ESRI Discussion Paper Series No.154
地方債と地域金融機関
-金融機関アンケート調査結果を踏まえた地方債制度の今後のあり方-

2005年9月
  • 土居 丈朗(慶應義塾大学経済学部、内閣府経済社会総合研究所)
  • 林 伴子(内閣府参事官(国際経済担当)、内閣府経済社会総合研究所前主任研究官)
  • 鈴木 伸幸(野村総合研究所)

要旨

1.問題意識と本研究の趣旨

わが国の政府債務のうち、地方財政の借入金残高は約200兆円にのぼり長期政府債務の約3割に達している。現在政府は2010年初頭に国・地方合わせたプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を財政再建目標としている。

わが国財政の長期的な持続可能性を確保し、長期金利上昇による利払い費負担増大を通じた財政破綻を回避するために、国債のみならず、地方債のストックとしての公的債務全体の縮減も必要である。

本調査研究では、アンケート調査、ヒアリング調査などをもとに、わが国における地方債市場の現状、地方銀行等をはじめとする地方債引き受け主体の意識や行動を把握し、わが国の地方債制度、地方債市場においてどのような課題が生じているかについて考察した。また、これらの結果を踏まえ、市場メカニズムによる地方財政規律が効果的に機能するためにはどのような環境・条件が必要かという点を含め、わが国における地方債制度のあり方や地方財政の分権化のあり方について検討をおこなった。

2.分析の方法

分析にあたっては、地方債制度等に関連する文献資料等により、わが国の地方債をとりまく状況変化等を把握するとともに、貸し手となる金融機関(地方銀行、信用金庫など)へのアンケート調査を行った。アンケート調査では、地方債引き受け動向も実態と地方債制度のあり方についての貸し手側の意識や行動変化、地方債制度の規律のあり方や地方財政改革のあり方に関する意識等について把握を行った。そして、わが国の地方債市場の動向を、縁故債と市場公募債ごとにとりまとめるとともに、金融機関に対するアンケート調査をもとにわが国の地方債制度の課題についてとりまとめた。さらに、これらの調査結果をもとに、わが国の地方債制度の方向性について整理を行った。

3.分析結果の主なポイント

金融機関に対するアンケート調査からは、地方債務残高の増加に対する危機意識の高まりや、自治体の民間資金調達需要の高まりへの継続的な対応への懸念などが表れた。地方債制度についても、貸付条件の多様化、流通市場整備等に対して強い要望が現われる結果となっている。

地方債市場動向の分析や、金融機関に対するアンケート調査などから、本研究では地方財政の分権化に適合した地方債制度のあり方について論じた。地方債制度については、貸し手にも一定の責任を担わせる明確な債務処理スキームを規定することや、交付税措置による国の財源保障を見直すこと、地方自治体の財政の自立性を高めるための基盤整備をすすめることなどの必要性について整理した。さらに、市場メカニズムによる財政規律を確保するために必要となる項目や、市場メカニズムによる財政規律を補完する財政ルールの必要性についても論じた。

4.結び

現在の地方債を支える仕組みをみると、「借りやすく貸しやすい」という構造的なリスクを内包している。借り手側の地方自治体から見ると、地方債の元利償還金の一部が交付税措置される仕組みになっているので、自らの債務である地方債の元利償還負担を国税に転嫁でき、このため地方自治体の直面する予算制約がソフト化して、事業の費用対効果の見極めが甘くなるリスクがある。

他方、貸し手側からみると政府による「暗黙の保証」があることから、貸しやすい構造を生んでいる可能性がある。貸し手である地方銀行等にとっては国債を購入するのと同様の安全性で貸すことができ、事業の費用対効果の吟味は民間事業者に対する貸付とまったく異なるものとなっている可能性が高い。

本研究からも、金融機関の意識をみると、地方自治体の債務増大への不安感はあるものの、貸付審査やリスク管理は必ずしもこうした危機意識を反映したものとはなっていない状況が把握できた。

平成18年度から地方債発行が起債協議制に移行するが、地方債制度の改革および地方債市場の整備に取り組むことにより、市場による規律を通じて地方自治体がコスト意識をもって財政運営を行い、過大な債務を負わないような環境を整える必要がある。また、市場メカニズムを補完する財政ルールなどについても検討を進める必要がある。

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      1 地方債の累増と我が国財政の持続可能性
    2. 4ページ
      2 地方分権と地方債をめぐる状況の変化
    3. 4ページ
      3 「借りやすく貸しやすい」構造
    4. 6ページ
      4 分権と地方財政規律
  2. 8ページ
    I.我が国の地方債市場の動向
    1. 8ページ
      1 我が国の地方債制度・地方債市場の動向と特徴
    2. 17ページ
    3. 39ページ
      3 市場公募債の動向と特徴
  3. 50ページ
    1. 50ページ
      1 地方債および地方財政に対する各主体の意識
    2. 56ページ
      2 地方債を支える諸制度の状況
    3. 61ページ
      3 今後の地方債制度のあり方
  4. 63ページ
    III.日本の地方債制度の課題と方向
    1. 63ページ
      1 地方債制度の動向と課題
    2. 66ページ
      2 今後の地方債制度の方向
  5. 71ページ
    (参考資料)地方財政および地方債に関するアンケート調査
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