ESRI Discussion Paper Series No.118
日本の高齢者介護:展望と課題

2004年9月
  • オリビア・ミッチェル(ペンシルヴァニア大学ウォートン校教授)
  • ジョン・ピゴット(ニュー・サウス・ウェールズ大学経済学部教授)
  • 清水谷 諭(一橋大学経済研究所助教授・内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)

要旨

1.趣旨、問題設定

高齢化は世界的に見ても急速に進展している。それに伴って、高齢者人口の増大が医療費や社会サービスコストを大幅に押し上げるのではないかと懸念され、高齢者介護のあり方が重要な政策課題となっている。財政負担に対するインプリケーションが非常に大きいからである。日本もその例外ではない。

本研究では、公的介護保険導入後の日本の高齢者介護の現状を評価し、将来へのインプリケーションを得ることを目的とする。

2.手法

本研究では、まず、よりよい介護サービス制度の構築に有益な要素に注目しながら、日本の高齢者介護システムの現状を評価する。続いて、日本の介護サービス利用とコストの将来予測を行う。さらに、都道府県ごとデータを利用して、要介護認定者数や利用者数の決定要因を探る。最後に、将来直面すると予想される介護サービスの不足に対して、介護保険市場において経済的なインセンティブを活用することを強調し、私的介護保険の可能性を探る。

3.分析結果の主なポイント

  1. 日本では、医療サービスが国民健康保険制度でまかなわれているため、公的介護保険制度は在宅介護により重点を置いている。財源は、所得に応じて強制的に徴収される保険料と租税によってまかなわれている。要介護認定が市区町村に委ねられているのに対し、利用価格は全国ほぼ一律に定められている。在宅介護市場では営利企業の参入が認められているが、施設介護では認められていない。
  2. 日本の介護サービスの利用は将来的に大幅に増加することが見込まれる。この点は、2005年に予定されている改革でも最も重要な課題の1つである。高齢者人口の増加だけでなく、所得や受容能力の増加に伴って、需要が増加し、コストも増大する。現行制度でも需要を抑制する手段はある程度講じられているものの、介護サービスに対して現状のような補助を続けることは高齢者人口の増加以上に、需要を増大させる可能性がある。すでに、施設介護では供給不足による割り当てが発生しており、それが将来さらに広がる可能性が高い。このため、保険料の徴収対象に見直しも含めた改革が必要となる可能性もある。
  3. 日本の介護保険制度では集権的な要素と分権的な要素が混在している。このため、都道府県による違いを平準化する傾向が小さい。地域間の平準化のための政策が実施されているものの、将来的な地域あるいは国全体の需要不足にどのように対応するべきかは明らかでない。本研究では、介護サービス需要が所得と価格に感応的であること、同時に市区町村の裁量の余地が小さいことが示された。この点について、介護サービスの需要と供給、要介護認定とサービスの利用の役割をさらに明確に区別していくことが重要であろう。
  4. 私的介護保険市場はまだ規模は小さいとはいえ、徐々に拡大してきている。そうした保険市場が機能するためには、質や価格に対して利用者が十分な情報を得ることが必要であり、その点で、公的介護保険制度の利用は私的介護保険の購入を容易にすることは間違いない。しかし、私的保険供給者にとって、逆選択の問題を解消しながら利用者を拡大していけるかは明確でない。1つの可能性は、若年労働者に対する企業ベースの保険である。モラルハザードを防ぐために、すでに現在の介護保険制度で導入されている仕組みと調和させていく必要があろう。さらに、公的介護保険では現物給付に限定していることから、私的介護保険で現金給付を行うことも、1つの方策であろう。さらに、リバース・モーゲージの導入も検討していく必要があろう。

4.おわりに

2000年に導入された公的介護保険制度は、2005年春に導入後初めてとなる大きな改革が予定されている。現在の制度はまだ試行錯誤の状況にあるが、将来の介護サービスの需要不足が見込まれる中で、これまでの経験とその評価に照らして、より効率的な制度に改善していく必要があろう。そのためには、さらに実証分析に基づく政策評価の積み重ねが不可欠であろう。

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全文の構成

  1. Abstract
  2. 1ページ
    Defining Long Term Care
  3. 3ページ
    Aged-care Provision in Japan
  4. 8ページ
    Public LTC Service Utilization and Cost Projections
  5. 10ページ
    Regional Differences in Dependency, Capacity, Utilization and Costs
  6. 13ページ
    Multivariate Analysis
  7. 15ページ
    Socially versus Privately-Provided LTC: The Arguments
  8. 17ページ
    Prospects for Private LTC Insurance in Japan
  9. 22ページ
    Potential Policy Responses
  10. 26ページ
    Conclusions and Directions for Future Research
  11. 28ページ
    Bibliography
  12. 32ページ
    Table, Figure
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