ESRI Discussion Paper Series No.139
ボーナス制度と家計貯蓄率
-サーベイ・データによる再検証-

2005年5月
  • 清水谷 諭(一橋大学経済研究所助教授)
  • 堀 雅博(内閣府計量分析室企画官兼経済社会総合研究所上席主任研究官付)

要旨

1.問題意識

「他の先進諸国と比較して明瞭に高い」我が国の貯蓄率は、日本経済の高成長及び対外黒字の継続・累増と相俟って、内外のマクロ経済学者の重大関心事項であった(Hayashi [1986]、Horioka [1990]等を参照)。そうした関心にもかかわらず、日本の(高)貯蓄率の要因として提示されてきた諸仮説、例えば、高い成長率、高額の住宅取得費用、低い社会保障水準、人口構成、貯蓄好きの気質、遺産動機等の妥当性について満足すべき実証がなされているとは言い難い。我々の研究の目的は、そうした諸仮説の一つ、ボーナス制度の存在と日本の家計貯蓄率との関係(より具体的には、「ボーナス制度の存在が家計貯蓄を高めている」という説、以下、ボーナス仮説)を再検討することである。

2.手法

本研究では、こうした先行研究の流れを踏まえた上で、90年代以降のミクロ・データ(横断面)を用いたボーナス仮説の検証結果を提示したい。近年の計量経済学の進展や、マクロ貯蓄が個別経済主体の消費・貯蓄選択行動の集計として得られていることを踏まえるなら、ボーナス制度と貯蓄行動の間の因果関係の特定にはミクロ・データでの検証が有益だろう。以下では、金融広報中央委員会が毎年行っている世論調査の個票データを用い、貯蓄率に影響を与えそうな種々の世帯属性をコントロールした上で、ボーナス受領の如何が世帯貯蓄率を有意に高めているか否かを検証する回帰分析を行っている。

3.分析結果

実証分析の結果わかった事実は以下の通りである。

  • (1) 個票データを見る限り、ボーナス受領世帯の平均貯蓄率は非受領世帯より高い。
  • (2) 複数要因をコントロールした上で、貯蓄率をボーナス受領ダミーに単純回帰すると、先行研究と整合的なプラスの係数、つまりボーナスを受け取った世帯ほど、貯蓄率が高いという結果になる。この結果は、ボーナスの受け取りと貯蓄率の同時性に一定の配慮をしても変わらず確認できる。
  • (3) (2)までの結果は、ボーナスを受け取っていない世帯の貯蓄率がゼロないしマイナスの世帯が不均等に多いという事実に依拠している。
    ボーナス仮説の評価は、(3)で指摘した現象がボーナスから貯蓄行動への因果により生じていると考えるか、それとも逆方向の因果、ないし両者に作用する第3の要因があると考えるかに依存する。本研究が示す材料だけでこの判断を下すことは難しいが、少なくともボーナス仮説の検証には、多くの先行研究が試みているマクロ時系列分析だけでは難しいことがわかった。

4.終わりに

ボーナス仮説の妥当性を最終的に検証するためには、今後、より精緻に設計されたミクロ・データでの検証が求められる。しかも、ボーナスのある職業に就く人間とボーナスのない職業に就く人間では本来属性が異なっており、その属性の違いが貯蓄率の違いを生み出している可能性まで考えると、ボーナス仮説(制度の存在が貯蓄率を押し上げるか否か)の厳密な検証は横断面データでは行い得ず、同一人を複数時点繰り返し観察したパネルデータが不可欠になる。更に、ボーナス仮説の厳密な検証には、同一人物が、ボーナスを受ける環境と受けない環境の両方を体験する標本が欠かせない。こうしたデータの蓄積が進み、家計貯蓄率の決定に関する一層の研究が進められることが期待される。

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全文の構成

  1. 1ページ
    要旨
  2. 3ページ
    1. はじめに
  3. 4ページ
    2.「家計の金融資産に関する世論調査」と利用データ
  4. 7ページ
    3. 推定モデルと推定結果
    1. 7ページ
      3.1 貯蓄率に影響する諸要因(コントロール変数)
    2. 9ページ
      3.2 ボーナス仮説
    3. 11ページ
      3.3 基本モデル定式化
    4. 12ページ
      3.4 推定結果
    5. 14ページ
      3.5 逆因果の可能性
  5. 15ページ
    4.終わりに
  6. 17ページ
    参考文献
  7. 図表
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