ESRI Discussion Paper No.332
結婚の意思決定に関する分析
~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~

2016年9月
佐藤博樹
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授
三輪
東京大学 社会科学研究所 社会調査・データアーカイブ研究センター 准教授
高見具広
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 研究員
高村
内閣府 経済社会総合研究所 上席主任研究官付
石田絢子
内閣府 経済社会総合研究所 行政実務研修員

要旨

未婚状態から結婚状態への移行を検討する際、交際へ移行する過程と交際から結婚へ移行する過程では意思決定に影響を及ぼす要因が異なることが明らかになりつつある。

経済社会総合研究所では、交際から結婚への移行に焦点を当て、若年層の結婚への意思決定についての考え方の詳細とその変化を検討するための基礎的資料となる調査を行うため、全国に居住する25歳~34歳のうち、3年前に未婚でありかつ恋人として交際していた異性がいた男女を対象に意識調査(「結婚の意思決定に関する意識調査」)を実施した。調査では主に出会いや交際、生活や暮らし、働き方、価値観、社会関係性、結婚などについて3年前と現在または結婚を決めた当時の2時点について調査した。可能な範囲で交際相手の意識に関する情報も収集した。

また平成27年8月~平成28年5月に執筆メンバー等で会し、計5回の議論を行った。

本稿の第1部では、独自に実施した意識調査の趣旨、方法及び主な調査結果について報告する。第2部では意識調査の個票を用いて、未婚者の結婚に対する意思決定について異なる角度から分析した結果を報告する。分析テーマと主な結論は以下の通りである。

1)20代未婚者における交際相手との結婚意欲―男女による高まり方の違いと問題─

交際相手のいる20代未婚男女の結婚意欲と結婚決定までのプロセスを分析したところ、女性は20代後半(特に27~29歳頃)で近いうちの結婚を希望する人が多いが、同年齢層の男性では「結婚はまだ先でよい」と考える人が多いことが分かった。カップルの結婚を決定するのは男性が多いという発見と合わせると、男性の結婚意欲が20代で高まりにくいことが結婚決定の障壁となっていよう。男性の結婚意欲は、正規雇用であるかどうか、将来的なキャリア展望を描けるかどうかなど、本人の仕事の状況に大きく左右される。加えて、長い交際期間や密接なやり取りなど、交際相手との関係が深まる中で結婚意欲も高くなりやすい。さらに、男性は女性と比べて周囲からの影響で結婚意欲が喚起される部分は少ないが、親戚・親類付き合いがある人では、年齢等の結婚に対する規範意識の高まりを通じて、結婚意欲も高まりやすい。

なお、男性の気持ちが結婚に向かわない背景には、不安定な働き方に加え、一定の年齢を越えての親との同居が結婚の便益をイメージしにくくさせている面も考えられる。希望に応じ進学時や就職時に離家を選択しやすいよう、社会として条件を整える必要があろう。

2)結婚の意思決定と結婚意欲

若年者の結婚に対する考えの詳細とその変化をたどることができるという本調査データの特徴を踏まえ、トランジションモデルを用いて若年層の交際状態から結婚に至る3段階の意思決定に対する規定要因を順次、分析をした。

その結果、交際の継続という段階では、社会経済的要因の効果はほとんどみられず、交際継続というイベントに対しては居住年数の長さや相手居住地の近さがプラスに、周囲の異性や結婚している知人の多さがマイナスに影響した。続いて自分から結婚の意思決定を行うというイベントに関しては、非正規雇用や自営業だと男性のほうから意思決定しにくいなどの点が分かった。さらに本人が意思決定をせず相手が先に結婚の意思決定をするという段階に進むと、女性の場合学歴が高いほど相手の男性から意思決定されるというイベントが起こりにくいなどの状況が見られた。社会経済的地位は、概ね、男性の意思決定において顕現しているとみることができる。

なお本人の結婚意欲は常に結婚の意思決定に強い影響を及ぼす点も合わせて確認された。3年前と現在の2時点の結婚意欲の中身を比較し構造化したところ、男性はその構造が明確である一方、女性はその輪郭が曖昧である状況が見られた。

結婚の意思決定に対しては、男性の社会経済的地位の低さや結婚意欲の弱さが妨げとなっているが、仕事の不安定さや低賃金労働の解消とともに個人の結婚等の希望が実現できるライフデザイン教育の中等教育レベルの年代への導入なども求められる。

