研究会報告書等 No.18
自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書

平成18年7月

1. 調査の趣旨

戦後3回目となる98年以降の自殺の急増(3万人台=約82人/日)については、98年前後以降の経済状況の悪化との関係を指摘する見方が多い。しかし、自殺者数はその後も高水準で推移するなど要因について確定的な結論が出されたわけではない。本報告では、98年以降急増した自殺の原因動機として経済・生活問題が大きく増加している点に注目し、自殺とその経済社会的要因との関係について統計的分析を行うと共に、自殺予防対策について考察している。

2. 調査研究報告書の構成とポイント

I 深刻化する自殺問題とその背景

98年以降の自殺率急上昇は特に男性中高年で著しく(男性:23.4(H7)→38.0(H15)、10万人比)、高齢化に伴う影響(特定コホートでの増加を含む)を調整しても1960年以来の高さ男性:33.2(H15)、10万人比)となる。また、地域別では男性で北東北、南九州、山陰といった従来から自殺率の高い県で一層増加している。職種別には、管理的職業従事者、専門的・技術的職業従事者で増加率が高い。自殺の原因動機については、98年前後では「健康問題」の割合が低下し、「経済・生活問題」が急増している。

II 先行研究

IIでは、自殺行動についての先行研究の整理を行った。特に経済社会的自殺要因に関する研究については、i)経済的な要因(所得、負債・破産、経済の不平等)、ii)社会的な要因(年齢、離婚、結婚、出生、女性の社会進出、世帯、社会関係)、iii)複合的な要因(失業)について、既存研究のサーベイを行った。その結果、概ね、所得、負債、年齢、離婚、結婚、出生、社会関係、失業といった変数と自殺との相関関係が検出されていることが明らかとなった。

III 98年以降の経済社会的要因による自殺の典型例

98年以降の自殺について経済・生活問題を原因動機とする事例を既存調査により確認すると、具体的な原因動機としては、(1)自社の倒産・廃業(多くの事例で債務返済難)、(2)失業及び再就職難、(3)収入減少・他者の債務保証等、(4)仕事の量・質の変化(過大な責任、長時間残業)が典型的と考えられる。

IV 統計的分析

IVでは、現在利用可能な最もミクロレベルに細分化されたデータである年齢別性別(都道府県別)年次プール・データ(厚生労働省「人口動態統計特殊報告」、国立保健医療科学院(2003))を用いて、98年以降の自殺増加の要因の統計的検証を行った。

その結果、長期失業等を含む失業要因が、年齢階層別データ分析において、統計的に安定して有意に男性自殺率を増加させる方向に作用しかつ寄与度も大きかった。都道府県別年齢階層別データを用いた分析でも、失業率は統計的に安定して有意であった。したがって、98年以降の30歳代後半から60歳代前半の男性自殺率の急増に最も影響力があった要因は、失業あるいは失業率の増加に代表される雇用・経済環境の悪化である可能性が高い。

また、都道府県別年齢階層別データの統計分析は、近所づきあいの頻度が高い地域で自殺率が低い傾向にあったことを不完全ながらも示している。したがって、失職者や経営難に陥った自営業者を経済面だけではなく精神面でも支援するような人的ネットワークを土台とするセーフティーネットの構築が自殺予防に有効である可能性が高い。

V 自殺予防対策

自殺要因は経済社会的要因と心理的要因とに分類することが出来る。政府が、心理的要因に対する直接的な対処を行うのは難しいが、経済社会的要因に対する対策を行うことは可能である。また、心理的要因に関しても、自殺に至る心理状態になるのを防ぐための施策作りは政府の役割である。

自殺予防対策は、多くの国々で様々な立場から提言されており、それらは専門家が中心となって行っていくもの、国民が中心となって行うもの、政府が行うものまで多岐にわたる。それらは三つの枠組み、i)経済的な視点(雇用対策、再就職支援の強化、労働条件の改善等)、ii)環境・教育的な視点(うつ病支援、医療相談へのアクセスの向上等)、iii)行政・法務に関する視点(自殺統計の充実、研究促進等)、に分けることが可能である。これらの枠組みごとに関係者が連携し、自殺予防を効果的に実施していくことが重要である。

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(注)本調査研究は、内閣府経済社会総合研究所が国立大学法人京都大学に委託したものである。

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