研究会報告書等 No.33
日本経済の主要な対外リスクに関する研究報告書
-要旨-

2008年3月

I.研究の問題意識と検討課題

1. 問題意識

一国の経済運営について考える際には、蓋然性の高い標準的なシナリオを描き、その下での政策の在り方を検討するだけでは不十分であり、蓋然性は必ずしも高くないが、もし実際に生起した場合には甚大な影響を及ぼすと考えられる様々なリスク要因について十分検討し、対応策を準備しておく必要がある。経済運営においても、リスク・マネイジメントの観点は極めて重要である。もちろん、すべての大規模な外生的ショックを事前に察知することは不可能であるが、各時点において想定される主要なリスク要因について、それが実際に発生した場合の影響や対応策を事前に十分検討しておくことは極めて重要な課題である。

近年は経済のグローバル化によって、海外における出来事が国内経済に大きな影響を及ぼすケースがますます増えてきている。モノの貿易のみならず、サービス貿易、資本移動、人の移動など、グローバル化の範囲は拡大し、またその程度も深化してきている。これによって、ある国・地域におけるショックが、他の国・地域に影響を与える程度も以前と比べ格段に大きくなってきている。

以上のような問題意識に基づき、本研究では日本経済にとって大きな影響を与える可能性のある主要な対外面でのリスクについて検討を行う。今日の世界経済はいくつもの重要な問題に直面しているが、本研究では、貿易・投資関係の緊密化などによって近年日本との結び付きがとりわけ強くなってきている東アジアにおけるリスクに焦点を絞ることとした。

リスクという場合、ここでは主に通貨危機、金融危機、経済危機、不況といったネガティブ・ショックを念頭においているが、逆に中国経済が順調に発展を続けた場合、日本の産業がかなりの分野で国際競争力を喪失するのではないかといった懸念もあることから、本研究では、日中の製造業の競争力についても検討する。

2. 検討課題

具体的な検討課題としては、主に以下の点をとりあげることとした。

  1. (1)バブル的な様相を呈している中国の不動産・株式市場で、価格の大幅下落が生じ、経済が危機的な状況に陥る可能性をどうみるか。そうした危機の引き金となり得る国内的要因、海外要因としては何が考えられるか。仮に、中国で危機的な状況が発生した場合、日本経済にはどのような影響が及ぶと考えられるか。
  2. (2)東南アジア諸国や韓国で、1997、98年のアジア危機と同じようなタイプの危機が発生する可能性をどうみるか。外貨準備の積み増し、為替レートの変動性の高まりなどによって10年前と同種の危機が発生する可能性は低下したと考えてよいのか。
  3. (3)逆に、これら諸国におけるアジア危機への対応(外貨準備の積み増し、為替介入による為替の低目誘導など)がグローバル・インバランスの問題を助長している可能性はないのか。アジア諸国の経済の安定性及び中長期的な経済発展の観点から、こうした対応のベネフィットとコストをどう考えるか。過度の外貨準備の積み増しなどに頼ることなく、危機への耐性を強めるためには、各国、地域全体、世界全体で何がなされるべきか。
  4. (4)東南アジアや韓国で危機が発生するとすれば、それはどのようなタイプの危機になるのか。足下では、これらの国への資本流入、特に短期の資本流入が増えているが、これをどのように考えるべきか。
  5. (5)サブプライム問題はアジア経済にどのような影響を及ぼすのか。また、サブプライム後の世界経済は、アメリカを中心に相当の減速を余儀なくされるのか。また、グローバル・インバランスの改善に向かうのか。
  6. (6)90年代までは日本と中国の産業・輸出構造はかなりの程度補完的であったとの見方があるが、足下の状況はどうなっているのか。競合度はかなり高まっているのか。また、それはどの分野で起こっているのか。

