経済分析-政策研究の視点シリーズ 第14号
知識・情報集約型経済への移行と日本経済

1999年4月
  • 吉川 薫(白鴎大学経営学部教授、前経済企画庁経済研究所次長)
  • 田丸 征克(九州大学経済学部助教授、前経済企画庁経済研究所総括主任研究官)
  • 山口 慎一(経済企画庁経済研究所委嘱調査員、三和銀行)

(要旨)

  1. 近年、経済活動において知識・情報等がフロー、ストックの両面で重要な位置を占めるようになってきている。こうした「知識・情報集約型経済」への移行が1980年以降日本経済においてどういう形で進行しているか産業連関表を利用して分析すると、イ)情報関連部門(金融・保険は含まない)の経済全体の付加価値に占める比率は実質付加価値(90年価格)では80年の11%から95年には18%弱に上昇してきている。ロ)これに非情報関連部門の組織内の情報活動(第2次情報部門)を加えるとその比率(実質付加価値ベース)は80年の29%から95年の37%に上昇している。ハ)また、90~95年の推移をみると、名目付加価値に占める情報関連部門の比率は横ばいになるなど「知識・情報集約化」のテンポに鈍化がみられるが、これはバブル崩壊後の景気低迷によるGDP成長率の低下や「情報の収集・提供」に含まれる「不動産仲介・管理」の大幅な落ち込みという特殊要因の影響が大きく、それらを除くと中長期的な「知識・情報集約化」のトレンドに大きな変化はみられない。

  2. 付加価値に占める情報関連部門の比率の推移について過去の研究結果と比較すると、過去の研究における予測―情報関連部門(=第1次情報部門)の比率は上昇するが、第2次情報部門の比率は微減―とは異なり、第1次情報部門の比率の上昇が90年以降鈍化する一方、第2次情報部門の比率も低いながら上昇を続けている。経済全体の中間投入に占める情報関連財サービスの比率でみても80年の11.1%から95年には20%へと上昇しており、これは非情報関連部門でも同様の動きである。このように、近年の「知識・情報集約化」の動きをみると、バブル崩壊後の景気低迷等から情報関連部門の増大のペースが鈍る一方、非情報関連部門内の「知識・情報集約化」はダウンサイジングやネットワーク化の動きのなかで引続き進展してきていることがうかがえる。

  3. 「知識・情報集約化」を雇用面からみると、情報関連部門の雇用者数の雇用者全体に占める比率は80年の14%から95年には16%に上昇しており、非情報関連部門の雇用者数の伸びを上回っている。これは情報関連部門においては生産性向上による雇用節約効果が非情報関連部門より大きかったものの、経済成長のなかで情報関連部門への需要拡大による雇用創出効果が大きかったためである。ただ、90年から95年にかけては景気低迷のなかで非情報関連部門雇用者数の伸びの方がやや高い。また、情報関連職種(一般事務従事者を含む)の雇用者数の雇用者全体に占める比率をみると、80年の36%から95年に40%へと上昇している。そのなかで特に伸びの大きいのは、研究者・技術者・デザイナーなど「情報の創造・生産」や会社役員・管理者など「意思決定・計画・調整」に携わる職種である。一方、情報化の進展のなかで「一般事務従事者」については、雇用の増加は続いているものの、その伸びは次第に鈍化し雇用者全体の伸びを下回ってきている。

  4. 日本経済において情報化が経済成長や生産性に及ぼす効果について、需要面から情報関連投資の成長への寄与をみると、民間設備投資に占める情報関連投資の比率の上昇によりその寄与は高まってきており、特に94~96年には成長を支える重要な要因となった。また、供給面からは80年代後半以降情報関連ストックの蓄積が進むなかで、そのマクロ的な生産性上昇に対する影響力は高まってきている。

