研究会報告書等 No.46
日本経済の主要な対外リスクに関する研究報告書
-概要-

(注) 本概要は、必ずしも報告書本編の表現などを忠実に再現しているものではなく、引用など行う場合には直接本編を参照されたい。

2010年3月

研究の問題意識と検討課題

一国の経済運営を考える際には、蓋然性は必ずしも高くないがもし実際に生起した場合には甚大な影響を及ぼすと考えられる様々なリスク要因について、十分な検討が必要である。近年では、経済のグローバル化の拡大と深化によって、ある国・地域におけるショックが、他の国・地域に影響を与える程度も以前と比べて格段に大きくなっている。

本研究は、世界金融・経済危機の推移と今後の見通し、およびそれが日本経済に及ぼす影響を的確に把握し、あらかじめ対策を講じるといった経済政策上の重要な課題について、的確な分析と政策の企画立案に資することを目指すものである。

本報告書の検討課題は以下のとおりであり、主に世界金融危機後の世界経済における様々なリスク要因について分析するとともに、それらが顕在化することを防止するために必要な政策対応の在り方などについて検討した。

  1. 世界金融危機後のアジア経済、とりわけ中国経済の動向とリスク要因
  2. ヨーロッパの小国のソブリン危機とその問題点
  3. グローバル不均衡の今後の見通しと主要国の政策対応の在り方
  4. 世界金融危機後のリスク・プレミアムからみた日本の金融機関の問題点
  5. ポスト世界金融危機の日本の成長戦略

なお、本報告書は平成21年12月までのデータ、情報に基づいて作成されたものである。

研究結果

1.ポスト世界金融危機の中国経済 ~グローバル経済大国への課題~

(1)世界金融危機後の中国経済とリスク要因

中国の景気は、リーマン・ショック以降に打ち出された景気対策が功を奏し、先進国に先駆けて回復に向かっている。経済成長率は10年度には9.5%程度に加速すると見込まれる。その一方で、金融緩和に伴う流動性の膨張から、資産価格のバブル化とインフレの高騰のリスクが高まっている。金融政策と為替政策の転換が遅れた場合、資産バブルの膨張とインフレの高騰により、当局はより強烈な金融引き締めと大幅な為替レートの切り上げを実施せざるを得なくなり、その結果、バブルの崩壊と多くの不良債権の発生を招くことになる。

(2)労働力は過剰から不足へ

2005年頃から沿海地域において表面化した労働力不足の問題は、リーマン・ショック以降一時収まったが、景気回復とともに再び表面化している。これは単に景気循環の要因というよりも、生産年齢人口の伸びの鈍化と農村部の過剰労働力の枯渇といった構造要因を反映している。経済発展における完全雇用の段階が近づくにつれて、労働力の供給は成長の制約になりつつあり、今後高成長の維持のためには、産業の高度化などを通じた生産性の上昇が必要である。

(3)米中を中心とするグローバル不均衡問題

近年、中国の経常収支黒字や外貨準備が急増し、グローバル不均衡問題を考えるうえで中国は米国と並ぶ主役になってきた。米国の貿易赤字の拡大と中国の貿易黒字の拡大は、両国における貯蓄-投資バランスの不均衡の拡大の表れである。この米中の不均衡の拡大が今回の世界金融危機の原因の一つとされているが、これを是正するためには、米国における消費抑制とともに中国における消費拡大が欠かせない。特に世界経済を牽引する新しいエンジンとして中国における消費拡大の期待がますます高まっているが、そのカギとなるのは、企業部門から家計部門へ、都市部から農村部へ、高所得層から低所得層への所得分配政策である。ただし、行き過ぎた再分配政策は企業の投資意欲や労働者の勤労意欲を低下させ、経済の低迷をもたらしかねない点には注意が必要である。

