ESRI Discussion Paper Series No.131
流通マージンとGDP

2005年3月
  • 鈴木 英之(日本政策投資銀行地域政策研究センター主任研究員、前内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

要旨

1.研究の趣旨

GDPデフレータの下落幅が拡大しており、特に1999年以降下落幅拡大の背景として、流通部門の影響が指摘されている。本稿は、(1)流通マージン率の変動がGDPデフレータ、実質GDPに与えている影響を検討した上で、(2)こうした流通マージン率と90年代後半以降の流通構造の変化との関係、(3)国民経済計算の推計方法との関係について論じている。

2.分析手法

国民経済計算の付表「財貨・サービスの供給と需要」(実質値は『季刊国民経済計算』で公表)から得られる商品の購入者価格と、付帯統計『SNA産業連関表』から得られる商品の生産者価格から流通マージン率を算出し、流通マージンの量的変化がGDPデフレータ、実質GDPに与えている影響を検討している。また、流通マージン率の変動と流通構造変化と関係については、効用をベースにした関数論的アプローチから検討している。さらに、流通マージン率の量的変化と国民経済計算の推計方法との関係では、コモディティ・フロー法とデフレータ推計法の関係について検討している。

3.分析結果のポイント

(1)の流通マージン率については、98~2000年にかけて経済全体として量的に低下した後、2000~02年には最終需要部門で量的に上昇する一方、中間需要部門では量的に低下していることを示し、1)こうした流通マージンの量的変化が、99年以降、中間需要と最終需要部門での流通マージンデフレータの非対称な動きをもたらし、GDPデフレータの下落幅拡大の要因となっていることを指摘するとともに、2)最終需要部門での流通マージンの量的増加が、実質GDPに与えている影響を試算している。

(2)の90年代後半以降の流通構造の変化については、流通マージンの量的変化は、短期的には生じにくいものであることを指摘した上で、価格破壊の広がりと深化、Eコマースの急拡大について検討し、1) これらの変化は、最終需要部門での流通マージン率の動きを説明する要因となっても、中間需要部門での2000年以降の名目マージン率と実質マージン率の動きを整合的に説明することが困難であること、2) 卸売業の集約化により流通経路が短縮化してきており、基礎統計の企業別マージン率から品目別マージン率への調整が適切に行われないと、国民経済計算や産業連関表の流通マージン率に影響が出ること、を指摘している。

(3)の国民経済計算の推計方法との関係については、流通マージンの量的変化は、コモディティ・フロー法とデフレータ推計の両者に関わっていることを、先ず指摘している。すなわち、流通マージン率はコモディティ・フロー法で推計されているが、一方で、流通マージンは生産者価格と購入者価格の差であり、これらの価格はデフレータ推計で推計されている。流通マージンの量的変化は名目流通マージン率と相対価格との関係から生じる変化であり、国民経済計算の推計方法の観点からは、こうしたコモディティ・フロー法とデフレータ推計の接点から生じている。次いで、需要項目間で、相対価格指数の動きが異なる中で、マージン率の動きは似通ったものになっていることを示した上で、1) マージンの品目別、需要項目別配分が余り機能しておらず、中間年次の品目別マージンのデータ不足を反映しているように見られること、2) 中間需要デフレータが(産出-最終需要)で推計されていることの影響が出ているように見られることを指摘している。

4.結び、結論

流通構造の変化の中で、流通マージン率の把握が難しくなっている。一方、国民経済計算については、支出推計の中では中間年次の流通マージン率の品目別推計、デフレータ推計の中では中間需要デフレータが、最も難しい部分と考えられる。

以上を踏まえ、国民経済計算の推計については、流通マージン率とデフレータと深い関係を持っていることを認識し、1)流通構造変化の中で難しくなっている流通マージン率の推計に、相対価格の動向を参考にする、2)デフレータ推計の中で基礎統計が弱い中間需要デフレータについては、流通マージン率の動向を参考にする、等の工夫を行うことを提案している。参考として、流通マージンの量的変化がない場合の経済成長率を推計していくことも有益と考えられる。

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全文の構成

  1. 2ページ
    はじめに
  2. 3ページ
    1.流通マージンの変動とその影響
    1. 4ページ
      1.1 流通マージンの量的な変化
    2. 6ページ
      1.2 流通マージンデフレータへの影響
    3. 8ページ
      1.3 実質GDPへの影響
  3. 13ページ
    2.流通構造の変化と流通マージン率
    1. 13ページ
      2.1 流通構造の変化
    2. 14ページ
      2.2 流通マージン率へのインプリケーション
    3. 15ページ
      2.3 企業別マージン率と品目別マージン率
  4. 20ページ
    3.個々の品目の流通マージンの量的変化とSNA 推計方法
    1. 20ページ
      3.1 個々の品目の流通マージンの量的変化
    2. 23ページ
      3.2 SNA 推計方法との関係
  5. 26ページ
    おわりに
  6. 28ページ
    参考文献
  7. 28ページ
    参考URL
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