ESRI−経済政策フォ−ラム:日本21世紀ビジョンシリーズ
「2030年の中国経済と日本・アジアとの関係」(概要)
経済社会総合研究所
平成17年3月3日
本フォーラムの概要について、事務局の責任により以下の通りとりまとめましたので、ご参照ください。また、議論の詳細については議事録をご参照いただければ幸いです。
| (開催日時) |
平成17年1月31日(月)14:00〜17:00 |
| (パネリスト) |
伊藤 隆敏 |
東京大学大学院経済学研究科教授 [日本21世紀ビジョングローバル化ワーキンググループ委員]
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柯 隆 |
富士通総合研究所主任研究員 |
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関 志雄 |
野村資本市場研究所 シニアフェロー [日本21世紀ビジョングローバル化ワーキンググループ委員]
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木下 俊彦 |
早稲田大学国際教養学部教授 |
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国分 良成 |
慶応義塾大学東アジア研究所長 [日本21世紀ビジョングローバル化ワーキンググループ委員]
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| (モデレーター) |
法專 充男 |
内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官 |
冒頭、柯 隆氏より基調講演をいただき、その後パネルディスカッションを行った。最後に会場参加者の方々との質疑応答があった。
基調講演「中国経済はどこまで成長するか」(柯隆氏)(資料参照(PDF-format 299KB))
- 中国の経済成長の原動力は投資である。通常の先進国は消費は60%程度だが、中国は消費40%、投資も40%あり、また投資の伸びは27、8%と高い。国有企業は資本コストや期待利益率にかかわりなく投資する傾向にあるので、中国経済は過熱しやすい特質がある。
- 投資を支える貯蓄率も40%程度と高い。教育費や子どもの結婚費用ということで貯蓄している。
- 投資過熱の背景として、政府の経済見通しは7、8%と楽観的なこと、各企業が市場シェア拡大を目指していること、川下がデフレ状況で川上がインフレ状況にもかかわらず情報の伝達が悪く投資が調整されないこと、投資が投資を呼ぶ状況になっていることがいえる。また、江沢民・朱鎔基に代わり胡錦濤・温家宝政権は今のところカリスマ性が弱いので、景気過熱が少し長引くのではないか。実質金利がマイナスなことも投資を呼ぶ要因になっている。
- マクロ的な労働生産性向上は急上昇しているが、90年代初めまでの労働生産性上昇は資本生産性の改善によったが、90年代半ば以降は資本装備率の上昇によってもたらされている。こうしたなか資本効率は悪化しており、構造改革をしないと、成長がサステイナブルとは考えにくい。
- 90年代以降、急速に中国の財政の基礎的なバランスが悪化。国有銀行の不良債権も考えると、簿外債務もあり、財政赤字はリスク要因となりうる。徴税システムも弱く、歳入を確保せずに増える歳出を国債によって賄っている状況である。
- 中国では、省と省との間の水平的な所得格差以外にも、同じ省内での都市と地方との垂直的な格差の問題も大きい。社会保障も整備されていないため、高い成長を続けないと、失業が生じ、社会が不安定化してしまう。
- エネルギーと環境問題も成長を制約する。石油の輸入依存度は2004年度は4割を超えると見込まれている。また、食料増産のために森林伐採がなされ、また生活や産業廃水の垂れ流しにより長江は巨大な下水溝と化している。SOxや煤煙の排出量も微増傾向にある。
- その他、国有銀行の不良債権問題、金融犯罪の急増といったリスクも見られている。
- 対外的には人民元の切り上げ問題が最も関心を高めているが、切り上げありきではなく、フレキシブルなレジームに変え、その上で経済のファンタメンタルズを見て調整することが一番理想的なシナリオではないか。一度15-25%の切り上げをしてから、3大基軸通貨ペッグ制にという二段階調整論もあるが、香港ドルと人民元とが固定されていることに留意する必要がある。
(伊藤)
- 中国経済は60年代の日本の高度成長のような勢いがある。日本は外資に依存しなかったという相違点はあるが、キャッチアップの仕方、労働市場における人材の熟練などよく似ている。中国は労働力がはるかに多く、労働移動さえうまくいけば、賃金もあまり上がらずに成長できるのではないか。
- 通貨調整は、しなければインフレになり、インフレを抑えれば為替増価になるだけで、それほど問題ではないのではないか。実体経済はいずれにせよ成長していくのではないか。