  5. 米国において「知識・情報集約化」の進展にもかかわらずマクロの生産性上昇率が低い原因の一つとして、経済統計の不備が指摘されている。この点を日本について検討してみると、GDPにおけるサービス業の把握については新しいサービスの把握に問題がないとはいえないが名目値で一定方向のバイアスはみられない。CPIについては品質調整等にさらに検討の余地があるが、品目の代替効果によるバイアスは米国よりずっと小さいとみられる。なお、93年のSNA国際基準の改訂において、「知識・情報集約化」に関連してソフトウェア開発を固定資本形成とすること、特許権・著作権の使用許諾行為を生産活動(ライセンシングサービス)とすることなどの変更が加えられた。日本では次回のSNA基準改訂でその一部が取り入れられると見られるが、95年産業連関表速報では受注ソフトウェア開発を固定資本形成として推計しており、その額は約3.6兆円(国内総固定資本形成の2.6%)となっている。

  6. 90年代に入って、急速に普及してきたパソコンのソフトウェアについて、その費用構造をMS社の損益計算書からみると、86年第1四半期から96年第4四半期までの売上高の経費に対する弾性値は1よりやや高いところで安定していたが、97年頃から経費の対売上高比率は急速に低下している。これは95年頃まで激しい競争による価格低下によって生産規模が拡大するなかでも売上高が抑制されてきたが97年頃からシェア拡大のなかで利潤率を高めていることをうかがわせる。

  7. 以上の分析を踏まえて、「知識・情報集約化」の進展を日本経済の持続的安定的発展につなげていくための政策対応の方向を考えると、中長期的な「知識・情報集約化」に対する政府の役割としては、政府自身が技術やシステムの方向を決定していくというよりイ)科学技術の発展ための基盤作り、ロ)情報社会の基本的なルールづくりや危機管理体制の整備、ハ)ルールのもとで適正な競争が行われるような監視、ニ)地域における医療、教育、行政サービスなど公共的な分野における情報インフラの整備促進、ホ)「情報の創造・生産」「情報の伝達」などの知識・情報関連職種の人材育成のための教育システム、制度の見直しおよび非情報関連部門内の情報活動も含め知識・情報関連分野への円滑な労働移動のための能力開発、教育訓練体制の整備やその充実支援、ヘ)「知識・情報集約化」の的確な把握のためサービスの生産額把握の充実、情報機器・素材やサービスの価格指数の改善など基礎的な統計の整備充実、といったことがあげられよう。


全文の構成(PDF形式、 全8ファイル)

  1. 1ページ
    要旨別ウィンドウで開きます。(PDF形式 429 KB)
  2. 5ページ
    はじめに
  3. 7ページ
    第1章 知識・情報集約型経済の概観-産業連関表による定量分析-
    1. 7ページ
      1-1 分析の背景と目的
    2. 8ページ
      1-2 分析の視点と方法
    3. 9ページ
      1-3 産業連関表からみた「知識・情報集約化」の進展
    4. 20ページ
      1-4 「知識・情報集約化」の進展にともなう雇用・職業構造の変化
    5. 36ページ
      図表別ウィンドウで開きます。(PDF形式 349 KB)
    6. 46ページ
  4. 51ページ
    第2章 情報化と経済成長、生産性
    1. 51ページ
      2-1 分析の目的と背景
    2. 51ページ
      2-2 分析データと方法
    3. 53ページ
      2-3 分析結果の概要
  5. 65ページ
    1. 65ページ
      3-1 経済統計による数量的把握の問題
    2. 78ページ
      3-2 国民経済計算体系(SNA)における情報関連財の取扱い
    3. 83ページ
      3-3 パッケージ・ソフトウェアの経済的特性とインターネットの影響
  6. 92ページ
    第4章 むすび-「知識・情報集約化」の進展と政策対応の方向
  7. 98ページ
    ワークショップにおけるコメントと回答
  8. 107ページ
    図表の基礎データ(1)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 481 KB)
  9. 120ページ
    図表の基礎データ(2)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 441 KB)
  10. 131ページ
    図表の基礎データ(3)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 439 KB)
  11. 141ページ
    図表の基礎データ(4)別ウィンドウで開きます。(PDF形式 248 KB)
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