ESRI Discussion Paper Series No.121
高齢化・社会保障負担とマクロ経済
-日本経済中長期展望モデル(Mark I)によるシミュレーション分析-

2004年10月
  • 長谷川 公一(内閣府計量分析室)
  • 堀 雅博(経済社会総合研究所兼計量分析室)
  • 鈴木 智之(内閣府計量分析室)

要旨

1.問題設定、趣旨

日本の経済社会は急速な少子化・高齢化に直面している。また、その下での財政再建や社会保障制度改革は、多くの困難が予想される喫緊の課題となっている。本研究では、そうした課題を正面から取り扱えるツールとしてのマクロ計量モデルを構想し、人口構造の変動、マクロ経済、財政及び社会保障制度の連関を明示的に組み込んだモデルの開発に取り組んだ。

以下では、そうした取組の成果の第一弾として「日本経済中長期展望モデル(Mark I)」の基本構造、及び、その動学基本特性を概説する。また、人口動態及び社会保障水準がマクロ経済に与える影響に関する2つのシミュレーション分析を紹介している。

2.モデルの特徴

「日本経済中長期展望モデル(Mark I)」は、我が国経済にかかる中長期展望作業に資することを目的に開発された時系列推定パラメータ型のマクロ計量経済モデルである。

その特徴の一つは、人口変動が供給サイドから長期成長経路に与える影響を明定しつつ、マクロ経済を短期的には需要の多寡により供給力とは乖離して変動しうる均衡調整プロセスとして記述している点にある。需給両面を捉えたこのデュアル構造により、足下から長期経路への移行過程の描写が可能になる他、人口構成や社会保障制度の変化がマクロ経済に与える影響を需要・供給両面から検討できる。

モデルは、人口動態、マクロ経済、財政・社会保障の3つのサブモデルで構成されており、人口構成の変動や社会保障制度の変更がマクロ経済に与える影響の経路(フィードバック経路)を明定している点にも特徴がある。

3.シミュレーション結果

少子・高齢化の加速がマクロ経済に与える影響を評価するため、人口が「推計人口」の中位推計で推移した場合を標準ケース 、低位推計で推移した場合を少子・高齢化加速ケースとし、その両ケースの差でマクロ経済にもたらす影響を試算した。その結果、少子化の加速は、供給サイドの制約となるが、それが現れるのは足元の新生児数の変化が労働力人口に反映される2015年以降となることがわかった。一方、需要サイドの変化はより前倒しで見られるが、その影響は軽微である。

社会保障給付・負担がマクロ経済に与える影響については、社会保障の給付・負担が大きなケースと小さなケースを考え、給付・負担の両面で10兆円の差が生じる場合を想定して、その差がマクロ経済にもたらす影響を試算した。その結果、社会保障給付・負担の増加(削減)は、当初、消費を中心に景気浮揚(抑制)効果を持つものの、長い目では、高齢者の労働参加等、供給面に影響し、マクロ経済に抑制的(拡張的)に働くことがわかった。

4.おわりに

21世紀における日本経済の中長期的課題について建設的な議論を行っていくためには、人口構造、マクロ経済、及び財政・社会保障制度の相互関係を把握し、それらが全体としてどのような展望の下にあるかを具体的に描き出すツールが欠かせない。本稿の計量マクロモデルは、そうした問題意識に立って構築された。

日本における少子化・高齢化は当面避け難く、社会保障支出増大圧力の一層の高まりも予想されている。21世紀の日本経済に明るい展望を見出すには、少子化や(経済活力を阻害しない)適正な社会保障水準に関する(定量的評価を含む)更なる議論が必要だろう。本稿のモデルがそうした議論を活性化する一助となれば幸いである。

JEL Classification : C50; E17; H55; J10

Key words : 計量モデル、シミュレーション、社会保障水準、人口動態

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全文の構成

  1. 2ページ
    (要旨)
  2. 5ページ
    目次
  3. 6ページ
    1.はじめに(本稿の目的)
  4. 7ページ
    2.日本経済中長期展望モデル(Mark I)の基本構造
    1. 7ページ
      1.先行モデルとの関係及び本稿モデルの特徴
    2. 9ページ
      2.各サブモデルの概要
    3. 17ページ
      3.モデルの動学特性テスト(基本乗数)
  5. 19ページ
    3.少子・高齢化/社会保障規模がマクロ経済に与える影響に関するシミュレーション
    1. 19ページ
      1.少子・高齢化の加速がマクロ経済に与える影響
    2. 20ページ
      2.社会保障給付・負担の変化がマクロ経済に与える影響
  6. 22ページ
    4.まとめと今後の課題
  7. 24ページ
    参考文献
  8. 26ページ
    付属資料1 日本経済中長期展望モデルの乗数詳細表
  9. 31ページ
    付属資料2 日本経済中長期展望モデルの方程式体系
  10. 65ページ
    付属資料3 日本経済中長期展望モデルの変数名一覧
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