ESRI Discussion Paper Series No.127
企業の組織的・人的業務見直しが情報化の効果に及ぼす影響
-企業規模別・地域別・業種別多重比較-

2005年2月
  • ザキ 彰彦(内閣府経済社会総合研究所客員研究員、九州大学大学院経済学研究院教授)

要旨

I.研究の趣旨

情報化への取組みとその効果に関して、いくつかの先行研究によると、組織改革や人的資源の対応といった業務見直しが盛んな企業ほど情報化の効果が高いという実証結果が得られている。ただし、企業レベルのデータを用いた先行研究では、サンプル数の制約などから、規模別、地域別、業種別といった要因について3水準以上のカテゴリー(例えば、企業規模要因について大企業、中堅企業、中小企業のカテゴリー、地域別要因について北海道から九州までのカテゴリー、産業別要因について業種カテゴリー)に分けた上で詳細な多重比較(カテゴリー相互間の相違分析)を加えた分析はなされていない。

本稿では、平成15年情報処理実態調査(経済産業省)の71調査項目について得られた3141社からの有効回答をもとに、情報化への取組み度、組織改革度、人的資源の対応度、情報化の効果の4項目についてスコア化した上で、企業規模については5カテゴリー、地域については9カテゴリー、業種については27カテゴリーに分類し、(1)カテゴリー相互間にどのような有意差がみられるか、(2)情報化への「取組み度、組織改革度、人的資源の対応度」が高い企業と低い企業ならびに中間企業で「情報化の効果」にどのような差がみられるか、(3)また、それらが規模別、地域別、業種別の企業分布にどう対応しているか、などを明らかにする。

II.分析の方法

本稿では、企業規模、地域、業種のそれぞれについて、3水準以上のカテゴリーに分けた相互比較を行うため、2水準の比較において有意差の検定に用いられるt検定では不十分である。そこで、Games-Howell法による多重比較の検定を行い、例えば、日本を9地域に分類した場合に、どの地域とどの地域の間に有意な差が観察されるか、あるいは、情報化、組織改革、人的対応の複数の組み合わせのどの企業群に有意差があるかなど、多面的な検証を試みる。

はじめに、(1)4つの分析項目それぞれについて、企業規模別、地域別、業種別の多重比較分析を行い、続いて、(2)情報化スコア、組織スコア、人的スコアの3項目について高スコアと低スコアに二分類した上で、「情報化と組織」、「情報化と人的」のマトリクスでそれぞれ4つのカテゴリーに分類し、カテゴリー相互間で情報化の「効果スコア」にどのような有意な差がみられるか、さらに、(3)「情報化と組織と人的」の組み合わせによる8カテゴリー相互間で情報化の「効果スコア」にどのような有意差がみられるかを検証し、その結果に、企業規模別、地域別の企業分布を対応させて分析を掘り下げる。

III.分析結果の主なポイント

企業規模別の多重比較分析を総括すると、情報化の効果については、企業規模別にみて、すべてのカテゴリー間で有意な格差が観察され、大企業ほど効果が高く、中小企業ほど低いという結果がえられた。要因別に掘り下げてみると、小企業と中小企業との間では、情報化への取り組みや組織改革の面で有意差がなかったのに対して、人的対応については、両者間に有意な差(より規模の小さな企業が低い)が観察され、より規模の小さな企業の人的対応の困難さが情報化の効果に影響していると考えられる。

地域別の多重比較分析を総括すると、情報化への取り組みという面では東京一極集中型の特徴がみられるものの、他の地域間には一部を除いて目立った格差は観察されない。さらに、情報化の効果という面では、東京一極集中の度合いも低下し、北日本がやや低い傾向はあるものの、地域間に大きな格差が広がっているとはいえない。

業種別多重比較の結果を総括すると、情報化への取り組み度に関しては、業種間で格差の範囲が広いものの、組織改革や人的対応、情報化の効果については、相対的に格差の範囲が狭い。また、個別の業種では、情報化への取り組み度で情報サービスの高さ際立っている半面、医療の遅れが目立つ。他方、情報化の効果の面では、情報サービスも他産業と有意差はないが教育産業の遅れが目立つことが特徴的である。

情報化、組織改革、人的対応の程度によってカテゴリー分類し、情報化の効果にどのような有意差が生まれているかを多重比較すると、すべてに積極的な取り組みのある企業は高い効果を生んでいるが、いずれかの取り組みが劣る企業は、充分な効果を挙げることができないという結果が得られた。情報化への取り組みが盛んでも組織改革や人的資源への対応が不十分な企業では、情報化への取り組みは遅れていても組織改革か人的対応がしっかりしている企業との間に効果の面で有意差がなく、場合によっては、むしろ有意に低い効果しか得られないこともある。

さらに、この結果を、企業規模別の分布や地域別、業種別の分布にあてはめると、大企業ほど高い効果をもたらすカテゴリーに多く分布し、小企業ほど低い効果しか生まないカテゴリーに多く分布していることが明らかとなった。同様に、地域別の企業分布を重ねてみると、情報化への取り組みが高い企業群は東京都に多く分布しているものの、情報化は低くても高い効果をもたらすようなカテゴリーの企業群は東京都以外に多く分布しているため、情報化で際立っていた東京一極集中が効果の面で薄らぐ結果となっている。

IV.結び.結論

以上、本稿の分析により、情報化が充分な効果を生み出すためには、組織改革や人的資源の対応など業務の見直しが必要不可欠であり、その対応度の違いが規模別、地域別、業種別格差の背景になっていることが明らかとなった。残された分析上の課題は、第一に、情報化への取組み、組織改革、人的対応が情報化の効果に及ぼす影響について、主効果と交互作用に掘り下げた分析、第二に、情報化とその効果について、企業業績や株式市場の企業評価など客観的な指標とアンケート調査の結果とを関連付けた分析である。

キーワード:情報化、組織改革、人的対応、情報化の効果、多重比較、企業規模格差、地域格差、業種間格差、生産性

JELコード:D21, L25, O12

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全文の構成

  1. 2ページ
    〔要約〕
  2. 4ページ
    〔要旨〕
  3. 6ページ
    1.はじめに:本稿の目的
  4. 7ページ
    2.分析の方法とデータ処理
    1. 7ページ
      (1)分析の方法
    2. 8ページ
      (2)4 つの分析項目のスコア化
    3. 9ページ
      (3)3 つの観点からのカテゴリー化
  5. 7ページ
    3.多重比較分析
    1. 10ページ
      (1)企業規模別比較
    2. 11ページ
      (2)地域別比較
    3. 12ページ
      (3)業種別比較
  6. 13ページ
    4.情報化に伴う組織改革・人的対応と情報化の効果
    1. 13ページ
      (1)二元配置(情報化と組織、情報化と人的)による多重比較
    2. 13ページ
      (2)三元配置(情報化と組織と人的)による多重比較
  7. 16ページ
    5.企業財務データとのリンクによる分析
  8. 19ページ
    6.おわりに:まとめと課題
  9. 17ページ
    〔参考文献一覧〕
  10. 18ページ
    〔補論〕スコア化の手順について
  11. 22ページ
    図表
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