第20回 ESRI−経済政策フォ−ラム
「わが国企業のM&A活動 − 構造改革を超えて」(概要)
経済社会総合研究所
平成16年12月13日
本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。
また、議論の詳細については議事録をご参照いただければ幸いです。
| (開催日時) |
平成16年11月10日(水) 14時00分〜16時30分 |
| (プログラム) |
1.香西 泰 |
内閣府経済社会総合研究所長 挨拶 |
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2.M&A研究会報告「わが国企業のM&A活動の円滑な展開に向けて」より
| 報告者:藤岡文七 | 内閣府経済社会総合研究所特別研究員
(内閣府大臣官房審議官、(併)産業再生機構担当室長) |
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3.パネル討論会
司会:落合誠一 東京大学大学院法学政治学研究科教授(M&A研究会座長)
パネリスト: 〔50音順〕
大久保幸夫 株式会社 リクルートワークス 研究所所長
冨山 和彦 株式会社 産業再生機構代表取締役専務
服部 暢達 一橋大学大学院国際企業戦略研究科客員助教授
吉田 允昭 株式会社 レコフ代表
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4.会場との質疑応答 |
冒頭、香西泰氏の挨拶後、藤岡文七氏よりM&A研究会報告をいただき(M&A研究会報告書([M&A研究会ホームページ参照]))、その後、パネルディスカッションを行った。最後に会場参加者の方々との質疑応答があった。
1.研究会報告:わが国企業のM&A活動−構造改革を超えて(藤岡文七 内閣府経済社会総合研究所特別研究員(内閣府大臣官房審議官、(併)産業再生機構担当室長))([資料参照](PDF−format 113KB))
- 日本の経済社会において活力が失われている原因のひとつに「生産性あるいは収益性が将来に向かって上がるような投資に対する活動が非常に弱い」ということがある。そういう投資が持続的に維持できれば、持続的な経済成長というものが実現できるのではないかと考える。そのためには、「M&Aは基本的に必要な経済活動ではないか」といったことが基本的な発想。
- M&Aに関するいろいろな方々のいろいろな思いを踏まえて、「わが国のM&A活動は、何が現在の課題になっているのか」について総合的に考えるという趣旨で、落合座長をはじめとする関係各界の先端の方々にお集まりいただき、分野横断的な検討をお願いしているのがM&A研究会である。
- この数年、わが国企業のM&Aが非常に多くなってきた。M&Aのブームは、80年代終わりから90年代にかけても存在し、日本企業は何十兆という金額を海外に投資したが、ほとんどが失敗に終わっていると聞いている。また、わが国の企業は、M&A手法を海外投資には引き続き多く用いている。
- 最近の特徴としては、IN・INのM&A投資が急速に増えてきた。製造業から非製造業、投資ファンド等へという傾向がある。数が増えるだけでなく、その構成も大きく変わっている。またTOB(テイク・オーバー・ビット)の増加も1つの特徴的なこと。
- M&Aの効果である「収益性の向上」と併せて言われることは、「高いリスク」。逆に言えば、「低い成功率」ということである。そういうM&A活動の性格・機能について、経済界や関係者が本当にきちんと理解しているのかには疑問が残る。それらを踏まえて、「課題」を考えていく。日本のM&A取引規模が多くなったといっても世界の数%程度に過ぎない。研究会では、さまざまな分野や側面からわが国におけるM&Aの多くの課題についてポイントを議論していただいた。
- いろいろな分野の課題・問題点を踏まえ、活力を維持しながら持続的な成長を目指すわが国として何が重要なのかといったところを最後にまとめている。M&Aを通じて、市場メカニズムを受容して企業の市場価値の最大化を図ることは、わが国経済の活性化にとって非常に大切である。
2.パネルディスカッション概要
(1)総論−企業のM&A活動の活発化はわが国の持続的成長にどのような役割を果たすか。
(吉田)([資料参照](PDF−format 140KB))
- わが国では、1991年までバブルを背景に海外で買収を行うM&Aが盛んに行われた。ただし、戦略的なM&Aはごく一部であり、それ以外は財テク型のM&Aであった。以降1993年までM&A件数は減少し、その後右肩上がりで伸びている。これは、規制国家から、市場経済国家への転換の過程と捉えている。
