ESRI Discussion Paper Series No.170
中国第11次5ヵ年計画の研究
-第10次5ヵ年計画との対比において-

2006年10月
  • 田中 修(内閣府経済社会総合研究所特別研究員)

要旨

1 問題設定

第11次5ヵ年計画は胡錦涛-温家宝指導部が策定する最初の5ヵ年計画であり、これを第10次5ヵ年計画と対比して分析検討することにより、江沢民-朱鎔基指導部と胡錦涛-温家宝指導部の経済政策及びその指導理念の相違を一層明確にすることができる。また、これは中国経済が抱えている「深層の矛盾」を解明することにもつながる。

2 手法

本稿では、党5中全会における第11次5ヵ年計画建議と第11次5ヵ年計画政府要綱をベースに、中央経済工作会議、全国発展・改革会議、全国財政工作会議等の全国レベルの経済政策会議、主要経済閣僚の記者会見・解説論文等により可能な限り政策的各論の肉付けを行い、第10次5ヵ年計画との相違を浮き彫りにした。

また、冒頭に第1次から第10次までの5ヵ年計画の流れを概説することにより、中国の5ヵ年計画の歴史全体のなかでの第11次計画の位置づけを試みた。さらに、第11次5ヵ年計画の策定経緯及び策定の背景としての中国経済の構造問題についても考察を加えている。

3 結果

第10次5ヵ年計画期間における江沢民-朱鎔基指導部の経済成長至上主義、都市重視・農村軽視の政策は、所得格差の拡大をもたらすとともに、エネルギー・資源の浪費、環境破壊を生み出し、中国経済社会の構造問題を深刻化させた。これは、2003年に新型肺炎SARSの流行、投資過熱という形で顕在化した。経済の深層矛盾の拡大は、これまでの市場化改革そのものへの批判を生み出すに至っている。

このため、胡錦涛-温家宝指導部は、都市と農村の発展、各地域、経済と社会、人と自然、国内と対外開放について、調和のとれた持続可能な発展を目指す「科学的発展観」と、効率のみならず社会の公平・公正、所得再分配をより重視する「社会主義の調和のとれた社会」という新たな戦略思想を打ち出し、これまでの経済政策のあり方に修正を加えた。これが第11次5ヵ年計画の指導思想となっている。

この戦略思想に基づき、第11次5ヵ年計画では、初めて省エネルギー目標と環境保全目標を打ち出すとともに、新農村の建設・所得分配の調整を重点としている。また名称を「計画」から「規画」(「展望と指針」の意)に改め、政府と市場の役割を峻別し、計画経済からの最終的な決別を図っている。

4 終わりに

第11次5ヵ年計画では改革の筆頭に行政管理体制の改革が挙げられており、政府の職責範囲の合理的確定、行政許認可の縮小・規範化、政府機構改革、投資体制改革等が盛り込まれている。この改革なしには、地方政府主導による投資・融資の拡大を抑えることはできず、省エネ・省資源・環境保全の目標は達成しがたい。また、計画を「規画」に置き換えた意味も失われることになろう。

この意味で、第11次5ヵ年計画は、中国経済が計画経済の遺制を克服し、市場経済に移行することができるか、中国の経済成長が粗放型(資源・エネルギーの浪費、環境破壊型)の成長から効率的で持続可能な成長パターンに転換できるか、鄧小平が唱えた「先富」(一部の人々や地域が先に豊かになる)から「共同富裕」(先に豊かになった人々や地域がその他の人々や地域を先導し、手助けをして、共に豊かになる)の実現へと軸足を移すことができるかを占う極めて重要な計画といえよう。

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  1. 本文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 484 KB)
  2. 2ページ
    1.5ヵ年計画の変遷概観
    1. 2ページ
      1.1 計画策定以前
    2. 3ページ
      1.2 第1次5ヵ年計画(1953-1957)の策定
    3. 4ページ
      1.3 第2次5ヵ年計画(1958-1962)
    4. 4ページ
      1.4 計画の空白(1963-1965)
    5. 5ページ
      1.5 第3次5ヵ年計画(1966-1970)
    6. 5ページ
      1.6 第4次5ヵ年計画(1971-1975)
    7. 5ページ
      1.7 第5次5ヵ年計画(1976-1980)
    8. 6ページ
      1.8 第6次5ヵ年計画(1981-1985)
    9. 7ページ
      1.9 第7次5ヵ年計画(1986-1990)
    10. 8ページ
      1.10 第8次5ヵ年計画(1991-1995)
    11. 8ページ
      1.11 第9次5ヵ年計画(1996-2000)
    12. 9ページ
      1.12 第10次5ヵ年計画(2001-2006)
    13. 11ページ
      1.13 まとめ
  3. 16ページ
    1. 16ページ
      2.1 3つの格差問題
    2. 19ページ
      2.2 経済のアンバランス
    3. 25ページ
      2.3 経済成長の制約要因
  4. 29ページ
    1. 29ページ
      3.1 党中央建議まで
    2. 31ページ
      3.2 政府要綱可決まで
    3. 32ページ
      3.3 まとめ
  5. 34ページ
    1. 34ページ
      4.1 第10次5ヵ年計画期間における経済社会の発展状況と直面する情勢について
    2. 35ページ
      4.2 第11次5ヵ年計画に関する指導思想・発展目標
    3. 38ページ
      4.3 第11次5ヵ年計画期間の重要任務に関して
    4. 42ページ
      4.4 第11次5ヵ年計画期間においては、いくつかの重大関係をうまく処理しなければならない
    5. 43ページ
      4.5 その他「建議」指摘事項
    6. 44ページ
      4.6 まとめ
  6. 47ページ
    1. 47ページ
      5.1 この5年間の経済政策から得た経験・啓示
    2. 47ページ
      5.2 経済の中長期に累積された問題・矛盾と新たに出現した状況・問題
    3. 48ページ
      5.3 2006年の経済政策の総体的要求
    4. 48ページ
      5.4 2006年の経済政策の主要任務
    5. 50ページ
      5.5 2006年の重点施策
    6. 50ページ
      5.6 まとめ
  7. 52ページ
    1. 52ページ
      6.1 国家発展・改革委員会
    2. 58ページ
      6.2 財政部
    3. 62ページ
      6.3 国家税務総局
    4. 68ページ
      6.4 人民銀行別ウィンドウで開きます。(PDF形式 486 KB)
    5. 70ページ
      6.5 銀行業監督管理委員会
    6. 71ページ
      6.6 農業・農村・農民(三農)
    7. 84ページ
      6.7 労働・社会保障部
    8. 87ページ
      6.8 商務部
    9. 90ページ
      6.9 科学技術
    10. 91ページ
      6.10 まとめ
  8. 91ページ
    1. 92ページ
      7.1 主要な特徴
    2. 92ページ
      7.2 第10次5ヵ年計画期間における経済社会の発展状況
    3. 93ページ
      7.3 第11次5ヵ年計画期間における経済社会発展の指導原則と主要目標
    4. 93ページ
      7.4 第11次5ヵ年計画期間における戦略的な重点と主要任務
  9. 96ページ
    1. 96ページ
      8.1 国家発展・改革委員会馬凱主任等記者会見
    2. 99ページ
      8.2 重要政策に関する関係官庁記者会見
    3. 101ページ
      8.3 第11次5ヵ年計画の特徴(総論)
    4. 109ページ
      8.4 第11次5ヵ年計画の特徴(各論)
  10. 127ページ
    おわりに別ウィンドウで開きます。(PDF形式 52 KB)
  11. 131ページ
    参考文献
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)