ESRI Discussion Paper Series No.152
(研究ノート)短期日本経済マクロ計量モデル(2005年版)の構造と乗数分析

2005年7月
村田啓子
(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)
斎藤達夫
(内閣府経済社会総合研究所研究官)
田辺
(内閣府経済社会総合研究所研究官)
岩本光一郎
(早稲田大学現代政治経済研究所特別研究員、内閣府経済社会総合研究所部外研究協力者)

要旨

1.開発の経緯とコンセプト

内閣府・経済社会総合研究所(旧経済企画庁・経済研究所)では、90年代以降の日本経済から推測される構造変化と最新データに基づくモデルへの要請とに鑑み、随時の改訂が可能な「短期日本経済マクロ計量モデル」を1998年に公表した(堀・鈴木・萱園[1998])。開発のコンセプトは公開性及び機動性の高いコンパクト・モデルである。

その後、「短期日本経済マクロ計量モデル(2001年暫定版)」(堀・田邉・山根・井原[2001])、「短期日本経済マクロ計量モデル(2003年版)の構造と乗数分析」(堀・青木[2003])、「短期日本経済マクロ計量モデル(2004年版)の構造と乗数分析」(村田・斎藤[2004])を、それぞれ改訂状況として報告している。本資料は、更に改訂を重ねた2005年6月段階のモデルの状況を紹介するものである。本資料の性質より、記述は2001年版、2003年版、2004年版の形式を基本的に引き継いだ形となっているが、今回は国民経済計算の実質化手法が連鎖方式に移行したことを踏まえモデルを構築している。モデル構造の詳細については、既述の堀・鈴木・萱園[1998]他、過去に公刊されている『経済分析』の計量モデル関連文献を参照されたい。我々はこのような形でモデルを随時公開し、また外部情報の変化にも柔軟に対応することで、透明性と機動性を確保し、今後ともマクロ経済政策に関する議論の素材を提供していきたいと考えている。

2.国民経済計算の連鎖方式への移行による改訂

2.1 国民経済計算の連鎖方式への移行

今回のモデル改訂(2005年版)では、国民経済計算の実質化手法を連鎖方式に移行したことを踏まえ、1994年以降の支出系列について連鎖指数による値へとデータを改訂するとともに、データベースを約1年延長した。推計期間は原則1985年~直近時点までとなっているため、1993年以前の実質系列については、固定基準方式の系列を用いて遡及値を作成し、再推計を行った。

2.2 連鎖方式を用いたモデルの構築

今回のモデルでは、データが改訂されたことを踏まえ、行動方程式は全て改訂されたデータに基づき再推計している。再推計された各行動方程式をみると、全体として2004年版の推計式との顕著な違いは見られなかった。連鎖方式の導入により実質支出系列の加法整合性が成立しなくなったことが、連鎖方式への移行に伴う大きな変化である。これに伴い、モデルではGDPデフレータと実質GDPの定義式を改訂した。実質GDPの定義式については、加法整合性が成立しなくなったため、新たに「開差項目(KAISA)」を用い、実質GDPと需要項目の実質値の合計値を関係づけている。

数式

3.シミュレーション結果(概要)

主要乗数シミュレーションの結果は概略以下の通りである(本資料末尾の参考表も参照のこと)。いずれの結果についても、モデルの内挿期間である2001年からの3年間を対象としているが、「短期」分析を意図したモデルの性格上、2年目以降の数字は参考程度に解されたい。

1) 財政支出の拡大

公共投資乗数(実質ベース)は、1年目1.12%となっている(2年目0.99%、3年目0.76%)。前回公表時(村田・斎藤[2004])と比べて大きな変化はない。但し、乗数の大きさは金融政策のスタンス如何にも依存しており、貨幣供給量一定の下で同様の財政拡大を行っても乗数はより小さくなる一方、金利一定の下で行えば、乗数は持続的に1を上回る。

2) 所得減税

名目GDP1%相当の個人所得税減税(継続減税)は実質GDPを拡大させる(ピークは2年目の0.51%程度)が、その効果は後に緩やかに減衰する。前回公表時(村田・斎藤[2004])と比べて大きな変化はない。減税乗数は公共投資乗数に比べ小さいことから、税収減が景気拡大を通じた増収で相殺される程度は小さく、財政赤字は減税規模の88%程度増加する。

