ESRI Discussion Paper Series No.164
企業改革と情報化の効果に関する実証研究
-全国9500 社に対するアンケート結果に基づくロジット・モデル分析-

2006年6月
  • 篠﨑 彰彦(九州大学大学院経済学研究院、内閣府経済社会総合研究所客員研究員)

要旨

1.研究の目的

本研究は、情報化の成果と企業改革の関係性を検証したESRI Discussion Paper Series No.127(篠﨑[2005])の分析結果を受け、項目ごとにさらに詳細な検証を行ったものである。篠﨑(2005)では、平成15年情報処理実態調査の71調査項目について共通に得られた3141社からの有効回答をもとに、情報化への取組み度、組織改革度、人的資源の対応度、情報化の効果の4分類にスコア化し、情報化への「取組み度、組織改革度、人的資源の対応度」が高い企業と低い企業で「情報化の効果」にどのような差がみられるかを多重検定している。分析の結果、情報化が充分な効果を生み出すためには、組織改革や人的資源の対応など業務の見直しが必要不可欠であり、その対応度の違いが規模別、地域別、業種別格差の背景になっていることが明らかとなった。

しかしながら、上記分析では、組織面や人材面の改革の程度が集計化されたスコアで示されているため、調査項目に挙げられている具体的な改革の内容と情報化の効果との関連性が明らかではない。全国規模でこの種の企業アンケート調査が実施される機会は少なく、2000年代序盤における日本企業の情報化の実態を映す貴重なデータを用いて詳細な項目を実証分析する意義は大きいと考えられる。

そこで本稿では、どのような改革がどのような効果につながっているかを具体的に検証するため、情報化に伴う「組織・業務体制の見直し」の19項目(うち「社内の見直し」9項目、「社外と関連した見直し」10項目)と情報化に伴う「人材面の対応」の8項目について、各項目別に、16項目ある「情報システム導入による効果」のどの効果につながっているかをロジット・モデル分析によって明らかにする。

2.分析の方法

本稿では、情報化で得られた(1)業績面の効果4項目、(2)顧客面の効果4項目、(3)業務面の効果4項目、(4)職場における効果4項目の4カテゴリー計16項目の効果について、アンケート調査で得られた質的回答を「0」と「1」のバイナリー変数に置き換えて被説明変数とし、同様に、情報化にともなう(1)社内の業務・組織体制見直し9項目、(2)社外と関連した組織・業務体制見直し10項目、(3)情報化にともなう人材面の対応8項目の3カテゴリー計27項目について、アンケート調査で得られた質的回答を「0」と「1」のバイナリー変数に置き換えて説明変数としたロジット・モデルを推定し、どのような企業改革の取り組みがどのような効果につながっているかを具体的に検証する。

ロジット・モデルは、二値(離散)選択型となる質的従属変数を分析する場合に一般的に用いられる推定法であり、本稿では、情報処理実態調査で得られた16項目の「効果」について、それぞれ効果が「あった」と回答した場合を「1」、それ以外を「0」とする被説明変数に変換し、説明変数については、27項目の「見直し」もしくは「対応」が「実施」された場合を「1」、それ以外を「0」に変換して改革の3カテゴリー別にモデルを推定する。これによって、「効果」の有無に「見直し」や「対応」の実施の有無が影響しているか否かを実証的に確認することができる。例えば、「意思決定権限の分散化」を「実施した」とする回答と「一人当たりの作業効率の向上」に「効果あり」とした回答との間に統計的に有意な関係性が見られるか否かを検証することで、どのような改革がどのような効果につながったかを具体的に確認することが可能でとなる。

3.分析結果の主なポイント

ロジット・モデルの推定によって、次のような結果が得られた。まず、カテゴリー別に概観すると、第一に、企業改革によって得られやすい情報化の効果としては、在庫圧縮や作業効率改善などの「業務」面(業務革新・業務効率化)、および、社内の情報活用効率や従業員からの提案が増えたなどの「職場」面(従業員の満足度向上や職場の活性化)の効果であり、「顧客」面(顧客満足度の向上・新規顧客の開拓)や「業績」面(売上・収益の改善)の効果は相対的に得にくいこと、第二に、情報化の効果に結びつきやすい企業改革としては、従業員への自己啓発支援や社内研修などの「人材面の対応」であり、ペーパーレス化や重複業務の見直しといった「社内の組織・業務体制見直し」がこれに続き、事業部門の分割・分社化や取引関係の見直しといった「社外と関連した組織・業務体制見直し」は相対的に効果につながりにくいことが明らかとなった。

さらに、企業改革の内容を項目別に精査すると、第一に、社内の組織・業務体制見直しでは、ペーパーレス化や重複業務見直しが効果につながっている一方で、組織上層部の権限や職務見直しでは効果が確認されないこと、第二に、社外と関連した組織・業務体制見直しでは、取引のペーパーレス化など一部の取組みで効果が確認されるものの、企業分割を伴うような事業の見直しや取引の打切りを伴うような企業間関係の見直しなど、ドラスティックな改革は効果が確認されないこと、第三に、人材面の対応では、社内研修の実施、社外における自己啓発の補助・支援など既存の従業員の教育や、これまでの取り組みで経験が蓄積されているアウトソーシングで情報化の効果が確認される一方、中途採用や派遣社員など外部から組織内への新たな人材移動は必ずしも効果に結びついていないこと、などが明らかとなった。また、目的の違いによって集中化が効果的な場合と分散化が効果的な場合があることも、この分析の過程で明らかとなった。

4.結び ― 分析結果の解釈

上記の分析結果を検討すると、日本企業では、組織面でも人材面でも、既存の仕組みの「恒常性」に大きな変化を及ぼすような企業改革の取組みは必ずしも充分な効果に結びついておらず、情報化のメリットを充分に享受できない要因に日本型と形容される企業システムの特質が影響していることを示唆する結果だと考えられる。

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全文の構成

  1. 3ページ
    〔要約〕
  2. 5ページ
    〔要旨〕
  3. 〔本論〕
    1. 7ページ
      1.はじめに:本研究の目的
    2. 7ページ
      2.分析の方法とデータ処理
      1. 7ページ
        (1)分析の方法
      2. 8ページ
        (2)分析に利用したデータの処理
    3. 9ページ
      3.ロジット・モデル分析の結果
      1. 9ページ
        (1)情報化の効果からみた分析結果
      2. 10ページ
        (2)企業改革からみた分析結果の概観
      3. 10ページ
        (3)社内の組織・業務体制見直しと情報化の効果
      4. 11ページ
        (4)社外と関連した組織・業務体制の見直しと情報化の効果
      5. 11ページ
        (5)情報化にともなう人材面の対応
      6. 12ページ
        (6)分析結果の総括
    4. 13ページ
      4.おわりに:まとめと課題
    5. 14ページ
      〔参考文献一覧〕
  4. 16ページ
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