「ESRI−経済政策フォーラム」
第7回「税制改革についての考察」(概要)


経済社会総合研究所
平成14年5月23日

 本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照下さい。なお、議論の正確な内容については、議事録(PDF-format, 142KB)を参照頂ければ幸いです。

(開催日時) 平成14年5月22日(水) 午後2時〜午後5時
(パネリスト) 跡田 直澄 経済社会総合研究所客員主任研究官
・慶應義塾大学商学部教授
(基調講演)
田近 栄治 一橋大学大学院経済学研究科教授 (基調講演)
中里 実 東京大学大学院法学政治学研究科教授
林 宏昭 関西大学経済学部教授
(モデレータ) 井堀 利宏 経済社会総合研究所総括政策研究官

 冒頭、跡田直澄客員主任研究官、田近栄治教授より基調講演をそれぞれ頂き(ホームページ掲載の基調講演をご参照下さい)、その後パネルディスカッションを行った(パネルディスカッションの後半は、パネリスト以外の参加者の方々からの質問、ご意見にパネリストが回答しつつ議論を行った)。

1.基調講演(跡田直澄 経済社会総合研究所客員主任研究官、慶應義塾大学商学部教授)

  1. 諮問会議における税制改革議論のサポートをして来た。今日は諮問会議の考え方と私の意見を述べる。
  2. 税制改革の必要性は、日本経済の現状と、それに税制の歪みが絡んでいることにある。日本経済が今一番考えなければいけない問題は国際競争力で、質の高い経済成長の実現が達成されなければならないと考えている。
  3. 日本人の生活は豊かになっており、多様なライフスタイルが送りたいという欲求に応える税制が必要になってきた。
  4. もう一つは、地方経済の視点。これまでの中央集権システムを変え、地方のことは地方で考えるという自主独立の自治体を作るべきであり、それを税の面からも変えることが重要である。
  5. また、現在の社会保障システムは、多くの人が将来に不安を抱え消費を控える要因になっている。きちんとした社会保障システムを作り、負担と給付を将来にわたってきちんと示すことが重要。
  6. 現在の税制が経済にマイナスに働いているところは変えていかねばならない。これまで「中立」を謳ってきたが、非効率すら作り出している状態である。そこで、これを変えるために、「中立」ではなく「効率」を前に出したいが、金持ち優遇策のように受け取られる場合があるので、それを「活力」という言葉で表現した。
  7. ライフスタイルへの歪みは、企業を介した税制にもある。たとえば、源泉徴収や退職金税制は、個人に企業中心の生活を強いている。配偶者控除や配偶者特別控除は、女性の就労を確実にゆがめている。課税最低限の引下げについては、結果として目指すのであり、目標としては歪みを是正することがまず重要だ。
  8. 今回の税制改革の理念としては、そろそろまとまった改革を行ってほしいという意味で、をシャウプ勧告以来の大規模な改革を第1番目に打ち出している。
  9. 二番目は活力であり、そのため広く薄くという税制を考えようと提言している。簡素は税制を考える上では常に必要な概念なので加えている。「広く」というのは課税ベースを広げるという意味で増税を意味している。「薄く」というのはどこかでは減税を行うということで、増減税を組み合わせることを明確にしている。
  10. 三番目の競争力を高めるというのは、法人税や金融課税を意識している。
  11. 4番目で「公平」ではなく、「公正」という言葉を使ったのは、すべての人が社会に参画し100円でも1000円でも負担しあう世界という意味である。社会保障はもちろん別に行うが、税は払わなくてもよいという人がいないという意味で「公正」としている。英語のフェアネスの意味としては、「公平」よりも「公正」の方が的確と思う。
  12. 最後は、小さな政府であり、税の中だけで収支をあわせるという従来型の論議にとどめておいてはだめで、国も地方も歳出カットと組み合わせるべきと考えている。
  13. 目指すべき税制としては、先ず法人の活力を高めるために、税率も含めて引き下げることだ。研究開発投資への優遇、加速度償却など、臨時措置ではなく本格的な措置として行うべきだ。
  14. 2番目のライフスタイルの多様化の関係では、就労への悪影響を避けること、生前贈与を今より優遇し一生を累積して相続税を取ること、公共的サービスが民間で供給できるよう寄付しやすくすることを掲げている。
  15. 最後に、税制改革を進めていくにあたっての手続き、方法が大混乱していることを指摘しておく。一番、肝心なことをやるべき時期に、なぜか方法論や手続き論に終始している。省庁再編で内閣が基本方針を作成することになったが、省庁の意見をどこで反映するかがはっきりしていない。諮問会議の議論は事前調整されているが、意思決定プロセス、どう変えられていくかというプロセスをオープンな形で国民に見せて改革を進めて欲しい。