- 今年のM&A件数は、史上最高の2200件に到達すると予想している。米国では年間1万件前後の案件がある。日本の規模から見てはこの半分が妥当と見ると、今後、件数はさらに倍くらいのびる余地がある。
(冨山)
- M&Aが必要な理由は、『会社の寿命』、『事業の寿命』、『ビジネスパーソンの寿命』が一致しないから。M&Aを行わないと、ヒト、モノ、カネ、ノウハウの配置のミスマッチが生まれる。M&Aは、産業内でこれらを再配置するプロセスであり、再配置が行われないと経済社会では非効率になる。
- M&Aで起きてくる課題は、M&Aの前段階では、買い手と売り手の情報の非対称性が存在すること。もちろん売り手側の情報量が圧倒的に多い。会計監査、証券取引法、それらに伴う罰則等を通じて、どう非対称のレベルを下げていくか?この中でも官がやるべきことはある。
(大久保)
- 産業の活性化のためにM&Aは有効である。知識、ノウハウはヒトに付帯するものであり、体系的にこれを導入するのがM&Aだ。
- 雇用については、企業経営が悪化しているさなかに、従業員が他に移っていくことができれば、問題は大きなものとはならない。泥船に乗って深みに入り、会社が改善の取組もできないくらいの状態まで来るとややこしくなる。ここまで来てしまうと、その人は市場で自分を売れなくなるからだ。
(服部)([資料参照](PDF−format 271KB))
- ここ10年で、日本のM&Aは増えて、制度面もそれなりに多様になった。しかし世界的に見てもまだ増加余地は大きい。ではその障害は何か? M&Aは、株主価値の増大をめざした支配権の移転であり、法律(商法)、会計基準は改革が進んで案件も増えてきた。問題は税制。
- 世界のM&A市場における買収通貨をみれば、世界的に、対価の一部又は全部が株式で払われることは一般的だ。国際株式交換は常識的に行なわれている。日本では、99年に日本型株式交換を導入、2006年の会社法改正でいわゆる「三角合併」が解禁されることになっているものの、国際株式交換については課税の繰り延べを受けられない。現状でできるストック・テンダー・オファーも、課税の繰り延べができないので難しいだろう。
(2)各論1−M&A時代に企業経営者・中小企業オーナー・従業員が考えなければいけないことは何か。
(吉田)
- M&Aをする上で、テクニカルな面はワン・オブ・ゼムであり、経営者の持っている心情が非常に重要である。企業のトップは企業の総意であり、企業のカルチャーを持っている。これがかみ合わないと一緒になっても失敗する。
- 経営者の重要な3点として、1つは決断が早いこと。決断の速さは、その後周囲を説得できる自信、強いリーダーシップを持っているからだ。2点目は、目的が明確なこと。目的が明確だと従業員にも極めてわかりやすく、動きやすい。3点目は、相手の良いカルチャーを見つけることだ。互いのカルチャーを忖度するDNAがあればポストM&Aがうまくいく。
(大久保)
- M&Aは、性質上オープンに交渉されるわけではないので、最終の段階にいたって組合に伝えられ、組合にはあまり選択肢がないことが多い。企業内組合では、これに対するノウハウもない。取り残された存在である。
- M&Aの成功率を高めるキーポイントとしては、従業員を整理する必要があるときにどういうメニューを会社から引き出せるか、である。アメリカでは、企業再生の場面で、その会社内にハローワークのブランチを作ることを委託し、敷地内にハローワークを設けたりする。手続もそこでできるし、斡旋もできる。会社に残る人と出る人の流れをスムーズにする。
(3)各論2− M&Aプロフェッショナル等の人材育成・市場はいかにあるべきか。
(大久保)
- M&Aの実務に通じたプロの必要性はあるが、十分に機能していない。プロを使うには、(1)雇い入れる方法と(2)外部業者を使う方法の2通りがあるが、外部へは早いタイミングでは相談しにくいし、またいつまでもM&Aをし続けるわけではないので、そのための人材は何年間かで十分だからという背景がある。
- 人材市場もできていないし、育てる場がそもそもない。大学だけではなく、職能団体的なコミュニティーが出てこないと育たない。
(冨山)
- プロには2通りある。ひとつは、M&Aトランザクションのプロであり、二つ目は、マネージメントのプロである。M&Aはすなわち不連続を作ることであり、不連続をマネージする際には、今まで以外の新しい人材が必要だ。本当は人材のニーズがあるのに、これが顕在化することを避けている感もある。
