ESRI Discussion Paper Series No.162
小学校入学時の月齢が教育・所得に与える影響

2006年6月
  • 川口 大司(一橋大学大学院経済学研究科助教授)

要旨

1.問題提起

1月から3月に生まれたいわゆる早生まれの子供は、小学校入学の時点で4月以降に生まれた子供に比べて幼いため、学習や社会的な活動といった側面で不利になるという可能性が指摘されている。また、早生まれの子供を持つ親が就学前に子供が落ちこぼれたりしないかと心配するという話はよく耳にする話である。

実際におなじ学年に所属する児童の中で月齢の低い者が、月齢の高いものよりもテストの成績が悪いといった結果は世界中の研究者がほぼ一貫して報告しているところである。しかしながら、早生まれであることの不利さは学年が上がるにしたがって消えていくこともすでに確認されている。これらの研究を踏まえて、この研究は、早生まれであることの不利さが、最終的な学歴(教育年数)や所得にまで影響を与えているかを調べることを目的とする。

このようなおなじ学年の中で生まれつきが異なることで、実質的な年齢が異なり、年長者のほうがテストの点数などが高いことを発達心理学者たちは相対年齢効果とよんでいる。この研究は相対年齢効果が最終的な学歴、所得にまで影響を残すかを労働経済学の立場から解明することを目的としている。この種の研究はヨーロッパで数本の研究があるのみで、まだ始まったばかりの研究分野である。その意味において世界的にみてもユニークな研究である。

2.手法

2002年10月に行われた就業構造基本調査のマイクロデータを用いた実証分析を行う。このデータには日本全国からランダムに抽出された約100万個人のデータが格納されていて、生まれつき、学歴、年収といった情報が入手可能である。このデータを用いて、学歴と生まれつきの相関関係、年収と生まれつきの相関関係を調べる。

このような分析を行うに当たっては、1960年以前の日本では、生まれつきの季節性が強くあったということに特別な考慮をする必要がある。冬に生まれるもの多く、夏に生まれるものが少ないという季節性である。このような季節性はかつて農業国であった日本では、農閑期に子供を生むという習慣があったためであると考えられる。よって生まれつきは各個人の社会経済的な背景を反映している可能性もある。

学年の早い時期に生まれたものと学年の遅い時期(早生まれ)の学歴や所得が社会経済的な背景を反映したものではなく、相対年齢効果によるものであることを確認するため、父親の教育年数をコントロールしたり、生まれつきの季節性が消える1965年以降のデータだけを用いたりして実証分析を行い、結果が安定的であるかを検証する。

3.結果

2002年の10月時点において、25歳から60歳までのものを対象とした実証分析の結果は以下のとおりまとめられる。まず、生まれつきの最終学歴に対する影響であるが、男性に関しては4月生まれのほうが3月まれに比べて、0.2年平均教育年数が長いことが明らかになった。これは最終学歴が4大卒以上かどうかの確率が4月生まれのほうが3月生まれよりもおおよそ2パーセント高いという発見に対応している。当該年齢の男性全体の4大卒以上の割合が27パーセントであることを考えるとこれは大きな違いである。

女性に関しては4月生まれのもののほうがが3月生まれのものよりも教育年数がおおよそ0.1年長いという結果が得られている。これもサンプル平均の大学卒業確率が13パーセントであることを考えると大きな差である。

以上のとおり、最終的な教育年数においては早生まれの人々が不利となっていることが統計的に確認された。それでは、この教育年数の違いは所得の違いとなって現れるであろうか。この点を確認するためにおなじ学年に属すると考えられるものの中での3月生まれと4月生まれの年収を統計的に比較した。

分析の結果はそれほど明らかではなく、男性に関しては3月生まれと4月生まれのものの間に統計的に有意な年収格差は発見されなかった。女性に関しては4月生まれのもののほうが3月生まれのものよりもおおよそ1パーセント所得が高いという結果が出たが、これはそれほど精確に推定された値ではないので、確定的なことはいえない。

一般的に教育年数の長い人は高い所得を得るという関係が強く観察されることを考えると、早生まれの人々のほうが、教育年数が短いのに所得の面では不利になっていないという現象は、不思議である。この点に関しては、年収はきわめてさまざまな要因によって決定されているため、生まれつきが年収に与える影響という、きわめて弱いと思われる関係を統計的に精確に推定することが難しいという問題があることが考えられる。この点に関しては、今後、推定手法の改善などを含めより精確な推定ができるよう、研究を継続する必要がある。

4.終わりに

この研究は少なくとも最終的な学歴という側面においては早生まれの人々が不利になっていることを明らかにした。今後は小中学生の個人レベルのテストの点と生まれつきの関係などを調べていくことで、本当に学校での成績の高低が4月生まれと3月生まれの人の最終的な教育年数の差異をもたらしているかを厳密に検証する必要がある。また、生まれつきの年収に与える影響も継続して研究を深めていく必要がある。

仮に早生まれが不利であるということが頑健に発見されるようであれば、この結果が広く教育現場などに伝え、教員などに早生まれの子供に早い時期に烙印を押したりすることがないように注意を喚起する必要がある。また、米国の多くの州では幼稚園が義務教育となっているが、子供を入れる時期を1年遅らせるという判断を親ができることになっている。このような親に選択の余地を与えるという政策的な対応も真剣に検討されるべきであろう。また、近年は中高一貫教育が大変盛んになってきており、東京都をはじめとして公立学校でも中学レベルでの生徒の選別が行われるようになってきている。相対年齢効果は学年が低いときほど強く現れることが知られているので、小学校6年生の学力を評価するに当たっては早生まれのものが不利にならないような配慮が必要である。

最後に、この研究結果は純粋に科学的な見地から行われており、政策的な対応を考えるに当たっては大切な分析である。しかしながら、分析の結果は、きわめてセンシティブなものである。この研究結果が早生まれのものを不快にさせたり、早生まれの子供を持つ親を必要以上に不安に陥れたりすることがないように、充分な配慮を持って一般には公開されるべきものである。

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全文の構成

  1. Abstract
  2. 1ページ
    1 Introduction
  3. 5ページ
    2 Primer of the Japanese School System
  4. 7ページ
    3 Data
  5. 10ページ
    4 Estimation Results
    1. 10ページ
      4.1 The Discontinuity of Variables by Birth Month
    2. 13ページ
      4.2 The Implied Return to Education
  6. 18ページ
    5 Discussion
    1. 18ページ
      5.1 Birth months and socio-economic background
    2. 20ページ
      5.2 Absolute age effect or relative age effect?
  7. 23ページ
    6 Conclusion
  8. 25ページ
    References
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