II.研究結果の概要

序章 アジア経済のリスクと問題点 ―全体の議論の整理のために―

慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所
教授・上席研究員 法專充男

この序章は、本研究会を通じて明らかになった点を、第1章以下の各論文、中国で筆者が行ったヒアリング結果などを基に、筆者の責任においてとりまとめたものである。

本研究会では、主に中国、東南アジア、韓国などで危機的状況が発生した場合のリスクを扱ってきたが、当面は中国の動向により注意を払うべきと考えられる。中国ではインフレが加速する一方で、不動産市場、株式市場でバブル的状況が発生しており、仮に資産価格が暴落した場合、実体経済、金融部門に大きな影響が出るものと考えられる。金融部門への打撃という面では、銀行からの借入れによる投資が原則禁止されている株式市場の暴落よりも、購入資金の多くが銀行借入れによってまかなわれている不動産市場の暴落の方が影響が大きいとみられる。中国で危機的状況が発生した場合の日本への影響に関しては、実物面を通じた影響よりも金融面を通じた影響がより懸念される。日本経済は輸出を通じて中国経済への依存度が高いので、日本の株価が大きく下落する危険性がある。日本にとって最悪のシナリオは、株式市場のみならず国債市場にも大きな影響が及ぶケースである。

一方、東南アジア、韓国などについては、外貨準備の積み増し、海外からの借入れの大幅な圧縮などにより、97、98年のアジア危機と同種の危機が発生する可能性は低下しているものと考えられる。しかし、これらの多くの国々は危機の再発防止のために過大な外貨準備を蓄積しているとみられる。外貨準備の過大な蓄積は、グローバルな資金フローを大きくゆがめるとともに、これら諸国の中長期的な経済成長を低迷させるリスクを高めている。過度の外貨準備の蓄積に頼ることなく、これら諸国が安定した経済成長を持続するためには、新しい国際金融システムの制度設計の構築が課題である。

アジア危機に見舞われた国々では、危機の前には経常収支は赤字、国内のISバランスは投資超過であったが、危機後には経常収支は黒字、国内は貯蓄超過に転じた。また、中国でも大幅な経常収支黒字と国内の大幅な貯蓄超過が発生している。そして、こうしたことが、世界的な貯蓄過剰を生み出し、アメリカの経常収支赤字をファイナンスするという形でグローバルな資金フローを大きくゆがめる要因となっている。国内の貯蓄超過を縮小するため、中国では消費を促進する方向での政策対応が、その他の東アジア諸国では投資を促進する方向での政策対応が望まれる。

一部の東アジア諸国では、97-98年の危機以降途絶えていた民間資本流入が復活しており、ここ数年は過剰な資本流入が発生している可能性がある。昨年来のサブプライム問題やそれに伴うアメリカ経済の景気減速・後退などは、今後さらに東アジアへの急激な資本流入を促す可能性をはらんでおり、適切な政策対応がなされなければ、各国でマクロ経済的な困難や金融セクターの不安定性が増していく可能性がある。

サブプライム後の世界経済の行方については、アメリカの深刻な景気後退、世界経済の大幅な減速というシナリオも十分な検討が必要である。

中国の発展により、日本の産業がかなりの分野で国際競争力を喪失するのではないかといった懸念もあることから、日中の産業競争力をアメリカ市場への輸出金額及び競合度などによって分析すると、輸送機械や精密機械では日本の優位性が維持されているが、2000年代初めに一般機械や電気機械では輸出額で中国に追い越されており、特に電気機械での競合度の上昇が顕著である。付加価値指標別にみると、低・中付加価値分類を中心に中国との競合度が非常に高く、時系列的にみてもますます高くなっている。

