ESRI Discussion Paper No.311
有配偶女性の生活環境と就労、出産、子育てに関する分析
~「少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査」の個票を用いて~

2014年9月
  • 佐藤 博樹東京大学社会科学研究所教授
  • 朝井 友紀子東京大学社会科学研究所助教
  • 高村 静東京大学社会科学研究所学術支援専門職員
  • 高見 具広独立行政法人労働政策研究・研修機構研究員
  • 麻田 千穂子前内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官
  • 飯島 亜希前内閣府経済社会総合研究所研究官

要旨

日本では少子化が進展し、その要因として未婚化・晩婚化と夫婦出生力の低下が指摘されている。このうち夫婦の出生力には、妻の就業形態、子どもに期待する教育水準、妻の負担感、夫の関わり方など、夫婦の経済環境・生活環境が影響していると考えられる。

経済社会総合研究所では、少子化の動向を検討するための基礎的資料となる夫婦の出生力に関する分析を行うため、25歳から39歳までの有配偶女性で、子ども数0人又は末子が6歳未満の層を対象に、本人の就業形態及び現在子ども数別に、夫婦の就業状況、生活環境、出生意欲等についての意識調査を実施した。本稿の第1部では、この意識調査の趣旨、方法及び主な調査結果について紹介する。第2部では、意識調査の個票を用いて、有配偶女性の出生意欲に関係する要因について異なる角度から分析した結果を報告する。分析テーマと主な結論は次のとおりである。

1)正規雇用に比較して有期雇用の妻は第一子の出生意欲が低い理由と両者の規定要因:
正規雇用の妻と有期雇用の妻の、(1)経済環境の差、(2)勤務先の両立支援の差、(3)保育利用可能性の差のうち、夫の低収入割合の差及び勤務先の両立支援の差は両者の第一子出生意欲の差をもたらしているが、家計の経済状況全般の差及び保育利用可能性の差は正規有期の第一子出生意欲の差には影響がなかった。正規雇用妻の第一子出生意欲には両立支援と保育は明確な正の効果がある一方で、有期雇用妻の第一子出生意欲には両立支援は弱い正の効果があり、保育は効果がみられなかった。
2)正規雇用としての就業継続と、学卒時の就業継続意欲や初期キャリア:
学卒時の就業継続意欲が高い者ほど、正規雇用として就業継続しており、また企業は、より人的資本からの収益率の高い者や、今後長く働くことが予測される者(就業意欲が高い者)に対してOJTの機会を提供している。入職時におけるOJT体験が正規就業確率を高める効果は確認されなかったが、OJT経験は、その後の賃金向上には一定程度貢献していた。
3)子どもに期待する教育水準と出生意欲:
第1に、理想子ども数と教育アスピレーションには、正規雇用の場合にマイナスの関係がみられる。第2に、教育アスピレーションは妻の学歴が高い場合に強い傾向があり、さらに妻の収入が高かったり、充実した仕事経験を持つ場合にも高い。第3に、子育ての経済的負担感は教育アスピレーションが高い場合に強いとの傾向はみられなかった。第4に、教育アスピレーションが予定子ども数とマイナスとなるのは有期雇用と無職の場合であった。第5に、予定子ども数が経済的負担感によってマイナスであるのは無職の場合であった。
4)育児期における妻の負担感及び配偶者との関係と出生意欲:
育児中の女性は、子育てを肯定的に捉える者が主だが、子どものない妻に比べ日常生活で「イライラしている」割合が高く、何らかの負担を感じている人が少なくない。子ども数1人の女性において、「イライラ」があると子育てを「楽しい」と感じられない場合があり、それが追加出生意欲を低下させている可能性がうかがえた。育児期の女性の負担感には、子どもの数や年齢、教育熱心であることに加え、配偶者のかかわり方が影響している。まず、配偶者の家事育児分担は、正規雇用女性にとって重要なサポートとなる。ただ、配偶者の仕事が忙しすぎる場合、妻へのサポートを行う以前に、家庭にいても配偶者の心理状態が仕事から解放されないことが、妻にも心理的負担をもたらしていた。