(4)中国における新しい国際通貨戦略の模索

米国発の金融危機が深刻化するにつれて、基軸通貨としてのドルへの信認が問われ、国際通貨体制の改革の機運が高まっている。これを背景に、中国では、人民元の国際化を軸とする新たな国際通貨戦略を模索している。それは、国際通貨制度における人民元の役割の上昇、および、経常取引、資本取引、外貨準備等における人民元のウエイトの上昇を指す。人民元の国際化のために、中国は資本取引の自由化を急ぐべきとの意見もあるが、金融システムの脆弱性からその機はまだ熟していない。結局、人民元の国際化は、国内の金融改革と資本移動の自由化の歩調に合わせて「漸進的」に進めていくしかない。

2.31年型危機としてのヨーロッパの危機とユーロ圏(EMU)の問題点

(1)29年型危機と31年型危機

プリンストン大学のHarold Jamesによると、大恐慌は29年型と31年型に二分できる。29年型とはウォール・ストリートの株価大暴落を指すが、この時は大手金融機関の破綻にまでは発展しなかった。このタイプの危機は、原因の究明は難しいが、Monetary Expansionにより解決は簡単である。一方31年型とは、オーストリアのクレディート・アンシュタルトの破綻と、以降の欧州での危機の連鎖を指す。したがって31年型危機とは大手金融機関が破綻することである。このタイプの危機は、原因そのものは明確だが、金融機関と国家財政の同時的なSolvencyの問題に発展するため、解決が容易ではない。

今回の欧州における危機は31年型の危機である。例えば、アイルランドの問題は、当時オーストリアで起こったことと近似している。CDSのスプレッドが急騰したアイルランドの銀行に対して、アイルランド政府が包括的な保護措置を実施したが、その財政的な波及が新たなる問題を生みだし、アイルランドそのもののソブリン危機を招いた。

(2)欧州における危機の特徴

今回の欧州における危機の特徴として、以下2点が挙げられる。

1. 金融的な打撃を受けたのは、主に小国

多くの小国は金融に依存した経済発展を目指したが、ひとたび金融危機が発生し、マルチナショナルに活動する大銀行が経営危機に瀕すると、その救済という問題は小国の財政規模を考えると実に深刻であり、結果として小国の財政危機そのものに発展した。

2. ユーロの仕組みそのものが危機の発生に関係

経済条件が異なる加盟国間であっても、ECBによる同一の金利を一律に適用することが、一部の国にとってはバブルの原因となった可能性がある。危機前の金利水準はスペイン、ギリシャ、アイルランドなどにとっては大幅に緩めであった。ユーロ圏への加盟を目指して金利をユーロ圏と同じ水準にしていた東欧諸国についても、そのことがバブルの原因となったことは十分考えられる。

(3)31年型危機への対応と、今回の危機に対する欧州の対応

31年型危機への対応として、Harold Jamesの議論を整理すると以下の3つにまとめられる。今回の危機への欧州の対応は 1 と 3 の戦略の組み合わせであり、2 の戦略は、アイスランドのような例外を除き、ほとんどとられていない。

1. 対外経済関係重視路線

海外投資家の信用維持を最優先に、通貨価値の安定や対外債務の履行を厳守。必要であれば、不況下であっても緊縮財政政策を厭わない。

2. 閉鎖経済体制への移行

景気刺激策や金融システムの支援策など、国内経済安定のための政策を総動員する。その際、必要によっては対外債務の踏み倒しや、さらには資本逃避に対する規制も。

3. リーダー格の国や組織による小国の救済

リーダー国(組織)が存在して、31年型危機に陥った国に対して巨額の援助をする。今回、東欧に対する支援については、ECB、EBRD、EUとIMFが協力して援助するというフォーマットが出来上がっている。ユーロ圏内の支援については、例えば、ECBがユーロ圏内の政府の国債を買って政府をベール・アウトすることは制度上できないが、リファイナンシングによって民間銀行を助けることにより、実質的に小国を助けている。

