ESRI Discussion Paper Series No.193
「日本の小売業の生産性は本当に低いのか― Shepardモデルによる数値実験 ―」

2007年12月
  • 中島 隆信(内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官)

要旨

失われた10年の「犯人」として生産性の低迷が槍玉に挙がっている。とりわけサービス業は伸び率とレベルの両面でアメリカに水をあけられているといわれる。最近では、政府からも経済成長のためのエンジンとしてサービス業の生産性向上を指摘する声があがり、そのために内閣府の経済社会総合研究所でも生産性研究のプロジェクトが立ち上がり始めている。

生産性の計測は確かに重要である。それが成長のために重要な役割を果たすことも否定はしない。しかし、その前になすべきことは生産性指標のもととなるインプットとアウトプットの定義を明確にすることである。とりわけ生産と消費が同時に生起するサービス業の場合、アウトプットの定義がきわめて難しい。銀行、保険、運輸、流通など単なる金額や輸送量などではサービスは評価できない。たとえば、人を1km運ぶサービスを家屋が転々とする地方の田園地帯と、ビルが密集する都心と同じアウトプットだと考える方がおかしいだろう。

本論文では、小売サービスに焦点を当て、アウトプットの定義を明確化した上で、それに基づく生産性指標を導き、近年における日本の経済環境の変化を踏まえたシミュレーション分析を行ってみたい。利用するモデルはShepard(JPE: 1991)にBertrand均衡の考え方を取り込んだものである。環境変化を表すシナリオは、(1)地域独占からBertrand型寡占競争へ、(2)消費者の選好の変化、(3)所得の低下、(4)賃金の下落、(5)労働の質の低下、という5段階を想定している。結果は以下のようにまとめられる。

  • 上記のシナリオのもとではほぼ一貫して小売マージンは低下する。
  • 独占から寡占への変化によって消費者の厚生は大幅に向上する。
  • 消費者の評価が高いサービスのシェアが増えれば小売サービスの生産性は向上する。生産性は競争によって高まるとは限らない。
  • 消費者の好みに生産性が左右される小売サービスでは、生産性の時系列比較や国際比較はほとんど意味がない。
  • 真の政策は小売サービスにおける消費者の選択肢を増やすことである。生産性はその結果としてついてくるだけにすぎない。

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全文の構成

  1. 1ページ
    1. Introduction
  2. 4ページ
    2. Modified Shepard’s Model
  3. 7ページ
    3. Numerical Experiment
  4. 13ページ
    4. Policy implications
  5. 14ページ
    5. Conclusion
  6. 15ページ
    References
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