- 日本にはプロ型の組織が少なく、会計士や弁護士等ほんの一部にすぎない。プロフェッショナル型のビジネス人材がどれだけ日本にいるか?といえば、アメリカの何十分の1であり、ヨーロッパと比べても、何十分の1になるだろう。
(服部)
- 長い目でみた場合、マネージメントのプロの量が必要である。アメリカではこれが沢山居る。マネージングのプロとして一生涯仕事ができる社会になれば、その厚みが増すと思う。
(吉田)
- M&Aができる人の素養としては、(1)会計士的素養、(2)弁護士的素養、(3)アナリスト的素養、(4)二ヶ国語以上ができる、(5)抜群の渉外力があること。これをすべて兼ね備えている人はいない。しかし、1つのディールをやると、この大部分をちょっとずつかじることができる。M&Aは徒弟制度の連続だ。現場に立って、不足した知識を補充すればよい。変化も激しいので、変化適応能力が必要だ。
(4)各論3− M&A時代に向けて法制度及び税制等の制度改革はいかにあるべきか。
(服部)
- 商法と会計制度は、この5年間でほぼ必要な改革は出来ていると思う。改正すべき本丸は税制である。本法(商法)で認めているのに、税制がこれを止めている案件が散見される。
- 行政の役割について。かつては、行政の企画立案機能が重要だったが、今後は、公正なレフェリーとしての機能が求められている。公正なレフェリングのためにはルールが必要。米国では、判例の積み重ねで運用が決まっていくが、日本ではそれは期待できないので、セーフハーバールール等を積極的に提示していくような姿勢が求められる。
(冨山)
- 困窮している会社の場合、株主価値がほとんどゼロになっており、合理的な行動をとろうとしても、債務免除益を消すことができなければ、課税負担で税金倒産してしまう。
- 競争型の世界では、困窮した企業が不良債権の種である。困窮企業のM&Aをどうスムーズに進めるか、という問題がある。これをルール型行政にどう制度的に導入していくか。
(落合)
- 法制度的には、敵対的買収の防衛に関して取締役の善管注意義務違反を問われる場合のルールが明確でない、という課題が残っている。
- 債権者と株主の利害をいかに適切に調整するか。日本の商法には債権者保護の明示的な規定が存在する。そうした状況も踏まえて、効率的なルール、良き経営選択をさせるための施策について、商法としてもよく考えていきたい。
- これまでのパネルで、「M&Aは良くないから行われにくくしよう」という考え方ではないことが確認できたと思う。企業価値を増加するM&Aは、使いやすい方向にすべきであり、それが、日本企業の競争力をつけることにもつながる。外国企業が日本で活躍して、日本の経済を活気付けることも、それも良いだろう。大切なのは、いかにM&Aを活用できる公正で開かれたマーケットを築くかであろう。
(5)質疑応答
(フロアー1)
- 過去、数多くのM&Aが成功してきた会社にはノウハウが組織内にあると思う。そういう組織の能力、M&Aを成功に導く要因というのは何か。
(冨山)
- 例えばGEあたりだと、トランズアクション段階とポストマージャーと、専門部隊を内在化して持っている。また、トップがすぐ背後に存在しており、意思決定が非常に早い。
(フロアー2)
- タックスフリー・スピンオフに関して、あえて2つの会社をつくってしまうようなことが経営の選択としてあり得るかどうか、本当に日本で定着するのかどうか。
(服部)
- 「2つの会社の合計の時価総額がふえる=株主価値の創造であり株主価値増大のためのM&A戦略です」という説明を、過去、経営者の方にした経験があるが、あまり受けはよくない。自分の会社の時価総額が下がる、配下の事業範囲は減る、ということがいま一つ琴線に触れない。代案としての子会社上場はドコモとNTTの関係において危険な財務戦略だ、ということが説明しやすくなってきたということもあり、今後ニーズはあると思う。
(フロアー3)
- M&Aを行った際、外部からマネージャーを連れてくるのだが、「彼らは自分のことしか考えず、長期的には政策的に劣る戦略であっても、3年から5年の間の収益を最大化させる戦略であれば、といってしまう等スタンドプレーが目立ち、そうすることによって現場が疲弊をしてしまう」という問題を痛切に感じている。
(大久保)
- いわゆるビジネスリーダー的プロフェッショナルの要請が来るときに、最近は、その会社に残ってくれるリーダーがいないかという要望が多い。そういう要望に対して、現状は意外とこたえられているようだ。かなりの確率でマッチングができている。ビジネスリーダーとしていい人間は日本の大企業の中に結構埋もれていて、それはかなりの数がいるので、そういう方にだんだんニーズもシフトしてきている。
(以上)