第1章 景気調整を迫られる中国経済 ―注目されるインフレと資産バブルの行方―

野村資本市場研究所シニアフェロー 関 志雄

中国では、2007年の経済成長率は11.4%と、2003年以来5年連続して二桁台に達している。その一方で、人民元の上昇を抑えるための為替市場への介入が、マネー・サプライの急拡大、ひいては流動性の膨張をもたらしている。これを背景に、インフレが加速する一方で、不動産価格と株価をはじめとする資産価格も高騰した。特に、株式市場では、非流通株改革の進展も加わり、上海総合指数は、第17回中国共産党全国代表大会が開幕した2007年10月15日に6000ポイントを突破し、2年あまりで6倍となった。その後、サブプライムローン問題に端を発した世界経済の減速懸念や、インフレ対策として採られた金融引き締め策と人民元の切り上げを背景に、株価は調整局面に入っているが、企業の収益と比べて、割高感がまだ払拭されていない。その上、2009年以降に、国が保有している大量の「非流通株」の市場への売却が解禁されることによる需給関係の悪化懸念も加わり、株価の更なる下落のリスクを見ておく必要がある。

株価暴落の打撃をもっとも大きく受けるのは、最近になって、割高になった株を買った小口投資家であろう。これは、社会の不安定化につながりかねず、不満の矛先は、株価の急落を防げなかった政府に向かいかねない。

金融面では、株価が低迷期に入れば、流入する資金も細くなり、せっかく非流通株改革を経て向上した証券市場の資金調達と運用の場としての機能が再び低下してしまいかねない。また、日本の経験が示しているように、株と共に不動産バブルが崩壊すれば、銀行部門の一部の融資が回収不能となり、不良債権比率の上昇は、貸し渋りという現象をもたらすだろう。

マクロ経済の面では、株価の暴落により、投資家の資産が目減りし、消費が低迷する。また、企業の資金調達のコストが割高になるため、投資も鈍化するだろう。予想される世界経済の減速も加わり、2008年8月のオリンピック開幕を待たずに、中国経済は、景気の転換点を迎える可能性が高い。

第2章 グローバルバブルと中国リスクの日本への影響

慶應義塾大学経済学部教授 櫻川昌哉

21世紀にはいってからの世界経済を特徴づけるのは、歴史的低金利である。2000年頃までは金利は成長率を上回っていたが、2000年あたりを境にして、成長率が金利を上回りだしている。「成長率=利子率」がほぼ成立しているこうした経済では、バブルが存在しうる。財政の維持可能性の条件は変化し、国債バブルが存在することになる。

中国リスクの影響が懸念されるのは、金融面を通じて波及するケースである。日本経済が輸出を通じて中国経済への依存度が高いので、日本の株価は大きく値を下げると予想される。中国の株価の暴落が、日本の株式相場の下落だけでなく、国債相場の下落をもたらすケースはさらに深刻である。日本の財政は深刻な状況にあるので、ヘッジファンドが株式市場だけでなく、国債市場にも仕掛けてくるかもしれない。

国債市場がファンドに狙われる要因は少なくとも3つある。まず、政府債務/GDP比率の高さは、国際比較からいっても異常に高い水準であり、明らかに財政の維持可能性は危機的水準にある。次に、中国ショックによる景気の悪化は、税収の落ち込みを通じて、財政収支のいっそうの悪化をもたらし、財政を危機的な状況に追い込む可能性が高い。最後に、国債価格は明らかにバブルであり、価格は割高である。

ファンドが、国債を売りあびせると、価格は暴落し、国債金利は急騰する。主力の国債の買い手は、銀行、郵便貯金、年金基金、生保などの金融機関であるが、彼らは国債をあくまで安全資産として保有しており、価格が下落したから買いを入れるといった行動をとるとはいえない。頼みは、日銀の買い支えであるが、ファンドのアタックに機動的に対応できるかどうかは不明である。国債の価格が下落すると、金融機関の含み損が取りざたされ、金融システムは一気に不安定化する。金融危機と財政危機が同時に起きるという最悪の事態を迎え、日本経済は機能不全に陥る。これが日本経済にとって最悪のシナリオである。

