ESRI Discussion Paper Series No.175
情報装備の経済効果に関する分析
-2003年(平成15年)「情報処理実態調査」と企業財務データベースによる分析-

2007年2月
廣松
(東京大学大学院総合文化研究科 教授)
小林
(和光大学 経済経営学部 教授)

要旨

1. 趣旨

産業・企業の情報関連資本(以下では、情報装備)に関する統計資料は、わが国ではまだ十分に整備されていないのが実状である。このような状況の中で、2003年の「情報処理実態調査」は、内閣府経済社会総合研究所により、民間事業者のソフトウェア投資や固定資産の機械装置に占める「IT機器構成比」など新たな調査項目が追加され実施された。同研究所では、その調査結果および各種の企業財務データベースなどを利用し、2001~2002年度における個別企業の情報装備および財務に関するデータを結合した新たなデータベースを作成した。そこで本論文では、今回作成したデータベースを利用して行った、2001~2002年度における「情報装備の経済効果」と「情報装備率の変化がTFPの成長率へ与える影響」に関する分析についてその結果と概要を報告する。

2. 分析手法

分析に使用するデータは、企業の情報装備に関する新たな項目が追加され実施された2003年の「情報処理実態調査」の調査結果と、各種の企業財務データベースから得られる個別企業の財務データを結合して作成した「情報装備と企業財務に関わるデータベース」(以下では単にデータベースとする)を利用した。先ず、「情報装備の経済効果」では、コブ・ダグラス型生産関数の生産要素として労働L、情報装備Ki、非情報資本Koの3つの投入を、アウトプットとして付加価値Qを想定したモデルを用い、分析に必要なデータを算出可能な分析対象企業を利用する各企業財務データベース別に抽出し、大枠で区分した産業別および売上高と従業員数によって区分した企業規模別でそれぞれ分析を行った。次に、「情報装備率の変化がTFPの成長率へ与える影響」については、生産要素として労働L、資本Kの2つの投入を、アウトプットとして付加価値Qを想定したコブ・ダグラス型生産関数に、時間と情報装備率の影響を組み入れたモデルを新たに考案し、「上場企業」の企業財務データベースから選定した調査対象企業について分析を行った。

3. 分析結果

「情報装備の経済効果」については、今回の分析期間(2001~2002年度)で、(1)付加価値Qの伸び率は、全ての分析区分で僅かなプラスあるいはマイナスに留まっていること、(2)情報装備Kiの伸び率も僅かなプラスあるいはマイナスであること、などから付加価値Qの伸び率に対する情報装備Kiの貢献は限定的であり、ネガティブな貢献となる場合も若干観測された。しかし、同期間の他の生産要素では、付加価値Qの伸び率に対する貢献は大きくネガティブとなるケースが多く、それに比較して情報装備Kiはどちらかといえば中立的な結果となっている。

「情報装備率の変化がTFPの成長率へ与える影響」についても、今回の分析期間では、情報装備Kiの伸びがほとんど認められなかったため結果として、評価に値するものとはならなかった。TFP成長率に対する情報装備率の変化の寄与度も僅かにポジティブな効果が計測されただけであり、結果的に中立的な評価となった。ただし、モデルの推計から得られた情報装備率の係数は、資本の分配率より大きな値であり、情報装備が非情報資本に比較して高い割合で増加した場合、TFPの成長に大きく寄与するポテンシャルを保持していることが確認できた。

4. 結び

今回の分析では、内閣府経済社会総合研究所により新たな調査項目が追加された2003年の「情報処理実態調査」に企業財務データベースをリンクさせ、情報装備の経済効果をより精緻に分析するための新たなデータベースを構築し、情報装備と付加価値生産性との関係を分析した。しかし、2001~2002年度は、企業がリストラクチャリングなどコスト削減を進めて企業業績を改善させる過程にあり、企業の利益は増加したものの、雇用者の賃金や設備投資は抑制されたため付加価値Qは全体として大きく伸びていない。今回のデータベースでも付加価値Qは僅かなプラスあるいはマイナスに留まっており、情報装備Kiの伸び率も低いという状況が改めて示される結果となった。その結果、付加価値生産性の伸び率に対する情報装備Kiの貢献はほとんど認められなかった。しかし、労働L、非情報資本Koが付加価値生産性の伸び率に大きくネガティブ作用したのに比較して、情報装備Kiはどちらかといえば中立であり、この点は評価しておく必要があろう。

一方、TFPの伸び率に対する情報装備率Zの変化の寄与度については、情報装備Kiの伸びがほとんど認められなかったため結果として、評価に値するものとはならなかったが、分析モデルの推計から得られた情報装備率の係数は、資本の分配率よりも大きく、TFPの成長率に対してポジティブな効果を与えるポテンシャルを保持していることが確認できた。

以上、情報化の経済効果を分析、検討することは、今後の日本経済を考究する上で極めて重要な仕事である。したがって、今回のような総合的なデータベースを継続的に構築し、一時的な経済環境の変化を除去した分析検討を進めることが必要であろう。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1 はじめに
  2. 1ページ
    2.1 分析に使用したデータベース
  3. 2ページ
    2.2 分析モデル
  4. 3ページ
    2.3 分析対象企業の抽出
  5. 3ページ
    2.4 デフレータ
  6. 4ページ
    2.5 分析結果
  7. 5ページ
    2.6 分析結果の検討
  8. 7ページ
    3.1 TFPの伸び率に対する情報装備率Zの効果に関する分析
  9. 8ページ
    3.2 TFPの成長率に対する差分Z(情報装備率Zの変化分)の寄与度
  10. 10ページ
    4 まとめ
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