ESRI Discussion Paper Series No.143
デフレ期待・銀行機能問題と信用乗数の低下

2005年5月
  • 飯田 泰之(駒澤大学経済学部)

要旨

1.問題意識

バブル崩壊以降、現在に至るまで、信用乗数は継続的な低下傾向にあり、2000年以降さらにその傾向は加速している。これをうけて信用乗数が低下しているため金融政策が困難な状況にあるとの指摘がなされることが多い。これからの金融政策を考える上では、現在まで続く信用乗数の低下要因について、整理された知識が必要であると言える。

2.目的

金融政策の有効性を巡る議論に基礎を与える信用乗数の決定要因に関し、銀行機能低下原因説、デフレ期待要因説という2つの代表的な仮説を念頭にデータによる検証を行いたい。

3.分析手法

90年代の緩やかな信用乗数低下傾向について、主にデフレ期待説を中心とした検証を行う。その結果、リカーシブなVARモデル、構造型VARモデルを用いたインパルス応答関数を観察することで、デフレ期待から信用乗数への有意な影響を確認した。一方、2000年以降の信用乗数の急落に関して、銀行財務データを用いることで不良債権説の説明力が薄いことを示し、ついで代替的な仮説を提示した。

4.結論

第一に寄与度分解により、90年代には非金融部門の現預金比率上昇が2000年代の信用乗数低下は銀行の超過準備保有が信用乗数の低下要因であることが確認された。第二に、デフレ期待と信用乗数の関係をVARモデルによって検証したところ、バブル以降の日本経済において期待インフレ率は有意に信用乗数を説明していることがわかった。第三に、不良債権と信用乗数の関係について銀行の財務データを用いて検証を行ったところ、不良債権仮説とは矛盾する事実が多いことがわかった。以上より、信用乗数の低下原因のひとつとしてデフレ期待が重要な役割を持つことが改めて整理された。デフレ期待と金融政策姿勢には密接な関係がある。したがって、信用乗数の低下は金融政策の不可能性を示すものではなく、むしろ、金融政策が十分適切な形で行われていないことの一つの傍証であると考えられる。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1.はじめに
  2. 2ページ
    2. 信用乗数の説明仮説について
  3. 4ページ
    3. 非金融部門現預金比率と信用乗数
    1. 4ページ
      3.1.仮説
    2. 6ページ
      3.2.実証的検討
  4. 12ページ
    4. 超過準備問題と信用乗数の低下
    1. 12ページ
      4.1.仮説
    2. 12ページ
      4.2.データ観察による検証
    3. 15ページ
      4.3.代替的な仮説について
  5. 16ページ
    5.結論
  6. 28ページ
    参考文献
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