2.基調講演(田近栄治 一橋大学大学院経済学研究科教授)(PDF-format, 27KB)

  1. まず、日本の必要とする税制改革であるが、財政学者から見ると社会保障の財政再計算の問題が大きい。社会保険料が重いだけでなく先が見えないことが問題だ。医療や介護は既得権益に改革が阻まれており、地方財政には公共事業が再分配として使われてきたという問題がある。
  2. 税を変えればこれらの問題が全て解決するわけではないが、税の側面で何ができるか考えることが重要だ。ポイントは税収確保ではなく、構造改革を支える税制であり、成長を生み出す環境を作り出すことだ。
  3. 私の提案は5つほど挙げてある。まず、重いのは社会保険料である。90年代に入って、税負担は引き下げてきているが、社会保険負担は重くなってきた。基礎年金には税が入っているが、厚生労働省は外から入ってくるものとして気にかけていない。在職老齢年金は就労へ影響を通じ税に跳ね返ることが同時に考えられていない。逆に国税の側から見ると、社会保険負担を今後どうするかが問題になる。もし、年金の報酬比例部分を個人積立年金などの資産形成にしてしまえば、結果としては賃金税が減るということになる。
  4. 次に、所得税の分配を見ると、所得税は、所得階層の第9分位まで、累進的ではない。それは、所得控除が大きいためである。また、第10分位の所得が1200万円と必ずしも高くないことは、租税回避を示唆しているのではないか。
  5. 第三に、所得税負担の改革については、配偶者・配偶者特別控除の撤廃と公的年金控除を縮小を行うべきだ。所得税を見直さなければ、財政赤字が増加し日本の国債の調達金利が急騰する。消費税を上げるくらいなら、控除を減らすほうが理解は得られやすいのではないか。
  6. 今の時代に専業主婦に対して特別な措置は必要ないだろう。それに代わって、育児給付などの支援は入れたらよい。育児に対する優遇を社会保障でなく税で還元する仕組みも可能だろう。
  7. 公的年金控除については、同じ所得で年金受給者と雇用者の間にかなりの負担格差があるという問題がある。痛みはあるが、最終的には社会保障の源泉に帰ってくるという意味で、前向きに改革を受け入れるべきだろうと思う。
  8. 所得税全体の控除の減収額イメージをお話すると、配偶者特別控除による税の減収額は1.2兆円程度、公的年金等控除で1兆円程度、給与所得控除は7兆円程度、社会保険料控除(本人部分のみ)で2兆円程度ある。このうち、給与所得控除にどう手をつけるかは、自営業者の課税強化との兼ね合いになり、社会保険料控除は社会保険改革が必要になる。
  9. 第四に、日本の法人税、特に地方法人税は高い。グローバル化した経済において法人税から多くの税収を期待することはますます困難になっている。日本は国内コストが高いという問題もある。投資税額控除なども必要だが、重要なのは法人税率そのものの議論である。地方法人税が高いのは明らかだ。日本で地方法人税引下げ競争が起きないのは、総務省が一元管理しているためだ。法人事業税は撤廃すべきである。都道府県の提供するサービスは学校・警察などであるが、都道府県の税収の3―4割は法人事業税である。、この税収構造が今のままで良いか、国民に素直に問うべきである。
  10. 最後に、近年、二元的所得税(所得税を勤労所得と資本からの所得にわけて課税する)の話が出ているが、それは悪い選択ではないが、所得税改革のゴールではないと思われる。二元的所得税は、70〜80年代のノルウエーやスウェーデンで資本所得課税への不平等感が高まったことから導入されたが、日本でも投資しやすい環境を作り出すという意味で、二元的所得税導入も悪くはない。将来的には資本が簡単に国際移動する状況であるため、二元的所得税はゴールではないにしても、現実的な対応と言えると考えている。