3.グローバル不均衡 ~世界金融危機との関係とゆくえ~

(1)グローバル不均衡と世界金融危機との関わり

グローバル不均衡が世界金融危機の発生に大きな役割を果たしたとする考え方が見られるが、以下の理由から、その役割は限定的なものであったと考えられる。

世界金融危機の震源は米国のサブプライム・ローン問題にあり、その背景には低金利があった。アジア諸国などからの資本流入が米国の低金利をもたらした1つの要因になった可能性は否定できないが、実証的に検証されたものではない。また、そうだとしても、アグレッシブな金融引き締め政策により、長期金利を現実よりも高めに誘導することは可能だった。また、世界金融危機の発生は、低金利以外にも、リスクの過小評価を生み出した諸要因(高リスク貸付の証券化、証券化商品の高格付け、CDSの売買拡大など)が重要な役割を果たしたが、これらはグローバル不均衡とは直接関係がないものである。

(2)グローバル不均衡復活の可能性

世界金融危機以降、縮小に向かったグローバル不均衡は、米国経済と世界経済が今後世界金融危機の影響から脱したとき、再び復活する可能性が高い。

米国の経常収支赤字は、今後の投資率の回復と財政赤字の拡大次第では、世界金融危機直前の水準であったGDP比5~6%程度になることは十分ありうると考えられる。また、中国などのアジアおよび中東の経常収支黒字に関しても、中国の為替政策に大きな変更はみられず、また、原油価格が再上昇する可能性が高く、今後中期的に大幅な経常収支黒字を維持してグローバル不均衡を支える要素になると考えられる。

(3)グローバル不均衡復活の問題点

グローバル不均衡が復活した場合に考えられる問題として、以下が挙げられる。

1. 今回の世界金融危機と類似の金融危機に繋がる可能性

ただし、グローバル不均衡が世界金融危機の発生に果たした役割が限定的であることや、米国政府の金融規制の見直しおよび資産価格上昇への配慮により、この可能性は高くないと考えられる。

2. ドル暴落による米国経済および世界経済の撹乱の可能性

実現する可能性は高いとは言えないが、否定はできない。

3. 国際的な資源配分の歪み

豊かな米国の支出過剰が、より貧困なアジア諸国の貯蓄によって支えられているという問題。

4. ドル安を通じた、ドル資産保有国のキャピタル・ロス発生のリスク

(4)グローバル不均衡是正のための政策対応

グローバル不均衡の是正のために主要国が採るべき政策対応として、まず米国は経常収支赤字拡大を防ぐために、国内の貯蓄不足を是正しなければならない。その観点からは、公的医療支出の抑制やブッシュ減税の非恒久化などによる財政赤字削減が重要である。

中国に関しては、大幅な貯蓄超過を、貯蓄率の引き下げによって是正すべきであり、社会保障制度の整備などによる家計部門の消費拡大が重要である。また、法人税課税や配当引上げによって、企業利潤を国庫に入れて社会保障整備の財源にすれば、家計貯蓄の低下にも役立つ。

また、日本については、内需拡大が求められる。日本の内需拡大に即効薬はなく、さまざまな構造改革が民間投資を高めることを通じて、日本の貯蓄超過を是正し、内需拡大に寄与するものと考えられる。

4.金融危機とジャパンプレミアム

(1)金融危機とリスク・プレミアム

金融危機が日本およびアジア経済にもたらした影響を、インターバンク市場のリスク・プレミアムという観点から考察。2007年-2009年の危機の中でこのリスク・プレミアムがどの地域の金融機関により顕在化したのであろうか。90年代初めから2009年夏までの期間の同一時点における異なる市場の短期利子率を同じ通貨建てで比較した。

(2)東京市場のリスク・プレミアム(ドル建てと円建て)

ドル建てのTIBOR(Tokyo Inter-Bank Offered Rate)とLIBOR(London Inter-Bank Offered Rate)とを比較すると、世界金融危機の時期でもTIBORが平均的にLIBORを上回っており、ジャパン・プレミアムは無視できなかった。逆に、円建てではTIBORのほうが低くなっており、TIBORとLIBORのスプレッドが、ドル建てと円建てで逆の動きをした。この結果は、自国通貨建ての取引でリスク・プレミアムが小さくなる「ホーム・バイアス」がインターバンク市場で発生していたことを示唆している。