- リスク要因としては、エネルギー制約、労働移動制約がありうる。通貨増価を防ぐためにインフレ容認をしても、しすぎてしまえば金融混乱が起こるかもしれない。また、財政赤字、沿岸部の資産バブルがあげられる。
- アジアは最近中国経済と密接にかかわるようになり、中国元との為替レートの大きな変化を望んでいない。従って、資本自由化もしていないにもかかわらず基軸通貨となる奇妙な現象が起きつつある。
- 中国で金融を理解している人は、フレキシビリティを増す時期にきていると判断しているのではないか。状況次第では早い段階で人民元にフレキシビレティがでてくると思われる。
(関)(資料参照(PDF-format 49KB))
- 党大会と中国のビジネスサイクルは連動している。過去30年の平均成長率は9%だが、党大会の年は9.9%であり、その翌年は10.7%と高く、その後調整局面を迎えるというパターンが繰り返されている。今回の状況に当てはめると、2006年まで景気が調整局面に入るが、その後2007年の党大会に向けて回復し、北京五輪が開かれる2008年に次の景気循環のピークとなろう。
- 投資が景気を左右しているが、投資が増えるほど資本効率が低下している問題がある。アジアの成長は生産性の向上ではなく投入量の増加によるというクルーグマンの警告は今の中国にとっても他人事ではない。
- 中国マーケットは大きくなり何でも売れると思われるが、農村部と都市部の所得格差が拡大するにつれ、実際の全体の消費は低迷している。人口の6割を占める農村の所得が増えないと全体の所得も増えない。
- 地域格差の是正のためには、商品や労働の国内市場の統一を目指すための国内版FTA、先発地域の後発地域への直接投資という国内版雁行形態、地方交付税のように豊かな地域から後れている地域に資金を流す国内版ODAが必要。
- 国有企業の割合が高い省ほど成長率は低く、国有企業比率を下げていく必要がある。ただし、民営化プロセスでは、権力に近いほど潤うというのではなく、公正に行う必要がある。
(木下)(資料参照(PDF-format 41KB))
- グローバリゼーションの恩恵を受けて「世界の工場」と言われるようになったが、石油の輸入依存度が高まってきたことは国際テロに弱くなったということでもある。仮に、マラッカ海峡でタンカーのテロが起きれば、経済成長は大きく脅かされる。中国はそういう問題を従来全く考えなかったと思うが、石油備蓄やシーレーンの保持などその種リスクへの対応が必要になってきている。また、今後の資本自由化がもたらす通貨危機リスク、WTO加盟の代償といえる米国への農産物輸入への高い依存により、米国での穀物凶作リスクにもさらされることになった。また、今後の米国の対中(軍事)戦略がどちらに向かうかによって新たなリスクの増大もありうる。
- 「ポスト冷戦」期の不安定要素の多いグローバルな政治経済パラダイムを念頭に置いた、将来予測こそが重要。これまでは、成長や市場規模は過去の傾向と内外成長制約のみで予測しても概ね当たったが、経済が大規模化し、国民生活の向上などから量のみならず質の問題が方向決定的な働きをするようになった。長期予測をするということであれば、巨大資金のボーダレスな激しい移動、米国の「一極主義」、強まる地域主義、悪化する環境問題、WTOや国際会計制度など現場のルール変更などの影響も考慮する必要がある。
- 東アジア諸国・地域は成長するにつれ輸出志向から内需志向へ移ってきたが、中国の場合農村に膨大な潜在的失業者を抱えるため、内需志向が進む一方、国策として、半永久的に輸出志向を続ける必要が残るという認識が必要。
- アジアの歴史に学べば、一人当たり所得が高まると、「開発独裁」の維持は難しくなる。中国においても将来の政治体制がどうなるか、将来を考える際に重要な視点である。
- 中国の「キャピタリズム」には、法制度の整備の遅れ、企業のコングロマリット型化によるコーポレート・ガバナンス軽視・部門間収益構造の不透明化、集中豪雨型輸出がおきやすいなど先進国との摩擦拡大的な側面がある。一方、内需拡大による巨大な輸入市場の提供や、ミャンマーやインドネシア等への「政治」借款供与などの積極的実施など先進国や途上国との摩擦解消的な側面もある。どちらが主要な側面になるか、きめ細かくみていく必要がある。
- 2030年の中国の政治経済状況を現時点で予想することは困難であるが、日本国として中国にどう対応すべきかについていえば、期待とか「あるべき論」で決めるべきではなく、クールに事態を分析して対応するしかない。そのためには、重要事項について、いくつかの想定できるシナリオを作り、それをマトリックス化し、ファクツでそれを検証しつつ、柔軟に対応していくしかない。産・学や個人がどう中国(人)に向き合っていくかという問題と国の対応は異なる面があるだろう。
(国分)
- 30年前は文化大革命の最中であったが、文革の否定、毛沢東の名声に傷がつくことを予想した人は皆無であった。しかし、革命路線は持たず、国民生活に目を向けざるをえなくなることを予想した人はいた。いずれにせよ、30年後の予想は難しい。