3) 金融政策

短期金利の1%引上げによる実質GDP抑制効果は、1年目に0.40%、2年目0.69%となる。前回公表時(村田・斎藤[2004])と比べて大きな変化はない。この背景には、金利上昇による設備投資、住宅投資の抑制、円高などが影響している。

4) 外生的ショック

外部環境の変化にかかるシミュレーションとしてa)為替減価10%、b)燃料価格上昇20%、c)世界需要増加1%影響をみる。為替減価の実質GDPへの1年目のインパクトは0.37%、2年目は0.54%となる。鉱物性燃料価格上昇の影響は小幅なマイナスである(1年目0.11%、2年目0.14%)。また世界需要が1%増加した場合の効果は漸進的に生じ、1年目のインパクトは0.22%、2年に0.20%となる。

(参考1)主要シミュレーションの概略表

1)実質公的固定資本形成を実質GDPの1%相当額だけ継続的に拡大

1)実質公的固定資本形成を実質GDPの1%相当額だけ継続的に拡大
参考:4年目以降の実質GDPに関わる乗数は以下のとおり。
実質GDP (4年目)0.66(5年目)0.63(6年目)0.58
(備考)
  • 実質公的固定資本形成が標準ケースの実質GDPの1%に相当する額だけ増加し、それがシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  • シミュレーションは、1999年~2001年の3年間の実績値を標準ケースとして行っている。
  • 実質GDPおよび需要項目、名目GDP、民間消費デフレータ、賃金、為替レートは標準ケースからの乖離率を、GDP成長率、稼働率、失業率、財政収支対名目GDP比、長期金利、経常収支対名目GDP比は乖離幅を示している。
  • 為替は名目対米ドルレートで、符号が負の場合は円の増価を意味する。
  • (備考の)2.~4.については、以下すべてのシミュレーションについて同様。
  • 金利一定と仮定した場合の実質GDPへの影響は、1年目1.23、2年目1.24、3年目1.10となる。

2) 個人所得税を名目GDPの1%相当額だけ継続的に減税

2) 個人所得税を名目GDPの1%相当額だけ継続的に減税
(備考)
  • 個人所得税を標準ケースの名目GDPの1%に相当する額だけ減税し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。なお、減税の財源は公債による。
  • 財政支出は実質ベースで固定されており、名目額は物価の動きに応じて変動している
  • 2.については、以下すべてのシミュレーションについて同様。

3) 短期金利を1%引き上げ

3) 短期金利を1%引き上げ
(備考)
  • 名目短期金利が標準ケースと比べ1%ポイント上昇し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。

4)-a 円の対ドル10%減価

4)-a 円の対ドル10%減価
(備考)
  • 円の対米ドルレートが標準ケースと比べて10%減価し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  • 2004年版では実質GDPへの影響は、1年目0.25%、2年目0.35%、3年目は0.25%、民間消費デフレータへの影響は、1年目0.20%、2年目0.29%、3年目は0.38%となっている。

4)-b 鉱物性燃料価格の20%上昇

4)-b 鉱物性燃料価格の20%上昇
(備考)
  • ドルベースの原油価格が標準ケースに比べて20%上昇し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  • 2004年版では実質GDPへの影響は、1年目0.11%、2年目0.14%、3年目は0.14となっている。
  • 1年目(2001年)における鉱物性燃料価格は25.3ドル。

4)-c 世界需要の1%増加

4)-c 世界需要の1%増加
(備考)
  • 世界需要が標準ケースに比べて1%上昇し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。

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  2. 5ページ
    第1章『短期日本経済マクロ計量モデル』の基本構造
    1. 5ページ
      第1節開発の経緯とモデルの基本構造
    2. 5ページ
      第2節国民経済計算の連鎖方式への移行による改訂
  3. 9ページ
    第2章モデルの動学的パフォーマンス
    1. 9ページ
      第1節主要乗数シミュレーションの結果
    2. 17ページ
      第2節モデル乗数の線型性
  4. 20ページ
    第3章残された課題
  5. 補論1 国民経済計算における連鎖方式について
  6. 補論2 今次モデルへのフォワードルッキングな期待形成の導入の試み
  7. 主要参考文献
  8. 研究所でこれまでに出された日本モデル関連刊行物
  9. 付属資料2 短期日本経済マクロ計量モデルの変数名一覧
  10. 付属資料3 モデルのトラッキング能力
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