ESRI Discussion Paper Series No.120
昭和恐慌期のマネーと銀行貸出は、どちらが重要だったか

2004年10月
  • 原田 泰(大和総研チーフエコノミスト、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)

要旨

1.問題意識

1930年代の世界的大恐慌期において、多くの銀行が破綻するなど、銀行機能が低下し、それが大恐慌をさらに深刻なものとしたという分析はすでに様々になされている。日本においても、昭和恐慌期前後には多くの銀行が破綻し、それが経済に混乱をもたらしたことが様々に指摘されている。しかし、日本の戦間期において、銀行機能の低下が経済に与えた影響について多くの記述的研究はあるが、実証的な研究は必ずしも多くはない。

2.目的

銀行機能の低下が経済に与えた影響について、実証的な方法によって明らかにする。

3.分析手法

1922年から36年の月次データにより、マネーと貸出の生産に与える影響をVARモデル、VECモデルで推計し、マネーと銀行貸出のどちらが生産や物価に有意な影響を与えているかを見る。

4.結論

1922年から36年の月次データにより、マネーと貸出の生産に与える影響をVARモデル、VECモデルで推計したところ、マネーと物価は生産に有意な影響を与えているが、銀行貸出が生産や物価に与える影響はきわめて限られたものだった。これは、コレツキー分解の順序によらず、頑健な結果だった。

銀行貸出が生産に影響と与えるのは、銀行が企業の経営状況について特別な知識を有し、それは債券では代替できない、ないしは代替に大きな制約があるという前提にたっている。ところが、銀行貸出が生産に大きな影響を与えないというのは、そもそも銀行貸出と他の資金調達手段との代替性が低いという前提が間違っているという可能性がある。債券と銀行貸出の間に高い代替性が存在するならば、銀行貸出を通じた金融政策の波及効果は小さいものとなる。

銀行貸出と他の資金調達手段の代替性が低いとすれば、クレディット・チャネルを通じた実体経済への影響があるとしても、マネー・チャネルの影響に比べると小さい。すなわち、銀行の機能低下の経済に与える影響も小さい。しかし、ここで銀行機能としているのは、銀行の情報生産機能であって、銀行の決済機能や預金という資産を保蔵する機能ではない。これは、本稿で貸出と比較しているM1が、銀行の決済機能を表す当座預金のみ(普通預金を含まない)と現金からなるM1であることから当然のことである。すなわち、昭和恐慌前後の経験からすれば、銀行貸出と他の資金調達手段との代替性は高く、預金の保護以上に銀行機能の回復を目指す政策を採用する意味は小さい。

本文のダウンロード

昭和恐慌期のマネーと銀行貸出は、どちらが重要だったか別ウィンドウで開きます。(PDF形式 252 KB)

全文の構成

  1. 2ページ
    (要約)
  2. 3ページ
    はじめに
  3. 3ページ
    1.これまでの研究成果
    1. 3ページ
      1.1 マネー・ビューとクレディット・ビュー
    2. 4ページ
      1.2 日米の実証研究の現状
  4. 5ページ
    2.実証分析
    1. 5ページ
      2.1 VAR モデルによる分析
    2. 9ページ
      2.2 共和分の推計とVECM
  5. 12ページ
    マネーは経済変動の要因か
  6. 12ページ
    結論
  7. 13ページ
    邦文参考文献
  8. 14ページ
    欧文参考文献
  9. 15ページ
    図表
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)