ESRI Discussion Paper No.325
労働時間と過労死不安

2016年1月
亀坂安紀子
青山学院大学経営学部教授、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官
田村輝之
高知工科大学経済・マネジメント学群助教

要旨

2014年11月に「過労死等防止対策推進法」が施行され、過労死防止のための対策が日本でも喫緊の課題となっている。本稿では、内閣府が実施した「平成24年度生活の質に関する調査(世帯調査:訪問留置法)」の個票データを使用し、労働時間が「過労死」に対する不安に与える影響を分析する。その結果、男性については、週労働時間が「60時間」を超えると過労死不安が有意に高まることが示され、女性については、週労働時間が「45時間」を超えると過労死不安が有意に高まることが示された。この労働時間が過労死不安に与える影響についての分析結果は頑健であり、かつ、日本では過労死不安を抱く労働時間には、統計的に有意に男女差が存在することが本稿によって明らかにされた。

日本の場合、国際比較などを含む様々な調査において、男性に比べて女性の家事負担が大きいことが報告されている。このため、日本では男性同様、女性についても、家事時間を考慮すると就労により過重負担が生じやすいこととなる。日本で男女間の家事分担の格差が解消されない限り、女性に男性と全く同一の条件で働くことを求めれば、特に結婚・出産などで家事負担が増しがちな女性の就労継続を事実上難しくしている可能性が高いと思われる。また、家事・育児負担の他、介護に関する問題は男女に共通であり、高齢化の進展により仕事との両立の問題は今後より重要になると思われる。

このような状況下で、長時間労働を抑制する対策としては、これまで主として割増賃金率(間接規制)と労働時間の上限の設定(直接規制)について議論されてきた。しかし、割増賃金率の増加だけでは、長時間労働の改善が難しいことが報告されている。また、職場の労働時間の管理のあり方や女性の働き方への配慮、新卒採用に偏った単線型のキャリアパスの是正、ライフステージに応じた柔軟な働き方など、多様な労働市場の改革を進めて、誰もが意欲的に就業できる社会を実現する必要性について議論する。

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全文の構成

  1. 1ページ
    要旨
  2. 3ページ
    1. はじめに
  3. 5ページ
    2. 先行研究
    1. 5ページ
      1. 長時間労働が健康に及ぼす影響
      1. 5ページ
        1.1 疫学的な観点からの研究
      2. 7ページ
        1.2 メンタルヘルス指標を用いた研究
    2. 8ページ
      2. 政府による労働時間規制の必要性
    3. 9ページ
      3. 各国の労働時間規制
      1. 9ページ
        3.1 日本の三六協定
      2. 9ページ
        3.2 欧米の労働時間規制
  4. 10ページ
    3. データと分析対象変数
    1. 11ページ
      各変数の整理
  5. 12ページ
    4. 推計結果
  6. 16ページ
    5. 要約と今後の展望
  7. 20ページ
    図1 週労働時間が60 時間以上の雇用者割合
  8. 21ページ
    図2 週労働時間が60 時間以上の男性の年代別就業者割合
  9. 22ページ
    図3 過去10 年間の脳・心臓疾患(「過労死」等事案)に係る労災補償状況
  10. 23ページ
    図4 過労死不安と希死念慮の関係
  11. 24ページ
    図5 労働時間と過労死不安
  12. 25ページ
    表1 男女別「過労死不安」の分布
  13. 26ページ
    表2 記述統計
  14. 27ページ
    表3 推計結果:男性サンプル
  15. 28ページ
    表4 推計結果:女性サンプル
  16. 29ページ
    表5 推計結果:女性サンプル(サブサンプル:子どもの有無)
  17. 30ページ
    表6 推計結果:男性サンプル(職場のWLB(ワーク・ライフ・バランス)整備状況を考慮)
  18. 31ページ
    表7 推計結果:女性サンプル:(職場のWLB(ワーク・ライフ・バランス)整備状況を考慮)
  19. 32ページ
    補遺:質問項目の詳細「平成24年度生活の質に関する調査」
  20. 34ページ
    参考文献
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)