第3章 外貨準備蓄積のマクロ経済的効果による潜在的なリスク

東京大学大学院経済学部教授 福田慎一

国際間の資本移動が自由化され、金融市場のグローバル化が進展した今日、国際資本移動のあり方は、世界経済の安定的・持続的成長の達成を考える上でますます重要になっている。グローバルな金融の自由化は、日本経済が潜在的に直面するリスクを高めている。かつては,そのようなリスクは発展途上国における通貨危機という形で顕在化した。しかし、通貨危機後、危機に直面した発展途上国は、危機の再発防止のため、さまざまな対策を採るようになった。なかでも、東アジア諸国など発展途上国の多くは、流動性不足のリスクを回避するため、大量の外貨準備を蓄積させた。そして、この傾向は、輸出競争力を高めるための自国通貨安誘導のための為替介入によって、さらに加速されている。

発展途上国における外貨準備の蓄積は、通貨危機再発の防止という点からは、有効な手段の1つである。その意味では、今日の国際社会は、発展途上国における通貨危機の発生というリスクは、10年前よりはかなり減退しているかもしれない。しかし、過大な外貨準備の蓄積を行えば、他方で発展途上国において別の大きなコストが発生する。本稿では、このコストを主要なマクロ経済変数へのインパクトという観点から考察し、外貨準備の蓄積が、対外債務、国内消費、国内投資、そして経済成長に、それぞれどのような影響を中長期的に及ぼすかを検討した。

外貨準備の蓄積は、国内消費の減少というコストを多くの国でもたらす一方で、輸出の増加による貿易財産業の拡大をもたらす傾向にある。貿易財産業の拡大は、貿易財産業が資本集約的である場合、国内投資の拡大を通じて経済成長にプラスの影響を及ぼす傾向がある。しかし、東アジア地域では、中国では国内投資の大幅な拡大が見られるものの、その他の国々では外貨準備の蓄積の一方で国内投資は低迷してきた。これは、中国を例外とすれば、外貨準備の増大が、非貿易財産業の縮小を通じて、中長期的な経済成長を低迷させるリスクを高めていることを示唆している。

第4章 グローバル・インバランスのリスクとアジア経済の課題

早稲田大学商学学術院教授 谷内 満

世界経済は今、グローバル・インバランスと呼ばれる世界的規模での国際金融面の不均衡に直面している。グローバル・インバランスの中心には、米国の経常収支赤字の大幅化があるが、アジア諸国も米国の経常収支赤字拡大をファイナンスするという形で、グローバル・インバランスの拡大に密接にかかわっている。

米国の大幅な経常収支赤字が続く限り、ドル安調整は不可避である。ドル安が穏やかなペースで進めば問題はないが、予期せぬ何らかの経済的あるいは政治的な出来事を契機に、外国投資家のマインドが突然急激に変化して、米国への資本流入が急速に減少したり、資本の逆流が起これば、ドルは急落する。ドルが急落すれば、米国の株価暴落、金利急騰などで米国経済が失速する。世界経済に大きな影響を持つ米国経済のハードランディングは、世界経済のハードランディングにつながりかねない。その意味で、米国の経常収支赤字は世界経済の不安定要因となっている。

1997年~1998年のアジア金融危機は、成長が著しかった東アジア諸国に大幅に流入していた海外資本が、突然大規模に逆流することによって引き起こされた。世界の資本の流れは、アジア危機以降大きく変貌しており、アジア諸国の資本流出入構造も危機前と比べると著しく変化してきている。アジア諸国はグループとして見た時、アジア危機を境に経常収支赤字国から黒字国に転換し、かつ黒字幅が拡大している。このことは同時に、アジア諸国はアジア危機以降、資本輸出国(資本流出>資本流入)、貯蓄超過国(貯蓄>投資)に転換したことを意味する。また、外貨準備の拡大が著しい。アジア諸国の資本輸出国化の背景を探るために国内貯蓄・投資の動向を分析すると、アジア危機の直撃を受けたアセアン諸国や韓国と、直接的な打撃をまぬかれた中国とでは大きな違いがあることがわかる。

