ESRI Discussion Paper Series No.151
預金者は金融機関をリスク要因により選別しているか
-ミクロデータによる業態別比較

2005年7月
  • 堀 雅博(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官付兼内閣府計量分析室企画)
  • 伊藤 靖晃(内閣府経済社会総合研究所景気統計部事務官)
  • 村田 啓子(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

要旨

1.問題意識

90年代は、日本の金融行政スタイルが、政府による規律(いわゆる護送船団方式)から、市場による規律へと大きく転換した時期といえる。この新方式が有効に機能するための鍵の一つが預金者による市場規律(depositor discipline)の有効性である。預金者が金融機関の健全性を的確に評価し、金融機関の選別を行っていれば、経営に難のある金融機関に対しては高い預金金利を求めたり、あるいは預金をより安全な金融機関に預け替えたりすることになり、それにより、金融機関は経営健全化に努めるというメカニズムが働く。すなわち、預金者の規律づけが、政府の監督・規制を一部代替・補完し、金融機関の健全経営を促す上で重要な役割を担う。

本研究では、先行研究も踏まえつつ、業態別比較を行うという観点から都銀、地銀、信金・信組の財務諸表データを統合し、検証を行うとともに、預金者の金融機関に対する感応度(構造パラメータ)を試算した。

2.分析手法

日本経済新聞社『日経金融財務データ』、金融図書コンサルタント社『全国信用金庫財務諸表』及び『全国信用組合財務諸表』に掲載の財務諸表(約800機関、92年度~02年度のパネル・データ)に基づきパネル・データを構築し、金融機関別預金残高変化率及び預金金利を個別金融機関の特性要因(特に個別機関の健全性、破綻リスクと関連しそうなもの)に回帰する分析を試みた。パネル・データを用いた誘導型モデルによる推定を行った上で、推計結果を用いて預金者の金融機関に対する感応度(構造パラメータ)を試算している。

金融機関の特性要因(財務体質)を示す変数としては、資本-資産比率(資産リスク要因)及びROA(総資産利益率、収益要因)を用いた。

3.分析結果の主要なポイント

実証分析の結果示された主要点は以下の通りである。

  • 1)より健全性の低い金融機関では、預金が相対的に流出したり預金金利が高くなる傾向がある。その効果は、90年代半ば以降高まり、2002年度に弱まった。
  • 2)業態別にみると、預金流出の効果は、国際基準行で高く、ついで国内基準行、中小地域金融機関、の順に弱まっている。
  • 3)推計結果より預金者の金融機関に対する感応度(構造パラメータ)を計算すると、金融機関の資本-資産比率が1%ポイント高まると預金需要は1%程度(国内基準行では2%強)増加させる。

4.むすび

以上の結果から、預金者はより安全な金融機関を選択しているとともに、その行動は金融機関の業態別にみても理論から想定される結果と整合的になっていることが示された。また、預金者による規律行動は預金保険制度の影響を受けることが示された。

このことから、市場に任せた預金者行動は金融機関の健全な経営を促す前提条件を満たしていることが明らかになった。政府規制を補完する機能として預金者による規律付けを活かす形での適切な制度設計・運用が重要である。

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全文の構成

  1. 2ページ
    Abstract
  2. 3ページ
    1. Introduction
  3. 6ページ
    2. Financial Crises and Big Bang Reform
    1. 6ページ
      2.1 Japan’s Financial Crises in the1990s
    2. 7ページ
      2.2 “Big Bang” Reform to Phase in Open Competition
  4. 7ページ
    3. Data and Methodology
    1. 7ページ
      3.1 Data
    2. 9ページ
      3.2 Methodology and Bank Fundamental Variables
  5. 13ページ
    4. Empirical Results
    1. 13ページ
      4.1 Basic Results
    2. 14ページ
      4.2 Results with Parameter Shift Dummies
    3. 16ページ
      4.3 Comparison Among Heterogeneous Institution
    4. 19ページ
      4.4 Identification Restriction and Quantitative Evaluation
  6. 21ページ
    6. Conclusion
  7. 23ページ
    References
  8. Tables
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