ESRI Discussion Paper Series No.133
デフレ下の物価期待と消費
-家計データによる検証-

2005年4月
  • 堀 雅博(前内閣府経済社会総合研究所主任研究官)
  • 清水谷 諭(一橋大学経済研究所助教授・内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)

要旨

1.趣旨、問題設定

論文は、「国民生活モニター調査」の個票を用いてデフレ期待やその形成要因、家計消費への影響を分析した"What Changes Deflationary Expectations? Evidence from Japanese Household-level Data"(内閣府経済社会総合研究所ディスカッションペーパー No.65)を改訂し、データを2004年第1四半期まで3四半期分延長し、推計方法にも改善を加えたものである。足下の物価動向を見ると、デフレ脱却の兆しも伺われるが、その懸念が完全に払拭されたという状況にはまだない。その際、物価期待が現在どの程度なのか、金融政策や他の外的ショックによって物価期待がどの程度変化しうるのか、それが家計消費に対してどのような影響を及ぼすのかについては、政策当局者やマクロ経済の研究者にとって依然として重要な課題であることに変わりない。本論文は、2004年第1四半期までの最新のデータで、家計のもつ定量的なインフレ期待を計測、その決定要因、家計消費への影響について、解明を試みる。

2.目的及び分析手法

本論文では、内閣府国民生活局が四半期ベースで行っている「国民生活モニター調査」の個票データを活用する。データの期間は2001年第2四半期から2004年第1四半期までである。この調査では、家計の詳細な属性データに加えて、それぞれの家計に対して、過去1年間の物価、消費、所得の変化についての認識、今後1年間の物価、消費、所得などがどの程度変化するのかについての予想について定量的に質問している。

本論文では、この独自のデータセットを用いて、(1)家計の持つ物価期待がどの程度か、(2)物価期待はどのような要因で決定されるのか、(3)物価期待は家計消費にどのような影響を及ぼすのかについて、定量的な解析を行う。

3.分析結果の主なポイント

家計の物価上昇率期待を直接尋ねたモニターの集計結果に基づけば、平均期待物価上昇率は2001年以降、2002年中まで概ねマイナス0.5%から0%の間にあったが、2003年第1四半期にプラス1%まで跳ね上がった。第2四半期にはいったん0.2%程度まで低下したものの、その後上昇し、2004年第1四半期には0.8%となった。また、物価期待がマイナス(デフレ期待)の場合には、家計消費を抑制する効果があり、その影響は耐久財の消費を減らしたり延期したりするという行動に特に顕著に現れていた。

また、そうした影響をもたらす物価上昇率(インフレ/デフレ)期待は、過去の期待をベースに、足下の物価動向及び経済状況を反映して形成されている。2001年以後の量的緩和等の金融政策や日銀総裁の交代などは、マクロベースで見たデフレ期待を反転させるほどの効果を持ち得なかった。2003年第1四半期の物価期待の「ジャンプ」はイラク戦争への反応によるもので、累次の量的緩和策等にはそれに匹敵する効果は見出せない。

4.結び

本論文の検証からは、物価期待は2003年第1四半期にいったんジャンプしてもとの水準に戻った後は、着実に上昇していることがわかった。その意味では、家計のもつデフレ期待は払拭されつつあるといってよい。今後の課題としては、何がデフレ期待の解消をもたらしたのかをより丁寧に分析する必要があろう。特に政策要因による影響については、金融政策によってインフレ期待を修正した家計の割合は、イラク戦争などの場合と比べて明らかに小さいものの、影響を受けた家計で見たインフレ期待への影響度は、テロ、イラク戦争などの外生的要因も金融政策もそれほど大きく変わらない。こうした政策効果の影響の及ぼした影響やその経路について、さらに詳細に分析することで、より明確な政策的インプリケーションが明らかとなろう。

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全文の構成

  1. Abstract
  2. 1ページ
    1. INTRODUCTION
  3. 3ページ
    2. PRICE EXPECTATION MEASURES IN JAPAN
  4. 4ページ
    3. DATA
  5. 5ページ
    4. AVERAGE PRICE EXPECTATIONS AMONG JAPANESE HOUSEHOLDS
  6. 7ページ
    5. THE FACTORS THAT AFFECT PRICE EXPECTATIONS
  7. 12ページ
    6. THE EFFECT OF DEFLATIONARY EXPECTATIONS ON CONSUMPTION
  8. 15ページ
    7. CONCLUSION
  9. 16ページ
    REFERENCES
  10. Figures
  11. Tables
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