グローバル・インバランスの巻き戻し(unwinding)が急激に起これば、アジア諸国を含めた世界経済に大きな悪影響をもたらす。そのような世界経済の不安定要因を低減するために、米国の果たすべき役割は大きいが、同時に、アジア諸国としても、グローバル・インバランスの是正に貢献することが求められる。

第5章 東アジアの資本流入問題

アジア開発銀行研究所所長 河合正弘

タイ、ベトナムなどの一部の東アジア諸国では、1997-98年の通貨・金融危機後途絶えていた民間資本流入が復活しており、ここ数年は「過剰」な資本流入が発生している可能性がある。グローバル・インバランスの問題、さらには昨年来のサブプライム問題やそれに伴うアメリカ経済の景気減速・後退などはいずれも、今後さらに東アジアへの急激な資本流入を促す可能性をはらんでおり、「過剰」な資本流入に適切に対処できる政策体系・枠組みを作っていかなければ、各国でマクロ経済的な困難や金融セクターの不安定性が増していく可能性がある。

特に持続的な資本流入が起きるなかで、多くの東アジア諸国は通貨価値の上昇を嫌い、為替市場介入を行って外貨準備を累増させているが、その結果国内で流動性が拡大し、国内経済の過熱、財価格インフレ、資産価格インフレ・バブルのリスクに面しやすくなっている。こうした問題を放っておくと、各国内でマクロ経済的、あるいは金融的な安定性を損なう危険性に曝されよう。そうしたリスクを最小化させる政策対応が望まれるわけである。

こうした状況に対する教科書的な処方箋は、為替レートの増価を許容すること、緊縮的な財政政策をとること、金融システムの健全性を強化することなどである。しかし、これらの処方箋をそのままあてはめることには限界がある。まず、単独で為替レートの切上げを行うことは、当該国の国際価格競争力を損なうため難しいが、中国を巻き込んだ地域一体となった為替レートの切上げであれば十分受け入れられよう。そのためには、域内での政策対話を密にしつつ、ドルに対してコレクティブに為替レート調整を行える協調的な共同行動をとることが有効だろう。次に、ASEAN諸国はアジア危機後インフラ投資を抑えてきたことから、投資目的での政府支出の抑制には抵抗がある。そこで、「過剰」な資本流入期には、予定されたインフラ投資は維持しつつも、増大した税収を追加的な支出や投資に回したり減税で減らしたりせずに、「自動安定化装置」を通じたかたちで結果的に財政緊縮を達成することが現実的だろう。また、金融システムの健全性の強化は一朝一夕にできるものではないが、域内各国の当局者が情報交換や政策対話を行いつつ、着実に金融システム改革を進めていくことが望ましい。

第6章 アジアの過剰な危機回避によって生じる合成の誤謬

慶應義塾大学経済学部教授 竹森俊平

現状の世界経済の最大のボトルネックを、発展途上国における投資対象の不足であると考えて、そのような状態では、バブルを次から次へと作り出すことによって、デフレと不況圧力を防ぐことも必要かもしれないというカバレロの見解。次から次へとバブルをつないでいくことで好況を維持するアメリカの政策運営を鋭く批判したロゴフの見解。本論ではこの二つの見解を議論の出発点とした。

このうちのロゴフの見解に立つ限り、「動学的効率性」の条件、つまり資本収益率が成長率を上回る条件が回復するまで、世界経済の成長率が減速しなければならない。しかし、それは必ずしも望ましいとは言えず、しかもその政治システムへの圧力は巨大である。「動学的効率性」が満たされれば、主要先進国の財政、とくに日本の財政は危機的な状態となるからである。