3.パネルディスカッション

(1)コメント

(中里実 東京大学大学院法学政治学研究科教授)
(林宏昭 関西大学経済学部教授)

(2)ディスカッション

  (モデレータ)   (跡田)   (モデレータ)   (田近)   (跡田)   (田近)   (モデレータ)   (中里)   (モデレータ)   (跡田)   (林)   (田近)   (中里)   (田近)   (中里)

(3)フロアーオープンディスカッション

(会場)
  現在の税制改革はレーガン税制を参考にしておられるのかどうか。レーガン税制はインフレに対する策であった。今の日本はデフレであり、そうした税制を参考にするのはいかがなものか?
  最終的に増税されるのか、減税されるのかを教えて欲しい。
  日本のデフレギャップは一体、いくらあるのか?私の試算では70兆円程度ではないかと思う。
  活力とはどういう意味で使っているのか。税を安くすれば人は働くといった実証もない悪名高いラッファー理論程度の話か、1月1日に外国に籍をおいておけば、税回避できる、未公開株をあさるといった類のことなのか。低所得者への税負担を要求しているようだが、自分の税率を上げるから低所得者への負担もお願いするというのでなければ、ノブレス・オブリージュ(高貴な者の義務)に欠ける議論ではないか。
(田近)
  レーガン税制は、インフレ、低成長、限界税率が高かったという状況からどう脱却するかというのがその当時の課題。現時点の日本では、レーガン税制そのものは参照すべきではないが、国際競争環境の中で税率は問題である。研究開発への優遇は良いが、一般的な投資優遇は必要ない。
  増税するのかどうか、低所得者への課税は品性にかけるのではないかとおっしゃるが、払っていない人に払えといって、何が悪いのだろうか。年金、介護や老人医療には国庫負担が入っているが、自分が払ったものを使っているだけという幻想がある。(税負担として)払ってもらうべきものは、払ってもらわざるを得ない。本当に困る人は生活保護等の社会保障で対応すべきだ。控除について正面から議論し、それで増税になればフィードバックを考えるべきだ。
(跡田)
  デフレギャップは70兆円よりも大きいと思う。
  私の目的は、低所得者に課税することである。低所得者は弱者ではない。弱者に対する保護は別でやるべきだが、低所得者と弱者を区別すべきだ。どんなに少ない財産を残しても、所得の低い人でも、全員に払って頂きたい。その上で社会保障による保護を考えるべきだ。所得税も相続税も負担を広く、薄くとっていくというのが私の意見。
 
(会場)
  長く米国で企業活動を行ってきたが、米国と日本と比較して、日本の税率が高いとは思っていない。例えば、米国では401kでは雇用者の拠出に企業がマッチングすることになっているし、退職者医療への負担もあり、実質的な負担は大きい。日本が競争力のために税率をさらに下げる必要はないと考える。むしろ、年齢や性別による差別が法律では禁止されているが、企業はやるべきことをしていない。法人税引下げには反対であり、むしろ本来負担すべきものだけでなく、他のコストも含めて負担すべきだと思っている。
(田近)
  米国の税制では、個人にしろ法人にしろ、所得税に頼らざるを得ない状況であり、それが税回避の問題を生んでいる。日本はアジア諸国などと比較して、電気代などを含めて様々なコストが高くなっている。そうした状況で、国際競争力を確保するために、税制で環境を整える必要があるのではないか。
(跡田)
  社会保障負担を含めてみても、日本の負担は、米国で最も負担が重いカリフォルニア州と比較すると少し低いが、平均的な州と比較すると少し高い、地方税のない英国と比べると高い、スウェーデンと比較すると高い。従って、日本の負担は高いと認識している。
  法人税引下げの経済効果は小さいが、やらないよりやったほうが良い。今の厳しい日本の状況で、何もせず、座して待つようなことはすべきでない。法人税の引き下げは、活力を高め、成長軌道を上にアップさせたいという、1つのメッセージだ。
 
