ESRI Discussion Paper Series No.142
GDP・物価の国際原油価格弾力性とその変遷

2005年5月
  • 前田 章(京都大学大学院助教授・内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)

要旨

1.趣旨

原油価格高騰による景気への悪影響が懸念される中、多くの研究機関が原油価格高騰による実質GDP押し下げ効果を算定している。なかでも、国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば国際原油価格が25ドル/バレルから40%上昇した場合、米国GDPは0.3%、日本では0.4%、ユーロ圏では0.5%減少するとされる。このIEA試算結果は、国内外のメディアでも広く引用されて、原油価格高騰の景気への影響を議論する際のベンチマークになっている。

IEAの試算は大規模コンピュータモデルによるシミュレーションであるが、計算結果を左右するパラメータの設定等モデルの細部は十分には公開されていない。たとえ公開されていたとしても大規模モデルの中身というものは部外者にとっては極めてわかりにくい、いわばブラックボックスである。計算結果のみが一人歩きし、各国政府の政策形成に影響を及ぼすような状態はあまり健全な状態とは言えない。ではもう少し計算の中身がわかる形で同様の試算ができるかというと、確かになかなか容易ではない。実証分析研究なども数多くなされているが、そうした研究では原油価格上昇がGDPを押し下げるという定性的な点では一致しているものの、その定量的な値については大きく幅があり、とてもコンセンサスが出来上がっているとはいえない。

こうした状況の背景にあるのは、そもそも原油価格とマクロ経済の定量的な関係は何によって決定付けられるか、という、より本質的な疑問を理論的に十分につめた研究がほとんどないということである。そこで本研究では、実質GDPおよび物価の国際原油価格に対する弾力性とその歴史的推移を理論分析し、これを通して各国経済の原油に対する脆弱性を考察する。

2.手法

最終消費財生産部門、エネルギー変換(石油精製)部門、原油生産部門の三つの部門から成り、原油を唯一の貿易財とする、簡略化された経済体系を考える。国際原油市場が十分に競争的で、国内での生産構造が効率的であると仮定する。ミクロ経済理論に基づいた解析を行い、理論式を導出する。

これらの理論式の真の強みは、価格弾力性の歴史的推移を容易に算定できることである。これを通して、原油価格とマクロ経済の関係が1970年以降どのように変化してきたか、明確に把握することができる。

3.結果

実質GDPの国際原油(実質)価格弾力性の絶対値は、名目GDPに占める原油純輸入金額の割合として算定される。さらに、国内での価格転嫁が完全になされる場合、国内消費者物価の国際原油価格弾力性は、[名目GDP+原油純輸入金額]に対する原油粗輸入金額の割合として算定される。

理論式による実質GDP押し下げ効果の計算値は、IEAの計算値とほぼ一致する。また、価格弾力性の歴史的推移からうかがえる原油価格と各国マクロ経済の関係は次のようにまとめられる。

  • 実質GDPの原油価格弾力性および国内消費者物価の原油価格弾力性は、先進国では80年代後半まで大きく変動していたが、それ以降はほぼ安定して低い値を保っている。原油の影響の受け易さ(脆弱性)は、70年代に比して大幅に低下しており、過去15年以上ほとんど変わっていない。脱石油・省エネルギー政策が功を奏してきたと解釈することもできる。
  • 先進各国の中で、日本は他国に比してはるかに原油に対して脆弱性の低い経済となっている。原油価格が125ドル/バレル程度以上にならない限り、第1次石油ショックと同程度の影響が発生することはありえない。
  • 中国は今世紀に入ってから急速に原油に対して脆弱な経済に変性してきた。近年の急速な経済発展と貿易構造の変化が反映されていると推察される。

4.結び

GDPや物価の原油価格弾力性を理論的に論じた文献は、他に例がない。もちろん、こうした理論式は前提によってその適用範囲が限定されていることは否めないが、原油に対する各国経済の脆弱性とその経年変化を概算し比較するには十分である。大規模コンピュータシミュレーションより仮定・前提がわかりやすく、政策形成の場に有用な情報を提供することができる。

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全文の構成

  1. 1ページ
    要旨
  2. 4ページ
    1.はじめに
  3. 6ページ
    2.モデル
  4. 7ページ
    3.理論分析
    1. 7ページ
      3.1 実質GDP の価格弾力性
    2. 8ページ
      3.2 消費者物価の価格弾力性
    3. 10ページ
      3.3 公式の意味合い
  5. 11ページ
    4.数量分析
    1. 11ページ
      4.1 実質GDP への影響の算定
    2. 12ページ
      4.2 消費者物価への影響の算定
    3. 13ページ
      4.3 価格上昇の許容範囲
  6. 14ページ
    5.おわりに
  7. 15ページ
    補遺:石油価格とマクロ経済の研究の流れ
  8. 25ページ
    文献
  9. 28ページ
    図表
  10. 32ページ
    注釈)
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