ESRI Discussion Paper Series No.137
金融システム不安定化による信用乗数の低下

2005年5月
  • 小林 慶一郎(経済産業研究所研究員)

要旨

1.研究の趣旨

1990年代の長期不況とデフレーションの因果関係を考察する上で、信用乗数がなぜ低下したのか、という問題は重要である。日本銀行による金融緩和政策の継続にもかかわらずデフレが解消しないという現象は、マネタリーベースの供給増加に比べて、マネーサプライ(M2)の増加の率が低下していることにあらわれている。このような信用乗数の低下の原因が解明されれば、デフレの継続の原因、および長期不況とデフレの関連性が明らかになると期待される。本稿では、銀行の不良債権問題が信用乗数の低下を招いたのではないかという仮説に立ち、それを支持する簡単な理論モデルを提示するととともに、VARによる実証分析を行った。

2.分析手法

理論面では、単純化された銀行セクターの理論モデルを用いて、不良債権の蓄積が、信用乗数の低下をもたらすことを理論的に示した。また、銀行破綻懸念が銀行預金の期待収益率を低下させ、非金融部門の現金保有選好を高めた可能性があることを論じた。

実証面では、1983年1月から2004年12月までの期間で、鉱工業生産指数、消費者物価指数、マネーサプライ(M2)、マネタリーベース、コールレート、および銀行株価指数を用いてVARを実施した。銀行の不良債権問題の深刻さを直接計測できないため、不良債権問題による金融システム不安定化を示す代理変数として銀行株価指数を使用した。

3.分析結果のポイント

VARによる実証の結果、銀行株価指数へのネガティブなショックに対するインパルス応答は、マネーサプライが35ヶ月以上にわたってマイナスとなった。IIPのインパルス応答も同様にマイナスとなった。

4.結論

理論的には、不良債権の蓄積が信用乗数の低下を招く可能性があることが示され、実証分析でも、金融システムの不安定化(代理変数である銀行株価の低下)がマネーサプライを低下させることが分かった。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1.はじめに
  2. 2ページ
    2.理論
    1. 3ページ
      2.1 信用乗数が不良債権残高の減少関数となること
    2. 5ページ
      2.2 インターバンク市場や日銀からの流動性供給について
    3. 7ページ
      2.3 信用乗数の低下が、クレジット・クランチを含意しないこと
  3. 8ページ
    3.VARによる実証
  4. 10ページ
    4.デフレ下で、現金が預金より選好される理由は何か
  5. 14ページ
    5.結論
  6. 15ページ
    【参考文献】
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