(会場)
  デフレギャップが、70兆円というのは少し大きすぎるのではないかと思う。普通は30〜35兆円程度ではないかと思う。
  歳出の40%を来世代に頼って先送りしている状況というのは、やはり戦争でない平時ではおかしいのではないか。
  中里先生の話はよくわかるが、法律は我々がやっている、経済学者はわかっていないという態度はどうか。手続きも会計も非常に重要だが、経済学者でも法律を意識している人もいる。学会でも、実質が気に入らない人は手続きを問題にし出すものである。
(中里)
  おっしゃる通り。フェアネスについての先ほどの跡田さん説明は、むしろ法律的な感覚ではないかと思う。
(跡田)
  失業率を5.2%という公表数値を使って計算すると、デフレギャップは浜田先生の言うとおりになると思う。しかし、私の地元、関西での実体の感覚などから、潜在的失業率を考慮した上で計算すると、デフレギャップは70兆円よりもっと大きいのではないかと思う。
 
(会場)
  デフレギャップは、基本的に潜在成長力を高く見られる方は、70兆円など高い数字になってくるだろう。ここ2〜3年労働生産性上昇率、企業の収益率がともにゼロというのが、基本的な問題である。デフレギャップはGDPの4―5%程度、20兆―25兆円程度と見ている。
  法人税が高いか低いかはグローバルな視点で見るべきで、日本は地方税まで含めると、高いのではないかと思っている。法人税の実行税率を下げるのであれば、個人の税も下げないと歪みを与えることになる。税制は、基本的にランプサムでない限り歪みを与えるものであり、それをどのくらいなくせるのかは一つのポイントだ。中立性にしても、資本輸出中立・資本輸入中立・福祉最大化中立という3つの中立性がある中で、何を選ぶべきかというの課題がある。諮問会議のメッセージは、あえて活力をとるという考え方だと思う。課税最低限を下げるのであれば、貧困の罠から抜け出すことにことに考慮し、社会保障でなく、負の所得税のような税制面での対応も考えられるのではないか。
(会場)
  所得税の広く薄くは良くわかるが、相続税も広く薄くというのが私には良くわからないので、お尋ねしたい。確かに、日本は相続税を20人に1人しか納めていないが、米国は50人に1人であるし、カナダ・オーストラリアは収めていないという状況だ。所得税にはキャッシュフローがあるので少しでも納めてと言えるが、相続税にはキャッシュフローがないので、納める際に問題があるのではないか。相続税の意義として、所得再分配の役割があるのだとすれば、広く薄くという考え方はいかがなものか。
(跡田)
  相続税の考え方にはいろいろな考え方があると思う。日本の場合、配偶者への相続は別にして、息子や娘に対する相続として考えた場合、結局、お金、資産として受け取るのと同じではないだろうか。将来的には所得税のようにしてもよいが、今はそこまでいかない。今回の税制改革では若い段階に生前贈与を行うことを刺激して、一生を累積し相続段階で最後に調整するという考え方だ。ある程度再分配を残し、徐々に着地すべきと思う。
(田近)
  意図的に相続税の話は今回の発表では落としている。日本人がなぜ遺産を残すことの根にあるのは、将来不安ではないだろうか。相続を生前贈与に移すのはかまわないが、今、政策目的として税制改革で上げなければならない項目ではないと思う。
(中里)
  所得の再分配など倫理が絡む問題についてはコメントを避けたいが、相続税で、都市部の一部の方々が結果的に狙い打ちにされている点があることは指摘しておく。
(林)
  相続税を高くすると、早く使おうと思って消費が活性化されるのか、やる気がなくなるのかで、まったく逆の効果が出る可能性もある。私の考えは古いのかもしれないが、平等化していれば広く薄く、不平等になってきている場合には、再分配を狙うべきと考えている。私は相続税には再分配の効果を持たせたほうが良いと思う。
 
(会場)
  フリーランスのライターをしているものです。跡田先生は、低所得者層は弱者ではないという考えを披露された。私のように所得が不安定な場合や、雇用が不安定な状況でパート社員などが増えているが、こういう方々は弱者にはならないのか。
(跡田)
  弱者をどう定義するかは、かなり難しい問題。基本的に、雇用の機会に恵まれないという問題はあるが、働く能力がある方は、弱者と捉えるべきではないと思う。真に働く能力のない方などを弱者とすべきであろう。所得変動保険などをつくらないといけないとは思うが、税において弱者と位置付けるべきではないと思う。税においては社会へ参加するコストをまず払っていただきたい。
 
