ESRI Discussion Paper Series No.250
首都直下地震災害からの経済復興シナリオ作成の試み

2010年10月
  • 永松 伸吾(関西大学社会安全学部准教授)
  • 林 春男(京都大学防災研究所教授)

要旨

首都直下地震についての経済被害は直接間接合わせて112兆円と推計されている。だが、被害想定とはそもそも非常に不確実性の高い数字であり、実際にはより大規模な被害が生じる可能性もゼロではない。加えて、この数字だけでは、地震が実際の経済活動にどのような影響を与えて、その後の復興過程においてどのような問題をもたらすのかを十分にイメージすることは出来ず、具体的な対策の検討を困難にしている。

本稿はこのような問題に対処するため、不確実性下の意思決定手法の一つとして経営学の分野で用いられるシナリオ・プランニングにより、首都直下地震における経済被害とその後の復興過程についてのシナリオを作成することを試みた。シナリオは、次の二つの不確実性によって4つに分類される。

第一の不確実性は、我が国の財政破綻の懸念である。今後日本の財政状況がますます悪化した場合や、想定を遙かに上回る規模の地震が発生した場合は、復旧・復興資金の調達が極めて困難になる事態が想定される。第二の不確実性は、復興関連市場、特に建設業における需給ギャップである。復旧・復興需要の規模に比べて需給ギャップが十分に大きい場合は、物価上昇を伴わず速やかに住宅やインフラ・企業設備などを回復させることが出来るが、その反対に需給ギャップが小さい場合は、こうした物理的被害の回復に時間を要すると同時に、物価上昇のリスクが生じる。

現時点において中央防災会議による想定規模の首都直下地震が発生した場合は、それによって日本政府が財政破綻に陥るということは考えにくいものの、他方で国内建設市場の規模はすでに阪神・淡路大震災当時の半分程度に縮小しているため、国内の物価上昇が深刻化したり物理的な復旧が遅れるなどの影響が出る恐れがある。このような事態に対処するためには、震災廃棄物の処理等で海外への支援を求めると同時に、復旧・復興事業についても海外企業への協力を求めるといった大胆な戦略についても検討する必要があるだろう。

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全文の構成

  1. 3ページ
    1. はじめに
  2. 4ページ
    2. 経済被害想定からシナリオへ
    1. 5ページ
      2-1.経済被害想定の意義
    2. 5ページ
      2-2.経済被害想定の限界
    3. 7ページ
      2-3.シナリオ・プランニング
  3. 9ページ
    3. シナリオのフレームワークの設定
    1. 9ページ
      3-1.シナリオのユーザーおよび前提条件
    2. 9ページ
      3-2.対象災害である首都直下地震の概要
  4. 11ページ
    4. 先行研究のサーベイとケーススタディ
    1. 11ページ
      4-1.関東大震災の経済的影響
    2. 13ページ
      4-2.国土庁による南関東地震に関する調査
    3. 14ページ
      4-3.阪神・淡路大震災の経済的影響
    4. 17ページ
      4-4.東京を襲う大規模地震発生時の経済問題に関する既存文献
    5. 18ページ
      4-5.その他災害の経済的影響に関する既存研究
  5. 19ページ
    5. キー・ドライビングフォースの抽出
    1. 19ページ
      5-1.復旧・復興の資金調達の困難性
    2. 20ページ
      5-2.産業構造のソフト化による建設業供給能力の低下
    3. 20ページ
      5-3.グローバル化
    4. 20ページ
      5-4.地震被害の規模
  6. 22ページ
    6. シナリオの構築
    1. 22ページ
      6-1.ドライビングフォースの分類
    2. 23ページ
      6-2.財政破綻への懸念
    3. 23ページ
      6-3.復旧・復興関連市場の需給ギャップ
    4. 24ページ
      6-4.シナリオが前提とするマクロモデル
    5. 24ページ
      6-5.金融システムの安定性の仮定
  7. 25ページ
    7. 4つのシナリオ
    1. 26ページ
      7-1.シナリオI
    2. 27ページ
      7-2.シナリオII
    3. 28ページ
      7-3.シナリオIII
    4. 29ページ
      7-4.シナリオV
  8. 30ページ
    8. おわりに
  9. 31ページ
    謝辞
  10. 32ページ
    参考文献
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