研究会報告書等 No.7
新世紀における中国と国際経済に関する研究会報告書(概要)

2003年1月
  • [ 研究会委員 ]
  • 伊藤 元重(東京大学大学院経済学研究科教授)
  • 海老名 誠(みずほ総合研究所株式会社理事)
  • 河合 正弘(財務省副財務官)
  • 関 志雄(独立行政法人経済産業研究所上席研究員)
  • 北岡 伸一(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
  • 国吉 澄夫(株式会社東芝国際部中国室ゼネラルマネージャー)
  • 堺屋 太一(内閣特別顧問)
  • 中兼 和津次(東京大学大学院経済学研究科教授)
  • 中島 厚志(みずほ総合研究所株式会社調査本部執行役員副本部長 兼 株式会社みずほコーポレート銀行調査部長)
  • 浜田 宏一(内閣府経済社会総合研究所長)(座長)
  • [事務局 = 経済社会総合研究所]
  • 広瀬 哲樹(総括政策研究官)
  • 日下部 英紀(情報研究交流部)
  • 森藤 拓(経済社会研究調査員)

要旨

[ポイント]

  • 現在、日本=中国貿易は、競合関係というよりも、多くの分野で補完関係にある。
  • このため、中国の成長は、国際的枠組みが遵守されれば、日本に発展の機会を提供するものである。もちろん日本は、貿易の利益を享受するためには優位性の低下した産業の構造改革が必要である。
  • 中国には、高成長の実現に様々なリスクファクターがあり、2010年まででも平坦な道程ではない。
  • 中国自身に発展の成果を還元し、経済厚生を増大させるとの観点から、元切上げが望ましい。

[概要]

中国の世界経済における位置付けについては様々な関心を呼び、多様な観点から、内外の各方面で検討が行われているところである。内閣府経済社会総合研究所においても、有識者10名(座長:浜田宏一経済社会研究所長、委員リストは別添1—1 「新世紀における中国と国際経済に関する研究会」メンバー別添1—2 研究会開催日程参照)からなる「新世紀における中国と国際経済に関する研究会」を昨年5月に設置し、検討を行った。さらに、11月18日には、研究会委員に加え内外の有識者を招待して、国際フォーラムを開催した。今回、研究会の成果を踏まえて、原則として各委員が1章執筆する形で報告書を取りまとめた。

以下、研究会で主なテーマとなった中国のリスクファクター、中国製造業の実力、中国脅威論、為替レートの4点についてまとめた概要である(章毎の簡単な要約は別添2参照)。

1.中国のリスクファクター

中国については、各省庁、研究機関、大学等で活発な研究・分析が行われているが、中国に対する評価には、中国脅威論と中国崩壊論という全く異なった二つの見方がある。

経済面で中国が抱えているリスクとしては、WTO加盟後の自由化圧力に対する国内産業構造調整の問題、銀行部門の不良債権処理とその裏側の国有企業改革問題、経済改革の途上で生じる財政負担をどこまで行うか(あるいは行えるか)などの問題がある。

社会面では、農民問題、農村と都市の間の経済格差・不均衡の問題、あるいは農村と都市をつなぐ産業配置をどうするかという上記の問題などが挙げられる。また、環境問題、一人っ子政策を反映した高齢化問題などがある。