3)個人の社会関係性が交際から結婚への移行に及ぼす影響

若い世代の交際から結婚への移行に焦点を当て、これまであまり検討されることのなかった社会関係性の影響について検討を行った。その結果、全体を対象とした分析では近しい人との親密な人間関係を示すbonding型(付合い)の社会関係性が結婚に対してプラスに影響することが確認された。若い世代の結婚への移行をためらわせる要因の1つに男性の収入が女性の収入よりも低いというカップルの組合せがあることが示されたが、この場合には、より広い社会的な範囲や多様な価値観と繋がることを可能とするbridging型(付合い)の社会関係性や生活スキルの高さに、そのような状況であっても結婚への移行を高める可能性のあることが示された。雇用状況の改善に加え、bridging型(付合い)の社会関係性や生活スキルの蓄積を進める可能性のある離家への支援や、婚活だけを目的とするのではない、Uターン者受入れや様々な価値観を結び付けやすくする活動機会の提供などもまた必要とされると考えられる。

全文ダウンロード

結婚の意思決定に関する分析~「結婚の意思決定に関する意識調査」の個票を用いて~別ウィンドウで開きます。(PDF形式 3.9 MB)

項目別ダウンロード(全5ファイル)

  1. 2ページ
    【要旨】別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.2 MB)
  2. 4ページ
    Abstract
  3. 6ページ
    目次
  4. 8ページ
    序 「結婚の意思決定に関する研究」
  5. 11ページ
    第1部 「結婚の意思決定に関する意識調査」について
    1. 11ページ
      1.調査の趣旨
    2. 12ページ
      2.調査について
      1. 12ページ
        2.1 調査方法
      1. 13ページ
        2.2 回答状況
    3. 14ページ
      3.主な調査の結果について
      1. 14ページ
        3.1 結婚に対する希望について
      2. 15ページ
        3.2 交際相手との結婚の希望について
      3. 22ページ
        3.3 家族形成に対する意識について
      4. 23ページ
        3.4 結婚後の生活に関する意識について
      5. 24ページ
        3.5 仕事や生活に関する意識について
    4. 28ページ
      4.まとめ
    5. 29ページ
      参考文献
  6. 30ページ
    【第2部第1章】別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.3 MB)
    1. 30ページ
      1.問題意識
    2. 32ページ
      2.結婚意欲はどう問題なのか
    3. 34ページ
      3.結婚意欲を左右するもの―男女の違い
      1. 34ページ
        3.1 結婚意欲有無の理由から
      2. 36ページ
        3.2 仕事の状況と結婚意欲
      3. 38ページ
        3.3 交際相手との関係性と結婚意欲
      4. 40ページ
        3.4 周囲からの影響と結婚意欲
    4. 42ページ
      4.20代の未婚男女における結婚意欲の規定要因
      1. 42ページ
        4.1 20代男性における結婚意欲の規定要因
      2. 44ページ
        4.2 20代女性における結婚意欲の規定要因
    5. 46ページ
      5.結論と考察
    6. 48ページ
      参考文献
  7. 49ページ
    第2部第2章 結婚の意思決定と結婚意欲
    1. 49ページ
      1.はじめに
    2. 50ページ
      2.研究方法
      1. 50ページ
        2.1 データ
      2. 51ページ
        2.2 分析手法
      3. 52ページ
        2.3 変数
    3. 56ページ
      3.分析結果
      1. 56ページ
        3.1 結婚に至る要因
      2. 58ページ
        3.2 結婚までの過程における諸要因の影響
      3. 60ページ
        3.3 結婚意欲がある人にとっての結婚意思決定までの考えの筋道
      4. 65ページ
        3.4 結婚意欲がない人にとっての結婚意思決定までの考えの筋道
    4. 67ページ
      4.まとめ
    5. 68ページ
      参考文献
  8. 70ページ
    【第2部第3章】別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.2 MB)
    1. 70ページ
      1.問題意識
    2. 71ページ
      2.先行研究
    3. 73ページ
      3.個人の社会関係性の計測と状況
      1. 73ページ
        (1)個人の社会関係性とその計測
      2. 75ページ
        (2)個人の社会関係性の状況
      3. 78ページ
        (3)離家の経験と社会関係性
    4. 84ページ
      4.個人の社会関係性が交際から結婚への移行に与える影響
      1. 84ページ
        (1)交際から結婚への移行に与える直接的な影響
      2. 87ページ
        (2)交際から結婚への移行に与える間接的な影響
      3. 91ページ
        (3)離家の経験と社会関係性
    5. 97ページ
      5.結論
    6. 98ページ
      参考文献
  9. 100ページ
    【調査票】別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.1 MB)
  10. 142ページ
    【単純集計表】別ウィンドウで開きます。(PDF形式 1.2 MB)
  • 〒100-8914
    東京都千代田区永田町1-6-1 中央合同庁舎第8号館
  • 電話 03-5253-2111(代表)