ESRI Discussion Paper Series No.129
1990年代におけるSNAベースの所得・資産分布

2005年3月
  • 浜田 浩児(内閣府経済社会総合研究所情報研究交流部長)

要旨

I.趣旨

国民経済計算の国際基準である93SNAは、家計勘定について所得規模等による内訳部門分割を提示している。SNAは、所得・資産等について、客観的かつマクロ統計と整合的な概念を提供するものであり、所得、資産・負債、再評価損益等を家計勘定の中に体系的に位置付け、結びつけて分析できる。このため、全世帯計が国民経済計算(SNA)の家計勘定に見合う分布統計(家計の所得・資産階層等による内訳部門別の統計)を作成することは、重要な課題である。

分布統計に関しては、最近時点(1994年、1999年)についての93SNAに基づく推計を以前行ったが、本稿では、1989年についての93SNAに基づく分布統計の遡及推計を行うとともに、分布統計に基づいて所得、資産等の分布を分析した。

II.推計範囲及び推計手法

分布統計の遡及推計は、国民経済計算の国際基準である93SNAに基づき、1989年の家計勘定(所得支出勘定、貸借対照表勘定、再評価勘定)について、世帯の所得・資産、世帯主の職業、産業、勤め先企業規模、年齢、世帯人員、有業人員、住宅の所有の別に推計した。持ち家の帰属家賃、雇主の強制的現実社会負担(社会保険料)等の帰属計算項目(金銭的な受払は行われないがそれと同様の実態があるため、金銭的な受払が行われたとみなして擬制的な取引計上を行う項目)も、できる限り含めて推計した。

推計手法は、総務省「全国消費実態調査」の個票を主な基礎統計とし、他の統計やSNAの家計部門の計数も利用した加工推計によった。

III.推計結果の主要なポイント

1.1989年の分布統計の集計値とSNAとの開差率は、所得、貯蓄、正味資産でおおむね5%程度と小さく、内訳項目でもおおむね10%程度以下である。このように、分布統計の推計結果は、集計値がSNAに近いものとなっている。

2.推計結果に基づき、所得・資産分布を見ると、

  • (1) 1999年は主に賃金・俸給の格差拡大から、第1次所得(生産に貢献した結果として受け取る所得)の格差が1989年より拡大した。これに対し、可処分所得の格差は低下している。これは、現金による社会保障給付(公的年金等)と強制的現実社会負担(社会保険料)の所得再分配効果が高まったためである。
  • (2) 1999年は正味資産の格差が1989年より縮小した。これについては、有形非生産資産(土地)が正味資産格差の縮小に寄与したのに対し、預金を中心とした金融資産が主にウェイト(正味資産に対する構成比)の上昇により正味資産格差の拡大に働いている。

IV.結び

以上のように、93SNAに基づく家計勘定について、1989年の所得支出、資産・負債等の分布統計を推計し、集計値が国民経済計算に近い推計結果が得られた。

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全文の構成

  1. 1ページ
    (要旨)
  2. 5ページ
    はじめに
  3. 6ページ
    I 分布統計の推計範囲・推計方法
    1. 6ページ
      1.分布統計の推計範囲-SNAとの相違-
    2. 7ページ
      2.分布統計の推計方法
  4. 8ページ
    II 分布統計の推計結果
    1. 8ページ
      1.分布統計集計値のSNAとの比較
    2. 10ページ
      2.世帯属性別分布統計
  5. 13ページ
    III 国民経済計算(SNA)ベースの所得・資産分布-分布統計に基づく分析
    1. 13ページ
      1.所得・資産格差の状況と要因
    2. 15ページ
      2.世帯単位との比較
    3. 16ページ
      3.先行研究との比較
  6. 17ページ
    結論
  7. 19ページ
    (付1)準ジニ係数について
  8. 20ページ
    (付2)等価尺度(equivalence scale)について
  9. 22ページ
  10. 54ページ
    (補論) 1990年代におけるSNAベースの再評価損益の分布
    1. 54ページ
      はじめに
    2. 54ページ
      I 分布統計の推計範囲・推計方法
    3. 55ページ
      II 分布統計の推計結果
    4. 57ページ
      III 所得・資産格差に対する再評価損益の寄与
    5. 60ページ
      結論
    6. 61ページ
  11. 70ページ
    (参考文献)
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