ガバナンス面では、中国のトップの指導者たちがどこまで団結を保ちつつ、経済改革と政治改革を進められるのかという問題があり、もっとも不確定要素の大きい問題である。

2.中国製造業の実力

  1. 中国は「世界の工場」といわれるが、組立加工産業については言えるが、資本集約型と技術集約型の製造業領域では、まだ「世界の工場」の規模と水準に至っていない。また、今後も、世界的な工程分業に基づく、優秀な労働力を活用する製造業分野が中心となって発展するであろう。
  2. インフラのボトルネックは基本的になくなりつつあり、原材料、設備調達もハイテク設備・材料を除いて安く国内調達することが可能となった。
  3. 組立加工産業は大きく伸びているものの、部品・材料を輸入に依存する製品では、付加価値の多くが中国の外で付いている。
  4. 技術集約産業では、先進国のレベルには遅れているものの、外資企業の大量投資により、技術、設備、製品及び経営管理の面で中国企業の水準は急速に向上している。
  5. 中国製造業の強さは工場現場レベルでの強さであり、日本のようにデザイン、マーケティング、商品企画、R&D、人材管理などを含めた製造に優れているのとは異なる。世界で通用する自前の技術も、ブランドも持っていない上、中国企業は資金や人材、経営管理などほとんどの面において外国企業に劣っているため、輸出競争力を安い労働力に求めざるを得ない。
  6. 中国の工場では若くて意欲のある優秀な労働力が大量に採用可能であり、4直3交替勤務等生産のフレキシビレティ向上が可能である。
  7. 輸出の約半分が外国企業の手によって行われているため、彼らに対して配当金や利息、技術使用料などを支払わなければならない。

3.中国脅威論

1. 現状では中国は脅威か。

中国が脅威と言う場合、一般的に以下の三つの表現で危機感が示されることが多い。

  1. (a) 中国の経済発展が著しく、近々世界の経済大国になる
  2. (b) 中国製品の国際競争力が強く、中国は世界の工場になっていく
  3. (c) 中国からの輸入が増加し、日本の産業空洞化を招いている

(a)については、中国経済は順調に成長を続けているものの、2001年のGDPでは日本の四分の一、一人当たりGDPでは約四十分の一に過ぎない点を考える必要がある。(b)については、中国が国際競争力を持っているのは、コアの部品を輸入した上でのテレビ、DVDプレーヤー、携帯電話、デスクトップパソコンなどの家電・電子部品組立のほか、衣類、履物、繊維製品、雑貨などの労働集約的な製品であり、全ての産業で強いわけではない点を考える必要がある。(c)については、日本の総輸入に占める中国のシェアは16.6%にあるものの、日本のGDPの約1.3%に過ぎない。日本の中国からの工業製品輸入は急速に伸びている一方、我が国の海外生産比率は全産業で14.5%に過ぎず、25%程度の欧米先進国に比べると高いとはいえない。また、日本企業の現地法人での生産が拡大すると、その現地法人向け中間財の日本からの輸出が増えることによって、日本の輸出が増加する効果もある。日本の対中貿易は大幅な赤字であるが、経由して中国に輸出されることの多い香港を含めて収支をみると、日本の貿易収支は黒字基調を維持している。その上、中国の輸出品はローテクが多く、日本はハイテクが多いことから、日中貿易は競合関係にあるよりも、補完関係にあるものが圧倒的に多い。

以上のことから、現時点では中国は脅威とはいえないのではないか。

2. 将来中国は脅威となるか—「良い脅威論」と「悪い脅威論」—

中国の比較優位はいまだ豊富な労働力にあり、技術力に比較優位を持つ日本とは対照的になっていることを反映して、現時点では日中関係は競合的というよりも補完関係にある。例えばアメリカの日本と中国からの工業製品輸入(10000品目)をみると、日本と中国が競合している品目は16%に過ぎず、補完している部分が84%を占める。競合関係がゼロ・サム・ゲームの世界であるとすると、補完関係はウィン・ウィン・ゲームを意味するはずである。日本は日中間の補完性を発揮すべく、衰退産業の中国への移転と、新しい国内産業の育成を組み合わせた「空洞化なき高度化政策」に取り組むべきである。

「良い中国脅威論」とは、中国の急成長を認めた上で、日本において優位性の低下した産業については生産拠点を海外に移転するなど、その産業で使われていた生産要素を成長分野に振り向けることを意味する。既に日本にとっては古くなった技術分野の生産を中国に任せることにより、日本の産業構造の高度化を達成しようというものである。このようなプロセスにより、日本経済は優位性のある分野を中心に活力を取り戻すことができよう。

