ESRI Discussion Paper Series No.173
短期日本経済マクロ計量モデル(2006年版)の構造と乗数分析

2007年1月
増淵勝彦
(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)
飯島亜希
(内閣府経済社会総合研究所研究官)
梅井寿乃
(内閣府経済社会総合研究所研究官)
岩本光一郎
(早稲田大学現代政治経済研究所特別研究員、内閣府経済社会総合研究所部外研究協力者)

要旨

1.モデルの開発の経緯

内閣府・経済社会総合研究所は、随時の改訂が可能で、公開性及び機動性の高いコンパクトな「短期日本経済マクロ計量モデル」を開発し、1998年に公表した。本モデルはその後、当研究所の長期的プロジェクトの一つとして、ほぼ毎年改訂を重ねている。

本資料は、2006年3月初旬迄に取得可能であったデータに基づいて更に改訂を行った2006年12月段階におけるモデルの状況を紹介するものである。

2.モデルの基本構造

「短期日本経済マクロ計量モデル」は、四半期ベースの推定パラメータ型計量モデルである。2005年版よりやや大型化したものの、操作性の高いコンパクトな規模(方程式総数181本、うち推定式63本)を維持している。

推定期間は原則として1990年から直近時点(データの入手可能性により2004年又は2005年)である。バブル期のデータを除外し、バブル崩壊後のデータに限定することにより、モデルの推定パラメータにより直近の経済構造を反映させることを意図している。

理論面では、モデルは、財貨・サービス市場、労働市場、貨幣市場、及び外国為替市場の4市場から構成される。モデルのベースは伝統的なIS-LM-BP型のフレーム・ワークであり、価格は期待修正フィリップス曲線で内生化されている。いわば「価格調整を伴う開放ケインジアン型」と言える。

3.前回と比較した変更点と特徴

1) 連鎖公式への対応の完了と基準改定に伴うデータの更新

前回の2005年版モデルでは、2004年12月公表の国民経済計算(SNA)確報においてGDPの支出系列が連鎖方式1に移行したことに伴い、GDPコンポーネントのレベルで連鎖方式を導入した。今回は、前回に連鎖方式の適用が見送られていた輸入2に関して、SNA速報(QE)の手法に基づいて構成項目に細分化し、その上で項目毎の物価指数をGDPと同様に連鎖統合することによりデフレータを算出した。これにより、GDPの支出項目のすべてが連鎖方式対応を完了した。

また、2005年12月公表のSNA確報においては基準改定が行われ、新基準(2000年基準)の系列に移行した。今回はこれを踏まえ、例年通りデータベースを約1年延長するとともに、1994年以降について新基準の連鎖指数によるデータの更新を実施した。

2) 今回の推定結果の特徴

今回の推定結果では、推定期間を1990年以降のみとしたこと、SNAの基準改定が行われたこと等を反映し、いくつか特徴的な変化がみられた。主なものは以下の通り。

  • (1) 設備投資関数の資本コスト弾性値が上昇した。
  • (2) マクロ生産関数における資本と労働の代替の弾力性が1を有意に下回った。
  • (3) GDPデフレータのGDPギャップの変化に対する反応が大きくなった。

これらは、例えば(1)により、短期金利引き上げの実質GDPへの押し下げ効果が旧版より大きくなる等、今回のモデルのシミュレーション結果に影響を与えている。ただし、これらが経済構造の不可逆的な変化を表すものか、推定機関の過半を占めるデフレ期に特徴的ないわゆる「デフレ・バイアス」なのかは、もう少しデータの蓄積を待って慎重に検証する必要があろう。

4.主要乗数シミュレーションの結果

1) 財政支出の拡大

公共投資乗数(実質ベース)は、1年目1.02%、2年目1.06%、3年目0.89%。2005年版と比較して大きな変化はないが、ピークが2年目に移動した。

表2-1 実質公的固定資本形成を実質GDPの1%相当額だけ継続的に拡大(利子反応関数を用いたケース)

表2-1 実質公的固定資本形成を実質GDPの1%相当額だけ継続的に拡大(利子反応関数を用いたケース)

(備考)

  1. 実質公的固定資本形成が標準ケースの実質GDPの1%に相当する額だけ増加し、それがシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  2. シミュレーションは、2002年~2004年の3年間の実績値を標準ケースとして行っている。
  3. 実質GDPおよび需要項目、名目GDP、民間消費デフレータ、賃金、為替レートは標準ケースからの乖離率を、GDP成長率、失業率、財政収支対名目GDP比、長期金利、経常収支対名目GDP比は乖離幅を示している。
  4. 為替は名目対米ドルレートで、符号が負の場合は円の増価を意味する。
  5. (備考の)2.~4.については、以下すべてのシミュレーションについて同様。
  6. 短期金利一定と仮定した場合の実質GDPへの影響は1年目1.09、2年目1.19、3年目1.11となる。

2) 所得減税

名目GDP1%相当の個人所得税減税(継続減税)は実質GDPを拡大させ(ピークは2年目の0.56%)、その効果は3年目までほぼ持続。減税乗数は公共投資乗数に比べ小さいことから、税収減が景気拡大を通じた増収で相殺される程度は小さく、1年目の財政赤字は減税規模の91%増加する。