(3)シンガポール市場、香港市場のリスク・プレミアム

シンガポール市場では、アジア通貨危機や世界金融危機の際でも、SIBOR(Singapore Inter-Bank Offered Rate)とLIBORはパラレルに動いており、シンガポール・プレミアムはプラスにもマイナスにも発生していない。また、香港市場での、為替レート調整済み香港ドル建てHIBOR(Hong Kong Inter-Bank Offered Rate)とドル建てLIBORを比較すると、リーマン・ショック前までは前者に、リーマン・ショック以降は後者にリスク・プレミアムが発生し、さらに、2009年初頭以降は前者が再びプレミアムが発生した。

(4)金融危機発生時の日本の金融機関の問題点と政策対応

日本の金融機関は、危機が起こるとドル建て資金調達に非常に苦労する傾向があり、金融機関のドル建ての資金調達をどうスムーズにするかに関しては課題が残っている。これについて、日本政府が保有する外貨準備の有効活用、例えば、財務省が保有するドル建て国債を担保にドル資金を借りて、日本の金融機関に融資する、あるいは、日本の金融機関のドル建ての借り入れに政府保証を与える、といったことがジャパン・プレミアムが発生した際の有力な対策の一つになりうる。

5.日本経済の成長戦略 ~「失われた20年」から脱却するために~

(1)世界金融・経済危機の日本経済へのインパクト

世界金融・経済危機は日本の輸出、鉱工業生産、GDP成長率に極めて大きなインパクトを与えた。その理由として、(A)日本の輸出構造が欧米市場に過度に依存していたこと、(B)国内の経済構造が、近年の円安によって相当程度、貿易財部門へシフトしていたこと、が挙げられる。

こうしたなかで、今回のような危機は今後も発生する可能性があり、そうした外的ショックに対して日本経済をより強靱なものにしていく必要がある。

(2)ショックに対する日本経済の強靱性を高めるための政策

対外的なショックのみならず国内的なショックに対しても抵抗力のある経済構造にするには、以下のような対策が必要である。

  1. 外需と内需のバランスのとれた(どちらにも過度に依存することのない)経済成長。
  2. ショックが起きた際の拡張的な金融財政政策の実施に備えた、普段からの余裕ある金融財政政策の実施。
  3. 金融機関や金融システムの監督・規制(ミクロ面での個々の金融機関の健全性確保、マクロ面での金融システム全体の健全性確保)。
  4. 構造的な柔軟性を高めると同時に、個々の労働者や中小企業へのインパクトの軽減。
  5. 日本の周辺諸国への機動的な支援体制の整備。

(3)日本の成長戦略

今回の世界的危機の影響で、日本の対欧米輸出の大幅な回復が望めないとすると、今後の日本経済は新たな成長エンジンを見出さざるを得ず、そのための成長戦略を打ち出していくことが必要。その成長戦略の基本は3つの柱から成り立つべきである。

1. 需要サイド

家計消費を構造的に引き上げて経済全体の需要力を高める。特に、少子高齢化に対処するための政策を強化することで、経済構造を内需主導型に変えていくことが重要。とりわけ家族政策によって、女性が働きながら子供を産み育て、老人の介護も行える環境を整えていくことが喫緊の課題。

2. 供給サイド

製造業の革新的な技術開発の継続に加えて、製造業以外の新産業、特に規制改革による医療、介護、教育などのサービス産業の生産性向上と、環境・省エネ関連の「緑の産業」へのテコ入れ。

3. 新興アジア諸国との経済連携の強化

ダイナミックに成長する新興アジアの経済活力を取り込むことが重要。当面、「環境・エネルギー」、「広域インフラストラクチャー」、「貿易・投資・金融」の3つを中心とした経済連携の強化が現実的。

(注)本研究調査は、内閣府経済社会総合研究所が学校法人慶應義塾に委託したものである。報告書に示された見解は、執筆者の見解である。

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