ESRI Discussion Paper Series No.136
日本企業の雇用調整手段とコーポレート・ガバナンス
ステークホルダーモデルによる検証

2005年4月
  • 阿部 修人(一橋大学経済研究所助教授)
  • 清水谷 諭(一橋大学経済研究所助教授)

要旨

1.趣旨、問題設定

日本企業のコーポレートガバナンスは、終身雇用制に代表されるように、従業員重視型と特徴付けられてきた。しかし90年代以後こうした伝統的なコーポレートガバナンスは大きく変容しつつある。長期の低成長と戦後最高水準の失業率のもとで、企業の雇用リストラ圧力が高まり、これまで内部出身者や銀行出身者が太宗を占めていた取締役会でも、外部取締役の比率が上昇してきている。

本研究では、取締役会の構成変化が企業の雇用調整手段(リストラ手段)に与える影響を、日本の上場会社について、企業レベルの包括的なデータで定量的に検証する。

2.手法

本論文では、企業の雇用調整手段とコーポレートガバナンスを包括的に検証するため、(1)企業経営者の雇用過剰感、(2)取締役会の構成、(3)雇用調整手段(リストラ手段)さらに(4)財務データを企業レベルで結合させた。主なデータソースは内閣府「企業活動に関するアンケート調査」(2001年度調査)、日本経済新聞社「役員四季報」などである。こうしたデータセットの構築によって、これまでの先行研究が検証し得なかった取締役構成とリストラ手段の関係を直接的に明らかにすることが可能となる。

具体的には、90年代以後の上場企業の取締役会構成がどのように変化してきたのかを概観し、取締役会構成の違い(内部取締役あるいは外部取締役の比率の違い)が実際に採用される雇用調整手段の違いに与える影響を、多項プロビットモデルで推定する。

3.分析結果の主なポイント

実証分析の結果、いくつかの興味深い点が明らかになった。

  • (1)日本の上場企業の取締役会構成をみると、90年代には外部取締役のシェアが上昇している。
  • (2)取締役会の構成は雇用調整手段に有意な影響を与える。すなわち、雇用過剰感を抱える企業では、外部出身取締役の比率が高いほど、一時休業の拡大、早期退職の優遇、希望退職者の募集を行う傾向にある。逆に、内部出身者の比率が高いほど、新規採用者数の削減を行い、現在雇用されている労働者の利益を守ろうとする傾向にある。

4.おわりに

以上のように、日本の上場企業は、単純な利潤最大化行動をとっているというよりもむしろ、内部出身者が優勢な場合、株主や新規採用者を犠牲にしてもむしろ現在雇用されている労働者の利益を守ろうとする傾向にあることがわかった。これは、伝統的な日本企業では、いわゆるステークホルダーモデルのあてはまりの方がすぐれていることを示している。今後の課題としては、雇用調整だけでなく、資本の調整も視野に入れ、取締役会の構成が資本・労働の調整に与える影響を明らかにしていく必要があろう。さらに、取締役会の構成自体の決定要因についても、検証を深めていくことが不可欠である。

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全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1. Introduction
  3. 5ページ
    2. Changing Composition of Board Members and Employment Size
  4. 7ページ
    3. Description of the Data
  5. 10ページ
    4. How Does Measure of Downsizing Depends on Board Composition?
  6. 14ページ
    5. Conclusion and Future Research
  7. 16ページ
    (References)
  8. Tables
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