードルッキングな期待形成の要素を導入し、政策シミュレーションを行った。

なお、今回の作業は、ESRIモデルに前向きの期待を部分的に導入し政策の波及メカニズムの相違を確認する試みであり、導かれる数値の絶対水準自体を評価することが目的ではない点に留意を頂きたい。

2.分析手法

まず、現在当研究所が保有する最新のESRIモデルをベースに、期待が特に重要な役割を果たすと考えられる7つの構造方程式にフォワードルッキング変数を導入したモデルを構築した。構築されたモデルは、「合理性」を厳密な意味では貫徹しておらず、暫定的な試みに止まるが、期待形成にフォワードルッキングの要素を取り込んだフォワードルッキング型モデルによる政策シミュレーションの結果を、従来のバックワードルッキングなESRIモデルの政策シミュレーション結果と比較することにより、期待形成の如何が政策効果にもたらす相違の検討が可能となる。

次に、従来当研究所が公表している標準的な財政・金融政策シミュレーションの幾つかを、下記を前提に行った。

  • (1) ポリシールール
     シミュレーションの結果は、財政金融政策の前提(ルール)に依存する。フォワードルッキングな期待形成を導入したモデルでは、財政政策のルールとして財政赤字または累積財政赤字がECVARモデルで求められた均衡解を超えると、税率が調整されるという政策反応関数も導入した。
  • (2) 非予見ケースと予見ケース
     フォワードルッキング型モデルでは、政策などの外的ショックが予め予見されていた場合の効果を分析することが可能となる。そこで、フォワードルッキング型モデルでは、非予見ケースと予見ケースそれぞれについてシミュレーションを行った。

3.分析結果の主要なポイント

主な結果としては、財政支出拡大シミュレーションでは、フォワードルッキング型モデル の方がバックワードルッキング・モデルよりも早く需要拡大効果が減衰する可能性が示された。金融政策シミュレーションでは、金利や為替がフォワードルッキングになることにより、その効果が早期に現れるという傾向が見られた。フォワードルッキング型モデルで政策が予見されていた場合、経済主体は政策を見越して自らの行動を変更するため、政策によっては政策発動に先立ち効果が現れる。また、政策ショックが一時的な場合、フォワードルッキングとバックワードルッキングの結果の差は限定的なものとなり、非予見ケースと予見ケースの差も小さい。

4.むすび

当研究所では、これまでも政策評価分析等の視点から、マクロモデルの研究・開発に努めてきた。当研究所においては、モデルの開発整備に努めるとともに、従来のバックワードモデルの再推定作業も継続し、それらの比較を積み重ねることで、各種政策の有効性等の評価につき、議論の素材を提供していきたい。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1. はじめに
  2. 1ページ
    2. モデルの構造及びシミュレーションの前提
    1. 1ページ
      2.1 フォワードルッキングな期待形成導入の背景
    2. 3ページ
      2.2 短期日本経済マクロ計量モデルの基本構造
    3. 3ページ
      2.3 短期日本経済マクロ計量モデルへのフォワードルッキングな期待の導入
    4. 5ページ
      2.4 シミュレーションの前提
      1. 5ページ
        2.4.1 モデルの解法及び終端条件
      2. 6ページ
        2.4.2 ポリシールール
      3. 7ページ
        2.4.3 非予見ケースと予見ケース
  3. 7ページ
    3. シミュレーション結果
    1. 7ページ
      3.1 財政政策シミュレーション
      1. 7ページ
        3.1.1 実質公的固定資本形成の継続的拡大
      2. 9ページ
        3.1.2 法人所得税減税
    2. 9ページ
      3.2 金融政策シミュレーション
    3. 10ページ
      3.3 一時的ショックと恒久的ショック
      1. 10ページ
        3.3.1 実質公的固定資本形成の一時的拡大
      2. 11ページ
        3.3.2 マネーサプライの一時的縮小
  4. 11ページ
    4. 結論および今後の課題
  5. 12ページ
    参考文献
  6. 付属資料1 短期日本経済マクロ軽量モデルの方程式体系(フォワードルッキング)
  7. 付属資料2 短期日本経済マクロ計量モデルの変数名(フォワードルッキング)
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