ESRI Discussion Paper Series No.116
資源配分効率から見た戦前期日本の成長と変動

2004年8月
  • 原田 泰(大和総研チーフエコノミスト、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)
  • 佐藤 綾野(早稲田大学政治経済学部研究助手、内閣府経済社会総合研究所部外研究協力者)

要旨

1.問題意識

経済成長は、労働と資本の投入と技術進歩によって実現される。したがって、成長のためには労働と資本の自由な投入が妨げられるような市場の歪みがないこと、技術進歩が活発であることが必要である。このことを戦前期の日本経済について考察したい。

2.目的

戦前期の日本は、長期的な成長を遂げたとともに、昭和恐慌を始めとして大きな経済変動を経験した。この成長と変動については、様々な議論がなされているが、新古典派の成長モデルに基づき、成長と変動がどのような要因によって引き起こされたかを考察した例は少ない。

そこで我々は、新古典派の成長モデルの発想を踏まえ、特に1930年代初の昭和恐慌期に焦点を当てて、成長と変動が全要素生産性の変化によって生じたのか、それとも要素価格の歪みによる資源配分の非効率によるものかを考察する。

3.分析手法

新古典派の成長モデルに基づき、1905年から1940年にかけて、経済データを可能な限り再現できるようなパラメータを選び、資本の限界生産性、労働の限界生産性、オイラー方程式、余暇と消費の代替の状況を推計した。

4.結論

第1に、30年代に着目して、この不況が資源配分の非効率によって生じたか否かを説明することを試みた。すなわち、賃金について、賃金と労働の限界生産性との乖離がなかった場合、労働需要がどれだけ発生し、この需要に応じて労働投入を拡大した場合、所得がどれだけ上昇していたかを試算した。

第2に、このような乖離と乖離を埋めることについてのオイラー方程式、余暇と資本の代替の意味を考察する。労働供給の増大は、余暇と資本の代替のパラメータから考えて効用を大きく削減するものとは考えにくい。

したがって、30年代の不況は、全要素生産性の変化ではなく、賃金という価格の歪みによって労働需要が阻害されたことによると推測される。

第3に、戦前期の全期間にわたって資源配分の非効率と全要素生産性の変動のどちらが経済変動をもたらしたかを考察した。具体的には、賃金と労働の限界生産性の乖離とソロー残差を農業生産、輸出、マネーサプライ、財政支出、物価で説明する式を計測した。結果は、マネーサプライの変動が実質賃金と労働の限界生産性の乖離とソロー残差の変動を引き起こしているとなった。ただし、因果関係は逆であって、景気変動に順応的な金融政策の結果が景気とマネーの連動となっていると主張することは依然として可能である。

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全文の構成

  1. 2ページ
    (要約)
  2. 4ページ
    1.日本経済の新古典派成長モデル
    1. 4ページ
      1.1 新古典派モデル
    2. 4ページ
      1.2 使用データ
    3. 5ページ
      1.3 生産関数の推定結果
    4. 6ページ
      1.4 新古典派モデルにおける4つのfirst-order conditions
  3. 9ページ
    2.実質賃金が労働の限界生産性と等しいと仮定した場合の労働需要および国民生産
    1. 9ページ
      2.1 実質賃金の乖離と労働投入、所得の歪み
    2. 11ページ
      2.2 コブ=ダグラス関数と経験則
  4. 11ページ
    3.企業の限界条件の乖離と家計の限界条件の乖離
  5. 12ページ
    4.乖離と全要素生産性の変化で昭和恐慌を説明できるか
  6. 13ページ
    5.経済変動の要因は何か
    1. 13ページ
      5.1 推計結果
  7. 15ページ
    結論
  8. 16ページ
    参考文献
  9. 17ページ
    図表
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