(会場)
  二元的所得税は必ずしも唐突な話ではなく、98年の税調の議論でも出ている。数年前から、OECDでも二元的所得税を議論し始めている。金融や資本に対する課税に対する悩みを解決する検討する文脈から、北の国々から二元的所得税論がじわじわ浸透しつつあるという状況である。ゼロから変えられれば米国も導入したいだろう。我が国はたまたま資本が分離課税で、二元的所得税を比較的導入しやすいという環境があったために、議論が出てきたものと思っている。
(中里)
  人的資産と物的資産は、どちらも将来、価値を生む。しかし、相続税の場合、人的資産(顔や頭脳)は非課税だが、物的資産(金融資産や不動産)は課税というのが最大の難点だと思う。二元所得税論については、むしろ金融所得の場合の人為的なロスをなくすことの方がより大きな問題。二元的という看板よりも中身が重要だ。
 
(会場)
  民間による公共的な文化施設等の建設が、日本の明治時代や米国では多く見られる。今日の税制で、そこまでのことができるのだろうか。国中心の文化から個人中心の文化へ変えるため、相続税で取られるくらいなら個人が寄付しやすくするという考え方はどうか。
  税制を簡素にするという主張には、企業の税務担当者の嘆きがあるのではないか。税率を下げるということではなく、税務の検討項目を減らすべきではないか。
(跡田)
  寄付、NGOについては、あまり細かくお話しなかったが、ライフスタイルの多様化で、公的サービスを減らし民間のレベルで提供できるよう寄付が行える社会が望ましいと考えている。相続税制は、むしろ出来の悪い子供たちにのこすのでなく、寄付をしてほしいという意味で考えている。
  納税の義務は、中学程度で知っておくべきことなのだから、その程度でも理解できる簡素な税制が必要ではないか。
(中里)
  「簡素」ということが、素人でもわかるようにという意味ではそれは無理だと思う。そうした税制は、様々な点を形式基準で割り切り、大いに具体的妥当性の欠けるものになる可能性がある。「簡素」を予測可能性が立つという意味で言っているのなら、複雑な税制の元でも予測可能性を高めていくことは可能だと思う。米国や英国、独、仏などの国々と比べても、日本の税制はどこよりも簡素である。英国では、税制の条文を検索することが商売になっているほどである。具体的で妥当性を追求する限りにおいて、複雑な税制を持っているということは文明国の証であるし、それについて訴訟が起きるということも文明国の証である。もしも、税制要因で取引が出来ないということであれば、それは当該企業の専門的能力が低いということ。私のところで養成しているクリエイティビティを持った専門家を雇っていただければ良い。
(田近)
  我々の議論している「簡素さ」は、日本人が確定申告しやすい書式、様式が作れるということだ。中里さんのおっしゃっている簡素さと次元が違うのは事実であるが、今の税制改革の議題としてあげるべき簡素さは、会社に自己の履歴をすべて披露してやってもらうというのではなく、自分で確定申告を出来るという意味での簡素さである。
 
(会場)
  慶応大学の学生です。中里先生に質問したい。税制改革に過剰期待しないようにという否定的な意見が出たが、先生は個人的にどのような税制が望ましいのかお聞きしたい。
(中里)
  田近先生のレジュメの議論はすべて妥当と考えている。但し、白地に絵を書くというのであれば何を議論しても良いが、今あるものをどう改革するかを議論する時には、すでにあるものを前提にして、実現可能性を考えて、どこまで出来るのか、出来ないのか、波及効果はどうなのかなどを考えるべきである。理想が実現できるというのは政治を抜きにしても難しい。私が理想を語ってもしようがないと思う。今、目の前にある明確な不快感をどう取り除いていくかが先ず重要であり、それが出来た場合には理想を追求するのではなく、また別の明確で目前にある不快感を優先的に解決していくという改革手法しかないのではないか。
  私の理想を言えば、私は消費税論者であり、付加価値税を50%程度にして、あとの税はなくすというのが個人的な意見である。
(跡田)
  今回は、地味な税制改革を議論しているのではない。構造改革に資するような税制改革をあわせて考えるべき状況にある。その意味では、改革だけの議論ではなく、デザインも入れていかねばならないと捉えている。