表2-3 個人所得税を名目GDPの1%相当額だけ減税

表2-3 個人所得税を名目GDPの1%相当額だけ減税

(備考)

  1. 個人所得税を標準ケースの名目GDPの1%に相当する額だけ減税し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  2. 財政支出は実質ベースで固定されており、名目額は物価の動きに応じて変動している
  3. 2.については、以下本節のすべてのシミュレーションについて同様。

3) 消費税増税(今回より減税ではなく、増税)

消費税率1%引き上げによる実質GDP抑制効果は、1年目0.16%、2年目0.25%。財政収支は対名目GDP比で1年目0.31%ポイント、2年目0.24%ポイント黒字化する。

表2-5 消費税率を1%ポイント引き上げ

表2-5 消費税率を1%ポイント引き上げ

(備考)

  1. 消費税率を標準ケースと比べて1%ポイント引き上げ、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  2. 民間消費デフレータの理論的な上昇率は、1997年の消費税率引き上げの消費者物価指数(CPI)に及ぼす影響の旧経済企画庁物価局試算値(消費税率2%ポイント引き上げはCPI総合を1.5%押し上げる)から想定した。

4) 金融政策

短期金利の1%引上げによる実質GDP抑制効果は、1年目0.39%、2年目0.50%。この背景には、金利の上昇による設備投資、住宅投資の抑制、円高などが影響している。

表2-6 短期金利を1%ポイント引き上げ

表2-6 短期金利を1%ポイント引き上げ

(備考)

  • 名目短期金利が標準ケースと比べて1%ポイント上昇し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。

5) 外生的ショック

外部環境の変化としてa)為替減価10%、b)原油価格20%上昇、c)世界需要1%増加の影響をみた。為替減価の実質GDP拡大効果は1年目に0.27%(2年目は0.54%)。原油価格上昇の影響は小幅なマイナス(1年目0.11%、2年目は0.12%)。世界需要が1%増加した場合の効果は、1年目のインパクトが0.08%、2年目が0.20%となった。

表2-8 円の対ドル10%減価

表2-8 円の対ドル10%減価

(備考)

  1. 円の対米ドルレートが標準ケースと比べて10%減価し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  2. 2005年版では実質GDPへの影響は1年目0.37%、2年目0.53%、3年目0.42%である。また民間消費デフレータへの影響は、1年目0.21%、2年目0.30%、3年目0.40%となっている。
表2-9 原油価格の20%上昇

表2-9 原油価格の20%上昇

(備考)

  1. ドルベースの石油価格が標準ケースに比べて20%上昇し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  2. 2005年版では実質GDPへの影響は1年目0.11%、2年目0.14%、3年目0.16%となっている。
  3. 標準ケースの原油価格は、1年目(2002年)24.65ドル/バレル、2年目29.34ドル/バレル、3年目36.41ドル/バレル。
表2-10 世界需要を1%増加

表2-10 世界需要を1%増加

(備考)

  1. 世界需要が標準ケースに比べて1%上昇し、その変化がシミュレーション期間中継続するものと想定した。
  2. 2005年版では実質GDPへの影響は1年目0.22%、2年目0.20%、3年目0.17%となっている。

1 GDPの実質化を行う際の基準年を毎年更新していく方式。従来の固定基準方式では、GDPの構成でみた経済構造の変化が大きい時期には、基準年から離れるに従って実質値及びデフレータに無視できないバイアスが生じていたが、本方式ではそれが除去できる。他方で、従来は成立していた実質支出系列の加法整合性が成立しなくなった。

2 旧版において輸入は、原油価格上昇シミュレーションへの要請を踏まえて「鉱物性燃料輸入」と「その他の輸入」に区分されていた。しかしこれは、SNAの分類に則していない。

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  1. 本文別ウィンドウで開きます。(PDF形式 368 KB)
  2. 4ページ
    第1章『短期日本経済マクロ計量モデル』の基本構造
    1. 4ページ
      第1節 モデルの開発の経緯
    2. 4ページ
      第2節 モデルの基本構造
    3. 7ページ
      第3節 前回と比較した変更点と特徴
    4. 9ページ
      第4節 輸入サブブロック導入の経緯と構造
  3. 13ページ
    第2章 モデルの動学的パフォーマンス
    1. 13ページ
      第1節 主要乗数シミュレーションの結果
    2. 21ページ
      第2節 モデル乗数の線形性
  4. 25ページ
    第3章 残された課題
    1. 27ページ
      補論別ウィンドウで開きます。(PDF形式 460 KB)
    2. 27ページ
      補論1 輸入サブブロックのデータ解説
    3. 31ページ
      補論2 輸入の定式化の相違が政策乗数に与える影響
    4. 37ページ
      補論3 ゼロ金利政策解除の影響試算-Counter-factual Simulation
  5. 主要参考文献
    1. 43ページ
      付属資料1 短期日本経済マクロ計量モデルの乗数詳細表
    2. 84ページ
      付属資料2 短期日本経済マクロ計量モデルの変数名一覧
    3. 89ページ
      付属資料3 短期日本経済マクロ計量モデルの方程式体系
    4. 120ページ
      付属資料4 内閣府(旧経済企画庁を含む)の計量モデルにみる政府支出乗数の経年変化
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