ESRI Discussion Paper No.323
少子化と未婚女性の生活環境に関する分析
~出生動向基本調査と「未婚男女の結婚と仕事に関する意識調査」の個票を用いて~

2015年8月
松田茂樹
中京大学現代社会学部教授
佐々木尚之
大阪商業大学総合経営学部講師
高村
内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官付
大澤朗子
内閣府経済社会総合研究所研究官
小野田
内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官
藤澤美穂
内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官
上村秀紀
内閣府経済社会総合研究所研究官
石田絢子
内閣府経済社会総合研究所行政実務研修員

要旨

1970年代半ば以降の出生率低下のほとんどは未婚化によってもたらされている。出生率を回復させるためには未婚化の背景要因を把握した上で、少子化対策の拡充等により未婚化の流れを止めることが不可欠である。

経済社会総合研究所では、少子化の動向や未婚者の状況を分析するため、2010年の「出生動向基本調査(独身者調査)」(調査対象者:18歳から50歳未満の男女独身者)の二次分析を実施した。

さらに、未婚化の動向についてより詳細な項目について検討する基礎資料とすることを目的に、25歳から40歳未満の男女未婚者を対象に結婚に対する意識調査(「未婚男女の結婚と仕事に関する意識調査」)を実施した。調査には出生動向基本調査と同様の問を設け結果を比較するとともに、未婚者の生活環境(家族の状況、職場の環境や本人の働き方、居住地域の状況等)を尋ね、出生動向基本調査では解明できなかった分析も実施した。

また、平成26年7月から平成27年5月に執筆者メンバー等で会し、5回の議論を行った。

本稿の第1部では、独自に実施した意識調査の趣旨、方法および主な調査結果について報告する。第2部では出生動向基本調査の二次分析と、意識調査の個票を用いて、未婚者の結婚に対する意識や価値観について異なる角度から分析した結果を報告する。分析テーマと主な結論は以下の通りである。

1)職場における出会いと結婚意欲の関係:

正規雇用者よりも非正規雇用者の方が結婚意欲が低いという調査結果をふまえて、その理由が、結婚市場のミスマッチ仮説を背景とする「出会い仮説」(身近(本稿では特に職場)における「結婚したい」と思える魅力ある異性の数が少ないために、結婚意欲は高くはならず、結婚に至る確率も低いという説)から説明できるか否かを検証した。分析の結果、この仮説はおおむね支持された。

非正規雇用者の結婚意欲を低くしている要因の一部は、交際相手がいることが少ないことであった。さらに未婚男女の職場独身異性ネットワーク(職場で日常的に接する40歳ぐらいまでの独身異性)を測定したところ、関東以外の地域に住む者、規模の小さい企業に勤める者および非正規雇用者は、職場にいる独身異性の人数が少なく、また、非正規雇用者の周囲では正規雇用者の割合も低い。このような職場独身異性ネットワークの特徴が非正規雇用者の結婚意欲を低くしていることが明らかになった。

このため、若い世代には職縁結婚に代わる配偶者探しの場が必要であり、特に関東以外の地域に住む者、規模の小さい企業に勤める者および非正規雇用者が利用できる結婚支援を充実させることが求められる。また雇用の非正規化が進む中、若い世代の安定雇用を促進する必要がある。

2)未婚男女の出会いの阻害要因:

結婚意欲のある未婚男女が潜在的な結婚相手に出会えていない要因について、地域の特性を考慮し、個人の属性や結婚相手に求める条件との関連で分析した。親と同居している女性の場合、結婚のメリットを感じにくく、出会いに抑制的であった。親の暮らし向きが良いことは、男女ともそれ自体が出会いの機会にプラスである。これらの結果は資源の世代間移動を示唆している。親の暮らし向きが高いと男女ともに大卒割合や正規雇用の割合や年収が高い。本人の年収は特に未婚男性の出会いに大きく影響している。

女性にとって長時間労働は出会いの阻害要因である。また子どもが自分や家庭生活にプラスの要素をもたらす存在であると考える女性は、男性に求める条件が厳しくなり、その結果出会いがないと感じている。固定的な性別役割分業意識をもつ大規模都市に住む男性ならびに小中規模都市に住む女性や、男性の経済力を重視する女性が潜在的な結婚相手に出会えないと感じている。

なお居住する市町村の年齢や学歴の人口構成、雇用状況などの地域特性は出会いの阻害要因ではなかった。ただし出会いの阻害要因は都市規模により異なるため地域の実情にあった対策の立案が必要である。また固定的な性別役割分業意識が結婚相手との出会いの阻害要因の1つである現状を踏まえれば家族の在り方の再考が必要で、男女ともに仕事と家庭を両立できる両立支援・環境整備が必要である。さらに資源の世代間移動・貧困の世代間連鎖が少子化にも影響していることが考えられ、子育ての社会化や子どもの貧困対策が不可欠である。

3)未婚者の結婚・出生意欲を規定する諸要因について:

未婚者の結婚意欲と出生意欲は同時性が高い。両者を規定する要因を分析すると、男性では雇用形態に拘らず、年収が増加する見通しを持つことが結婚・出生の両者の意欲に対してプラスの影響を与えていた。女性正規雇用者では、年収の増加見込みがある者は、結婚意欲が低くなっていた。

また、家族や職場・社会における社会関係資本・社会資本の充実が結婚・出生の意欲を高める効果がみられた。家庭要因では両親との関係が良好であること、仕事・職場要因では仕事での挑戦の機会があることが結婚・出生の意欲の両方に、また職場の女性が結婚後も就業継続していることは、男女の結婚意欲にプラスであった。地域の保育サービスの利用可能性が高いことには、男女および雇用形態にかかわらず、結婚・出生意欲にプラスに影響している状況が見られた。

未婚者の結婚の意欲は出生の意欲と相互に強く影響し合っているため、結婚の意欲を高めるには個々人の社会関係資本の充実を進めることに加え、出生までを見越した社会環境の整備が必要である。また結婚の目的が出生に収斂しつつある現状を踏まえると、出生以外の結婚のメリットに言及することも必要である。若い世代に向け様々な結婚のロールモデルを提供することも重要な視点と考えられる。

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少子化と未婚女性の生活環境に関する分析
~出生動向基本調査と「未婚男女の結婚と仕事に関する意識調査」の個票を用いて~別ウィンドウで開きます。
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  1. 2ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.77 MB)
  2. 4ページ
    Abstract
  3. 8ページ
    目次
  4. 10ページ
    序章 研究の目的と概要 松田 茂樹
  5. 16ページ
    第1部 「未婚男女の結婚と仕事に関する意識調査」について 大澤 朗子
    1. 16ページ
      1 調査の趣旨
    2. 17ページ
      2 調査について
      1. 17ページ
        2-1 調査方法
      2. 18ページ
        2-2 回答状況
    3. 19ページ
      3 主な調査の結果について
      1. 19ページ
        3-1 交際している異性の有無・交際の希望・結婚の希望
      2. 21ページ
        3-2 結婚に対する考え方
      3. 22ページ
        3-3 結婚相手を決めるときに重視・考慮すること
      4. 25ページ
        3-4 結婚に向けた行動(交際している異性がいない人)
      5. 26ページ
        3-5 独身でいる理由
  6. 32ページ
    第2部 個票データによる分析
    1. 32ページ
      第1章 職場における出会いと結婚意欲の関係 松田 茂樹
      1. 32ページ
        1 問題設定
      2. 33ページ
        2 データ
      3. 34ページ
        3 グループインタビュー
        1. 34ページ
          3-1 当初の結婚意欲
        2. 35ページ
          3-2 結婚意欲が強くなったきっかけ
      4. 36ページ
        4 出生動向基本調査の二次分析
        1. 36ページ
          4-1 2変量分析
        2. 39ページ
          4-2 結婚意欲についての多変量解析
      5. 43ページ
        5 インターネット調査の分析
        1. 43ページ
          5-1 職場独身異性ネットワーク
        2. 45ページ
          5-2 職場独身異性ネットワークと交際相手
        3. 46ページ
          5-3 職場独身異性ネットワークと結婚意欲の関係
          1. 46ページ
            5-3-1 結婚意欲の変数
          2. 46ページ
            5-3-2 2変量分析
          3. 48ページ
            5-3-3 多変量解析
      6. 55ページ
        6 分析から得られた知見とインプリケーション
        1. 55ページ
          6-1 知見
        2. 55ページ
          6-2 政策的インプリケーション
    2. 60ページ
      第2章 未婚男女の出会いの阻害要因 佐々木 尚之
      1. 60ページ
        1 はじめに
      2. 63ページ
        2 方法
        1. 63ページ
          2-1 データ
        2. 63ページ
          2-2 変数
      3. 67ページ
        3 結果
        1. 67ページ
          3-1 出生動向基本調査の分析
        2. 70ページ
          3-2 インターネット調査の分析
      4. 72ページ
        4 考察
      5. 74ページ
        5 政策的含意
    3. 83ページ
      第3章 未婚者の結婚・出生意欲を規定する諸要因について 高村 静
      1. 83ページ
        1 問題意識
      2. 84ページ
        2 先行研究
      3. 85ページ
        3 データ
      4. 86ページ
        4 分析
        1. 86ページ
          4-1 出生動向基本調査による分析
          1. 86ページ
            4-1-1 結婚意欲と出生意欲
          2. 87ページ
            4-1-2 結婚意欲・出生意欲とライフコース
          3. 89ページ
            4-1-3 結婚意欲・出生意欲への影響が考えられる要因
          4. 91ページ
            4-1-4 結婚意欲関数と出生意欲関数の同時推定
        2. 93ページ
          4-2 インターネット調査による分析
          1. 93ページ
            4-2-1 調査結果の概要と推計に含まれる変数
          2. 99ページ
            4-2-2 結婚意欲関数と出生意欲関数の同時推定
      5. 104ページ
        5 結論・政策含意
  7. 107ページ
    参考資料別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.51 MB)
    1. 107ページ
      調査票
    2. 129ページ
      単純集計表
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