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有配偶女性の生活環境と就労、出産、子育てに関する分析
 ~「少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査」の個票を用いて~別ウィンドウで開きます。
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  1. 2ページ
    【要旨】別ウィンドウで開きます。(PDF形式 687 KB)
  2. 4ページ
    Abstract
  3. 7ページ
    目次
  4. 10ページ
    序章 本研究から得られた知見 佐藤 博樹
  5. 17ページ
    1. 17ページ
      1 調査結果の概要
      1. 17ページ
        1-1 調査方法
      2. 18ページ
        1-2 回答者の属性
    2. 22ページ
      1. 22ページ
        2-1 ライフコースについて
      2. 24ページ
        2-2 就業意向について
      3. 33ページ
        2-3 子どもの数について
      4. 35ページ
        2-4 子育てと仕事の両立について
      5. 37ページ
      6. 38ページ
        2-6 子育てに対する考えについて
      7. 40ページ
        2-7 夫婦関係、生活満足について
      8. 45ページ
        2-8 価値観について
  6. 47ページ
    1. 47ページ
      第1 章 妻の雇用形態別にみた第一子出生意欲の規定要因の分析
       ~有期妻の第一子出生意欲はなぜ正規妻より低いのか~ 麻田 千穂子
      1. 47ページ
        1 はじめに
      2. 49ページ
        2 サンプルの属性
        1. 49ページ
          2-1 サンプルの属性
        2. 50ページ
          2-2 理想の数の子どもを持たない理由
        3. 51ページ
          2-3 記述統計
      3. 52ページ
        3 仮説と分析方法
        1. 52ページ
          3-1 仮説
          1. 53ページ
            3-1-1 経済環境仮説
          2. 53ページ
            3-1-2 両立支援仮説
          3. 54ページ
            3-1-3 保育仮説
      4. 54ページ
        3-2 分析方法
      5. 56ページ
        4 推定結果
        1. 56ページ
          4-1 推定結果
        2. 59ページ
          4-2 考察
          1. 59ページ
            4-2-1 正規有期の出生意欲の差について
          2. 60ページ
            4-2-2 正規妻、有期妻の第一子出生意欲について
      6. 61ページ
        5 まとめ
        1. 61ページ
          5-1 本分析で得られた知見
        2. 62ページ
          5-2 含意
        3. 63ページ
          5-3 今後の課題
    2. 65ページ
      第2 章 キャリア初期の人材育成と有配偶女性の就業
       -少子化と夫婦の就労状況・生活環境に関する意識調査を用いた分析- 朝井 友紀子
      1. 65ページ
        1 はじめに
      2. 66ページ
        2 先行研究のレビュー
        1. 66ページ
          2-1 就業継続に関する研究
        2. 67ページ
          2-2 人材育成に関する先行研究
      3. 69ページ
        3 データと記述的分析
        1. 69ページ
          3-1 データ
        2. 69ページ
          3-2 記述的分析
      4. 73ページ
        4 だれが入職5年間にOJTを受けているのか
      5. 77ページ
        5 正規就業確率の推定
      6. 81ページ
        6 賃金関数の推定
      7. 86ページ
        7 まとめと考察
    3. 90ページ
      1. 90ページ
        1 問題意識
      2. 90ページ
        2 先行研究
        1. 90ページ
          2-1 教育アスピレーション
        2. 91ページ
          2-2 出生意向
        3. 92ページ
          2-3 教育アスピレーションと出生意向
      3. 93ページ
        3 分析
        1. 93ページ
          3-1 分析のフレームワークと仮説
        2. 95ページ
          3-2 基本統計
        3. 99ページ
          3-3 教育アスピレーションの規定要因
        4. 99ページ
          3-4 教育アスピレーションは経済的負担感を強めるか
        5. 103ページ
          3-5 教育アスピレーションは出生意欲を低めるか
        6. 105ページ
          3-6 小括
      4. 105ページ
        4 まとめ
        1. 105ページ
          4-1 全体モデル
        2. 106ページ
          4-2 議論
    4. 110ページ
      第4 章 育児期における女性の負担感と配偶者の関わり -子ども1人の女性を中心に- 高見 具広
      1. 110ページ
        1 問題意識
      2. 111ページ
        2 育児期における負担感の所在
        1. 111ページ
          2-1 育児期における女性の意識
        2. 113ページ
          2-2 イライラがあることの意味―追加出生意欲への影響
      3. 114ページ
        3 育児期の女性は何に負担を感じているのか
        1. 114ページ
          3-1 子育て自体に起因する部分
        2. 116ページ
          3-2 配偶者の関わり方
        3. 118ページ
          3-3 配偶者の働き方の影響―帰宅時刻による違い
      4. 120ページ
        4 育児期の女性における負担の所在―計量分析による検証
      5. 122ページ
        5 子ども1 人の女性における追加出生意欲の規定要因
      6. 124ページ
        6 結論
  7. 127ページ
    参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.41 MB)
    1. 127ページ
      調査票
    2. 162ページ
      単純集計表
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