- 経済の自由化に応じた政治の体制ができるか問題。経済は情報公開と競争原理の面で自由化が進んでいる。天安門事件の際に中心となった学者や知識人は今は体制の中に入り、社会の歯車になりつつある。今やこうした社会層ではなく、労働者・農民のより広い社会層に問題が生じており、これは政治体制の問題でもある。
- 中国が解決すべき政治体制問題としては3点ある。一点目は、国民が政治参加できる一定の民主体制を導入できるかで、選挙が機能しない分だけ、デモやストライキという直接的な手段が発生している。だが農民や労働者という負け組の声を聞き過ぎると、勝ち組のみを考えた政策が採れず、成長が鈍化するという問題がある。二点目は、政治腐敗の問題である。共産党一党支配のもとでの市場経済のため、汚職が生じる。三点目は、司法制度問題である。法整備のみならず、党を監視する司法権の独立が不可欠である。現在の法制度では共産党と憲法のどちらが上にあるかはっきりしない。
- 政治の耐用年数を考えると、自民党は40年、ソ連は70数年で終わった。中国共産党は55年を経過しており、これから30年後となると誰も想像がつかない。
(柯)
- リスク要因に対して、プライオリティをつけて解決していくことが重要だが、中国にとり今の経済状況はカンファタブルであり、あえて危機を未然に防ぐような制度変更するには勇気がいる状況。外国の経験を学びつつ、危機を経験しながら大きくなっていくしかないのではないか。
[アジアへの影響、日本の対応]
(伊藤)
- 今後、中国経済が拡大し、存在が日本と比べて大きくなるのは間違いないが、日本がせめて2−3%成長することが日本の存在感の維持につながるのでは。
(関)
- 中国の強い分野では日本は弱いが、逆に中国が弱い分野は日本が強く、両国経済は補完関係にある。ハイテク製品ほど日本は強い。日本は新しい産業を育て、古い産業は途上国に持っていけば、空洞化なき産業の高度化が達成できる。
- 中国は賃金が日本の1/25だからといえ、何でも日本より安く作れるわけではない。自動車を現地生産するのは賃金が原因ではなく、輸入関税が高いためである。日中間でFTAなりができれば、自動車を日本から輸出することになるなど、日本の空洞化対策になるのではないか。
(木下)
- 中国の構造調整は、現在は急成長しているので問題点が隠れがちだが、国の大きさ、グローバル社会の変化の早さなどを考えると、成熟化した日本以上に難しいのではないか。環境面など日本の協力余地は大きい。
- 日中(韓)は、かつてドイツとソ連が原子力やパイプラインでつながったように、大型農業生産の委託など弱みを互いに持ちあい、決定的対立ができない長期関係を築くことが重要。
(国分)
- 中国自身が本当の意味で台頭してきたのはこの150年なかったゆえ、現在の人間で普通に成長していく中国を見たことのある人はいない。中国を北京中心の国家としてのみとらえがちだが、経済的には巨大な地域としてとらえることも必要。
- 中国と日本は現実には共に生きていく必要がある。中国のソフトランディングは経済だけではなく政治体制の問題でもあるが、誰も内政干渉できない以上、日本のできることも限られており、自助努力を待つしかない。日本としては、中国を徹底的に分析し、付き合い方を学習していく必要がある。現在の日本は中国を研究する基盤が弱すぎる。
(柯)
- 中国の最近の反日ムードの高まりの背景には、教育問題というよりも、日本企業には成果主義が徹底していないために嫌われていることや、お祭りといったソーシャルストレスのはけ口がないことなどもあるのではないか。
(関)
- 中国は社会主義だからという議論はやめたほうがよい。今の状況は、マルクスのいうような中国の公式見解のように社会主義の初級段階にあるのではなく、労働者階級と資本家階級が同時に創出される原始資本主義の段階にある。成熟した資本主義になるために欠けているものは、人治から法治へ、一党独裁から民主主義へ、公有制から私有制へ、効率一辺倒から公平重視へという制度変更である。
[質疑応答]
- 投資による生産力がどこに向かうのか。
- 投資の意志決定の主体は誰か。開発独裁するだけの力はあるのか。
- WTO加盟の影響はどうか。
(柯)
- 民間企業には投資関数はあるが、国有企業は地方政府等の介入があり、非採算プロジェクトに投資することもありえる。
(関)
- WTO加盟は、市場化、国際化、法制化の3つの意味合いがある。市場化には労働市場が全国統一されていない。成長続けても株価がさがるなど資本市場にも問題は多い。国際化では、対外進出する中国企業も最近みられている。法制化は、法律のないところから短期間で立派な法律ができた点を評価すべき。運用にはもう少し時間がかかるだろうが。
(木下)
- 国有企業は大量生産志向で、製品はブランド化するどころかコモデティ化するので価格が下がる、それでも生き延びるために、地方主義で設備拡張をするためますます価格が下がるという悪循環。これが、国有銀行の不良債権拡大の原因になっている。他方、増え出した中国の対外投資は、教科書にでてくるように経営資源が十分になってスピルオーバーが起こっているのではなく、経営資源を獲得するためにM&A形態で進出するケースが多い。そういう場合は、失敗も少なからず出てくるだろう。しかし、それは授業料を考えるべきだろう。