ESRI Discussion Paper Series No.114
経済成長と国家間および国内の所得格差

2004年8月
  • 山下 道子(国際協力銀行開発金融研究所特別研究員)

要旨

1.問題意識

世界経済の現状を見ると、東アジア諸国のように急速な経済成長を達成して先進国にキャッチアップした国もあるが、多くの途上国では経済が停滞しており、国家間の所得格差は一様に縮小してはいない。本論文ではこのような(a)「条件付き所得収斂」の理論を念頭に、世界的に見た国家間の所得格差の傾向を分析するとともに、(b1)各国の所得水準と所得不平等度の関係を観察して、いわゆる「クズネッツ仮説」を検証し、さらに(b2)成長率と所得の不平等度との関係を調べ、(b3)所得不平等度が経済成長を促進するか抑制するかについても検討する。

2.目的

21の先進国(ルクセンブルグを除くDAC加盟国)と35の途上国(DAC非加盟国)について、1820~1994年の所得水準(1人当たりGDP)とその成長率の関係を追跡し、所得収斂が起きているかどうかを検証する。また、「クズネッツ仮説」(開発の初期に所得格差は拡大し、発展とともに格差は縮小する)を念頭に、1970~1990年代のそれらの国の国内所得分布(ジニ係数)と所得水準との関係を検討する。さらに、64の途上国について1960~1990年代のクロスカントリー分析を行ない、所得不平等は成長促進的か抑制的かを吟味する。

3.分析手法

1部ではMaddison (1995)のデータをもとに、1820~1994年を5期間に分けて、56カ国の所得水準(対数表示)とその成長率の関係をプロットする。また各国の所得と地域の平均所得との相対比が収斂しているかを見る。一般化最小2乗法(GLS)を用いて各期間の平均成長率を初期所得、人口増加率、地域ダミーで回帰し、初期所得がマイナスの説明力を持つかどうかを調べる。

2部ではDeininger and Squire (1996)のデータと世銀の世界開発指標(WDI)を用いて、1960~1990年代の56カ国の所得とジニ係数の推移をプロットし、ジニ係数が所得の2次曲線または3次曲線で近似されるかどうかを調べる。逆に、所得分布が成長に及ぼす効果を計測するために、64の途上国を対象にツーギャップ・モデルの説明変数にジニ係数を加えてクロスカントリー分析を行ない、国内の所得不平等はその国の成長を促進するか抑制するかを地域別に検証する。

4.結論

  • (1) 56カ国のクロスカントリーで初期所得を説明変数とする成長回帰分析を行うと、1950~1994年の推計期間では有意にマイナスの説明力を持つ。これは所得収斂が広く見られることを示唆するが、初期所得が低いまま「貧困の罠」に陥っている国が多数ある。
  • (2) 1970~1990年代のジニ係数(所得の不平等度)を被説明変数とし、1人当たり所得(ドル価格対数表示)の2次曲線への回帰分析を行うと、3080ドルの所得水準でジニ係数が山になり、クズネッツ仮説と整合的な結果が得られた。
  • (3) 最近、先進国では所得格差が再び広がっているとの指摘があるため1人当たり所得(ドル価格)を3次曲線で近似すると、ジニ係数は3000ドル前後で山、17000ドル前後で谷を描いた。
  • (4) 64の途上国を対象に1990年代のジニ係数を成長率に回帰させると、アジアでは所得の不平等が成長にマイナスの効果を持つ一方、中南米とアフリカではプラスの効果を持った。

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全文の構成

  1. iページ
    (要旨)
  2. iiiページ
    目次
  3. ivページ
    図表目次
  4. 1ページ
    1 国家間の所得分布
  5. 3ページ
    2 国内の所得分布
    1. 3ページ
      2.1 クズネッツ仮説の検証
    2. 4ページ
      2.2 成長は不平等を招くか
    3. 5ページ
      2.3 平等は成長促進的か
  6. 7ページ
    3 まとめと今後の課題化
  7. 9ページ
    図表
  8. 29ページ
    付論:文献展望
    1. 29ページ
      (1) 条件付き所得収斂
    2. 30ページ
      (2) クズネッツ仮説
  9. 32ページ
    参考文献
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