これに対し、「悪い中国脅威論」とは、中国との競争で負けた産業が、政治的影響力を行使し、対中貿易摩擦を引き起こすようなケースに当たる。その場合、政策当局と経営者にとって、中国脅威論は自らの努力不足を隠すためにまさに都合の良い材料になっている。しかし、国民の目を問題の本質からそらし、改革がさらに遅れることの代償は非常に大きい。

4.元レート

今後10年の中国経済を展望し、現状の政策を維持した上でGDP倍増を図ったとすると、相対的内需不足のため、輸出主導の発展となる。これは、対外不均衡の拡大や周辺諸国との輸出の競合激化など現在の課題を更に悪化させることを意味する。元高による為替調整で内需主導へ政策転換することが課題解決と国民に発展の利益を還元するために有効であり、国際的産業立地や競争力への影響を考慮しても政策として望ましいと指摘している。

まず、労働を唯一の生産要素と仮定して、日中を事例に、産業立地や競争力の決定要因を検討したものが図1である。2000年時点で東京と上海の実質相対賃金比率は、4.4倍程度と見られる。これと比較生産性曲線の交点が輸出入の分岐点を示す。たとえば、生産性がより高い財は国産が有利であるが、これより低いと中国からの輸入が有利となる。図1では、自動車や電気機器など日本を代表する財では優位性を示している。一方、衣料品、石炭など中国が優位なものが輸入側に並ぶ。もし、中国の生産性が日本より速く上昇すると、生産性曲線が左下に移動し、一部産業では輸入が有利に転ずる。

つぎに、日中の価格格差調査を用い、価格競争力を試算している。「日中サービス価格調査と新たな購買力平価の試算」(慶応大学、2002)による95年時点の財別価格格差から、日本の消費者が国内で両国の商品を購入した場合の格差を試算するため、流通コスト及び関税額(商品価格の平均約55%に相当)を考慮したものが図2である。一部に現時点のイメージと異なるものもあるが、大きな幅の価格格差の存在が大規模な日中貿易を支えていることを示している。乗用車などの輸送用機器、精密機械、金属、化学製品等については日本が競争力を有し、他方、食料品、衣料品等の労働集約型産業では数倍の元高になっても競争力が残る程中国に力がある。かつて日本に競争力のあったオートバイ、白物家電等では、多少の元高でも中国に優位性がある。なお、国際比較のため、規格品を除けば価格格差から質の相違を十分除去できていないことに留意が必要である。

以上から、政策へのインプリケーションを検討する。図1を一般化すれば、外国との比較生産性が大きく不利化(図中、AからC点へ)すると、自国の競合産業は大きな打撃を受ける。これは現在中国と輸出競合が生じているASEANにも当てはまる。つまり、大規模なFDIで大量の労働者を雇用する中国の発展から多くの国は利益を得るが、輸出競合国では大きなマイナスの影響を受ける可能性がある。このため、自らの交易条件を悪化させるだけでなく、対外不均衡の拡大、輸出競合国への打撃などを考慮すれば、中国が敢えて固定制を維持するメリットはないと言える。図2は、為替が変動制に移行しても、それだけで日中の価格優位構造には大きな影響が生じないことを示している。例えば、元レートが50%切り上がっても、中国が競争力を持つものは殆ど変化しない。

つまり、元高による内需主導への政策転換は、経済厚生を高め、GDPを増加させ、対外不均衡等も緩和することに最大の効果があることから、元高は中国自らの利益のために行う政策であることを示唆している図3

(注) 本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、内閣府あるいは内閣府経済社会総合研究所の公式見解を示すものではない。

<全文入手について>

本書は、NTT出版別ウィンドウで開きます。 から2003年11月に刊行いたしました。

この報告書の全文入手に関するお問合せ等は、下記までお願い致します。

内閣府経済社会総合研究所 情報研究交流部
電話:03-6257-1621(直通)    FAX:03-3581-1538


図1 多数財のリカード型モデル(生産額ウエート)
図2 財別「均衡」レート
図3 ベースライン・ケースと内需主導型政策の影響

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[付属資料]

  1. (別添1)
    1. 研究会開催日程別ウィンドウで開きます。(PDF形式 6 KB)
  2. (別添2)
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