ESRI Discussion Paper Series No.160
求人集中度とマッチングの効率性

2006年2月
  • 神林 龍(一橋大学経済研究所助教授)
  • 上野 有子(内閣府経済財政分析担当参事官補佐(企画担当))

要旨

1.問題提起

UV曲線の位置を決める要素の一つにマッチング関数の形状があるが、このマッチング関数の形状は労働供給側・需要側双方のサーチ行動パターンに大きく影響を受ける。既存研究では、供給側のサーチ行動の多様性*については多く検証が行われてきたが、需要側のサーチ行動の多様性を考慮してマイクロレベルの分析をした事例はほとんど見られない。すなわち、需要側は均一な経済主体と考えられる場合が多かった。しかしながら、現実には労働需要者の求人行動は多様であり、そうした多様な求人状況に応じて、求職者の行動も変化すると考えられる。理論的にも、求職者の応募行動(たとえば応募確率)が各企業が一度に提示する求人口数に依存すると想定した場合、労働市場での求人数分布の形が市場でのマッチングスピードに影響を及ぼしうることが示唆されている。本論文では、企業が出す求人口数分布の形状に着目し、理論から予測されるように、求人口数分布が一部に偏っているほど(つまり求人市場の集中度が高いほど)、市場全体のマッチング効率性も高くなるかどうかを、日本の都道府県別労働市場のパネルデータを用いて検証した。

* 供給側のサーチ行動の多様性には、例えばサーチ活動に投入される時間・金銭コストの相違がある。

2.手法

上述の問題意識から、対数線形型のマッチング関数をパネル推定すると同時に、説明変数に外生変数として求人市場の集中度指数を追加して、有意な説明力を持つかどうか検証した。データは、マッチング関数推定に通常用いられる厚生労働省の職業安定業務統計及び、求人市場構造を把握するため同省の雇用動向調査の特別集計結果の二者を利用した。前者は、市場全体(ただしハローワークに登録されたものに限定)の1996年から2001年までの都道府県別の月次労働市場データ(求人数、求職者数、就職件数)である。後者は半期単位の事業所サンプル調査で、これにより過去半年間に創出された各事業所毎の求人口数データを用いて、各都道府県の求人口数上位の求人市場シェアを推計し、市場集中度の代理変数とした。

さらに、求職者側の求人口への応募確率を決める要因として、求人が出されてからどのぐらいの時間が経過しているかも重要であるとの既存研究の指摘(ストックフローマッチング**)を踏まえ、こうした要因がわが国の労働市場では実際にマッチングスピードを左右しているかも併せて検証した。

なお、労働市場は都道府県別を単位と想定し、都道府県別月次パネル推定及び、同半期パネル推定を行った。

** 市場でのサーチはほぼ瞬時に行われるため、市場に参入してから一定期間が経過した後には求人・求職者ともストックとなり、フローとしかマッチングしないという考え方

3.結果

パネル推定の結果、固定効果モデルが採用され、求人集中度指数の係数は有意に推定された。すなわち、集中度が高い市場ほど、観察できない市場特有の要因を除いてもマッチング効率性は高い。マッチング関数自体は、わが国の既存研究とほぼ同様に、規模に関して緩やかに収穫逓増との結果が得られた。

したがって、求人市場構造の相違がマッチングに有意な影響をもたらすことが実証的にも確認され、その背景には求人数の分布が何らか求職者の応募行動に影響を与えたことが示唆される。他方、ストックフローマッチングモデルの説明力はあまり高いとはいえず、わが国の労働市場ではストック求人とフロー求人を識別して応募するという行動が一般的とはいえないと考えられる。

なお、上述の集中度の定義を用いた場合、クロスセクションでみると都市部より地方で求人市場の集中度が高く、時系列では全体の求人規模が縮小している時(=景気後退期)ほど集中度が高くなりやすい。このため、一定規模以上の事業所数が限られている地方部では、大規模事業所が例えば生産計画の拡張などを背景に大量の求人を出す場合にはマッチングスピードが速く、他方中小規模の事業所が多数存在する大都市圏では、景気回復などを背景に各事業所が少しずつ求人規模を増やす場合にはマッチングスピードはむしろ遅くなる可能性がある***。

***ただし、事業所あたりの求人口数は、その事業所の求める人材の水準(リザベーション水準)と関連する可能性が考えられる。具体的には、事業所が大規模求人を出す場合は、新規事業への進出時などが想定されるため、労働者の質の確保よりもむしろ充足率の向上が重視され、採用基準が相対的に下がっているかもしれない。このとき、求人口の分布および求職者の行動に変化がなくてもマッチングスピードは上昇するはずである。こうした可能性をチェックするため、採用基準の代理変数としての平均求人充足率と市場集中度の関係をみると、パネルデータ内では有意な相関関係は得られなかった。それゆえに、このような可能性はあまり強くないと考えてよい。

4.終わりに

推計結果から、90年代後半以降のわが国の労働市場では、求人市場がより集中的であるほど、マッチングが早く行われることが明らかになった。こうした市場構造とマッチングスピードとの関係は、90年代後半に有効求人倍率が低迷し、各事業所が新規採用を抑制した際に、むしろ求職者をより効率的に求人口に振り分け、マッチングを円滑化させたと考えられる。わが国では昨今の堅調な景気動向を反映して、有効求人倍率の回復や企業あたりの新規採用数の増加などが顕著である。こうした求人行動変化が市場構造にどのような影響をもたらすのか、一概には結論づけられないが、いずれにせよ市場構造変化は求職者の応募行動への変化を通じてマッチングスピードに影響をもたらすことが想定される。今後のUV曲線の動向を考える上でも、求人側・求職者側双方の行動に関するマイクロレベルの一層の情報収集と、より詳細な実証分析が望まれる。

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  2. 2ページ
    Abstract
  3. 4ページ
    1 Introduction
  4. 5ページ
    2 Model
  5. 6ページ
    3.Basic Description of Data
  6. 17ページ
    4 Estimation Results
  7. 19ページ
    5 Discussion
  8. 26ページ
    6 Conclusion
  9. 27ページ
    References
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