アメリカの主要機関が、発展途上国の政府系ファンドの資本提供によって辛うじて破綻を免れている状況からしても、現在金融システムにより重大な「危険」を抱えているのは、アジアを含めた新興工業国ではなく、先進国であるということができる。さらにこの点について少し誇張して言うなら、現在日本政府が真剣に心配するべきことはアジアにおいて金融危機が発生することではなく、財政問題に端を発して、日本国内で金融的な危機が起こることではないか。万が一、サブプライムを引き金に世界的な不況が発生した場合、政策金利が0.5パーセントまですでに下げられており、財政事情も悪い日本が、アメリカやヨーロッパと比べて不利な状況に立たされることは容易に想像がつく。

そういうことで、本論ではカバレロ的な解決の可能性、つまり発展途上国が1997年以前のような旺盛な投資戦略に復帰する可能性を探ってきた。しかしながら、サブプライム危機によって、アジアが採用したような「ポスト97年型」政策の危機管理法としての有効性が明確になり、しかも「透明」といわれたアングロサクソン型金融システムの不透明性や脆弱性が明らかになった以上、新興工業国の「プレ97年型」への復帰を促すのは容易なことではない。唯一「プレ97年型」を採用している東欧の経済も、現状では脆弱性を抱えている。以上のことから考えて、ロゴフの見解が行き着く先である。世界経済の成長率の大幅な減速というシナリオも十分な検討が必要である。その場合、各国政府は、経済成長率の減速が生む経済的、社会的、政治的な問題について、セーフティーネットを準備することが必要となるだろう。他方で、「縮小するパイ」の取り合いをする政策、すなわち保護貿易主義の急速な台頭を警戒することが必要である。

第7章 日中の産業競争力について

慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所
研究助教 岡村麻子
教授・上席研究員 法專充男

近年の日本経済にとっての非常に大きな環境の変化の一つに、中国経済の急成長がある。中国経済と結びつきの強い日本経済にとって、これは基本的に歓迎すべき変化であるが、ミクロあるいはセミマクロの観点からは様々な調整コストが発生することから、中国経済の台頭を脅威と感ずる向きもある。特に中国の場合、労働集約的な低付加価値製品のみならず、IT革命の波に乗って、一部のIT製品をはじめとする比較的高付加価値の製品についても近年競争力を持つようになっていると言われ、一時期日本国内でも中国脅威論が喧伝された。

本論文では、中国の産業構造、貿易構造がどの程度高度化し、日本との競合度がどの程度高まってきているのかを、できるだけ最新の入手可能な統計を用いて分析することを試みた。まず、1995年および2000年近辺の産業連関表を用いて、日本と中国の産業構造、貿易構造を視覚的に比較するスカイライン分析を行った。さらに、2005年までの米国輸入統計を用いて、アメリカ市場における日中の輸出額の比較と競合度の計測を行った。まず対米輸出総額でみると、中国の急速な成長により、2003年に日、中の規模は逆転した。全体での競合度も、1996年の10%から、2005年の26%まで高まっている。これには中国の産業の高度化も寄与していると考えられるが、それと同時に中国の対米輸出規模の急拡大が大きく寄与しているものと考えられる。部門別輸出額でみると、輸送機械や精密機械における日本の優位は維持されているが、一方で、2000年代はじめに一般機械や電気機械では輸出額は中国に追い越された。中国との競合度の上昇が顕著なのは電気機械及びその他製造業である。続いて、財の質の代理変数として付加価値指標を定義し、HS10桁分類の財ごとに指標を計測し、これにより付加価値指標順に財の並べ替えを行った。付加価値指標別の輸出額をみると、日本は付加価値指標の高い財、中国は低い財を中心に分布するが、時系列でみて、その分布の重なりは大きくなっている。付加価値指標別の競合度においても、低・中付加価値分類を中心に中国との競合度が非常に高く、時系列でみてもますます高くなっている。高付加価値分類においては、2005年の時点においても競合度水準は(低・中分類と比べると)低いといえるが、時系列でみて上昇傾向にある。

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