ESRI Discussion Paper Series No.148
在宅介護サービス市場における供給者誘発需要仮説:
要介護者世帯調査による検証

2005年6月
  • 野口 晴子(東洋英和女学院大学国際社会学部助教授)
  • 清水谷 諭(一橋大学経済研究所助教授)

要旨

1.問題設定、趣旨

2000年の公的介護保険導入後、認定者数や受給者数は順調に増加し、介護費用も増加傾向にある。今後も急速な高齢化の進展に伴い介護費用の高騰は避けられない。こうした介護費用の増加には、潜在的な介護サービス需要が顕在化したと同時に、参入業者の増加により、過剰な介護サービス供給が行われている可能性も否定できない。医療経済学の分野では、医者が情報の非対称性を利用して、不必要なサービスを供給し、所得補填を行うという「供給者誘発需要仮説」が提唱され、多くの実証研究が蓄積されている。

本論文では、訪問介護サービスの供給者密度と介護費用との関係に注目し、在宅サービスにおける供給者誘発需要の有無について、ミクロデータを用いた検証を行った。

2.分析内容と主な結果

本論文では、内閣府が要介護者を抱える世帯に対して独自に実施した「高齢者の介護利用状況に関するアンケート調査」(2002 年及び2003年)のミクロデータを活用する。さらにデータで明らかなそれぞれの世帯の居住地域(都道府県)における供給者密度をマッチングさせた。

推定方法としては、介護サービス供給者、特にケアマネージャー主導による需要(供給者誘発需要)と需要者自身の主体的な需要とを区別するため、それぞれの世帯が介護サービスを受ける確率及び一人当たりの介護コストに分ける2段階モデル(two-phase model)を用いる。さまざまな要介護者の属性(年齢、要介護度及びその時間的推移、副疾患の有無、所得や資産など)を調整すると、供給者密度の係数は統計的に有意でなく、在宅サービス市場では、供給者誘発需要は認められなかった。さらに、営利主体の比率も両者に対して有意な効果はみられなかった。

3.今後の課題

本論文の実証結果によると、日本の在宅介護サービス市場では供給者誘発需要はほとんど認められなかった。急性心筋梗塞における高度医療と薬物医療の比較において、高度医療により大きな供給者誘発需要を見出したNoguchi, Shimizutani and Masuda (ESRI Discussion Paper Series No147)と比較すると、在宅介護サービス市場では情報の非対称性がさほど深刻ではなく、需要者側も介護サービスに対して多くの知識と情報を持っており、供給者が需要を刺激するということが難しい状況にあることを示している。現在の公的介護保険制度では、介護サービスの利用に当たってケアマネージャーに大きな役割が期待されている。ケアマネージャーの規律をさらに高めていくことによって、こうした供給サイドのモラルハザードを最小化していくことが重要だろう。

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在宅介護サービス市場における供給者誘発需要仮説: 要介護者世帯調査による検証(PDF形式 132 KB)

全文の構成

  1. 1ページ
    Abstract
  2. 2ページ
    1. Introduction
  3. 5ページ
    2. Previous Studies
  4. 7ページ
    3. The At-home Elderly Care Market in Japan
  5. 8ページ
    4. Description of the Data
  6. 12ページ
    5. Specification and Estimation
  7. 14ページ
    6. Conclusion and Policy Implications
  8. 15ページ
    References
  9. Figures & Tables
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