ESRI Discussion Paper Series No.176
昭和恐慌期の財政政策と金融政策はどちらが重要だったか?

2007年3月
  • 原田 泰(株式会社大和総研チーフエコノミスト)
  • 佐藤 綾野(新潟産業大学専任講師)
  • 中澤 正彦(財務省財務総合政策研究所客員研究員)

要旨

1. 問題設定

1930年代の世界大恐慌の原因については、既に多くの経済学者が研究に取り組み、「金本位制」という一つの解に辿り着いている。多くの国で同時に負のデマンド・ショックが発生した原因として、これらの国が金本位制に固執して、デフレ的な金融政策を同時に追求したことを指摘している。

他方、日本の昭和恐慌に目を向けると、記述的な論文は多数あるものの、実証的な分析は決して多くはない。そして実証的な研究を行ったものにおいては、一般に、財政政策の昭和恐慌に与えた効果は大きいというものと小さいというものの両方がある。金融政策については、一般に、物価には影響を与えている可能性があるが、実質生産には影響を与えていないという結果が示されている。

なぜ日本において世界的な実証研究と異なる結果が示されているのだろうか。本研究は、この謎に答えることを目指したものである。

2. 手法

まず、昭和恐慌およびその回復期における財政政策および金融政策を簡単に振り返る。次に、昭和恐慌の実証研究を簡単にサーベイし、本稿における分析の枠組みを明らかにする。これまでの研究を踏まえ、昭和恐慌とそれからの回復過程を含む戦間期を対象に、財政政策と金融政策が生産や物価に対しどのような効果を持ったのかを、月次データを用い、変数間に制約を課さないVAR(Vector Autoregression:ベクトル自己回帰)モデルにより分析を試みた。

3. 結果

第1に拡張的な財政政策が生産の上昇に有意な効果があったという結果は見いだせない。これは財政変数として様々な変数を用いた場合でも変わらない結果だった。第2に物価の変動と金融政策が生産の変動に対し有意に影響があることを確認した。第3に金融政策の物価と実質生産に対する影響は有意であった。すなわち、金融政策と、過去の金融変数では表すことのできない物価のショックが、大恐慌の発生と脱出において影響を与えていた。過去の金融変数では表すことのできない物価のショックとは、期待を通じたものであると解釈できるが、その解明は今後の課題である。

これらの結果は、世界的な大恐慌研究の実証結果と共通している。これは、より適切な変数の選択とデータ処理を行ったことによるものと考えられる。

4. 終わりに

財政政策ではなければ、何が昭和恐慌からの脱却をもたらしたのかという疑問が当然に生じる。生産に対する物価とのマネーの影響が頑健であったことから、これらがその有力な候補者である。物価とマネーの生産に与える数量的効果は有意であるが、昭和恐慌を含む10年間の平均では、金融政策変数と物価は生産の変動の6分の1を説明しているだけである。昭和恐慌を分析するには、より特定の期間に焦点を当てた分析が今後必要である。

また、ここで用いた金融変数はM2である。M2は金融政策当局が目標とすることはできるが、直接コントロールすることができる政策変数ではない。では、M2はどのような変数によって影響を受けるのか。M2をどのようにコントロールできるのか。これらの問題に焦点を当てた分析も必要である。

数量的効果が十分でないにしろ、昭和恐慌を阻止するために金融政策が有効であるなら、それがなぜ発動されなかったかという疑問も生じる。それに対しては、金融政策が金本位制に執着したからだという答えが得られた。

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  2. 5ページ
    はじめに
  3. 6ページ
    1 昭和恐慌と昭和恐慌後の回復過程における財政金融政策
    1. 6ページ
      1-1 旧平価による金本位制への復帰と昭和恐慌
    2. 7ページ
      1-2 昭和恐慌からの脱出と回復過程
    3. 7ページ
      1-3 馬場蔵相以降の財政金融政策
  4. 7ページ
    2 先行研究と分析の枠組み
    1. 8ページ
      2-1 先行研究
    2. 10ページ
      2-2 本稿での分析
  5. 10ページ
    3 VARモデルによる分析
    1. 10ページ
      3-1 利用する変数
    2. 11ページ
      3-2 対象期間
    3. 11ページ
      3-3 単位根検定
    4. 12ページ
      3-4 VARモデルの推定
  6. 17ページ
    結論
  7. 18ページ
    参考文献
  8. 20ページ
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