研究会報告書等 No.47
一般均衡モデルを活用したFTA/EPA等の分析
~貿易円滑化の経済効果分析に用いるデータセットの作成~
-概要-

(注) 本概要は、必ずしも報告書本編の表現などを忠実に再現しているものではなく、引用など行う場合には直接本編を参照されたい。

平成22年4月

1.調査の背景・目的・アプローチ

1990年代以降、我が国も通商政策の1つの手段として、FTA/EPAへの取り組みを強化・積極化させてきた。また、今後の経済連携の構想として、日米EPA、日EU EPA、EAFTA(東アジア自由貿易圏)、CEPEA(東アジア包括的経済連携)、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)が示されており、重要な政策課題として位置付けられている。

通商政策の経済的分析について言えば、モノの貿易よりもサービス貿易の自由化、投資の自由化、非関税障壁・規制緩和が持つ経済的効果の分析の方が、残された課題として重要性が高いと言える。しかし、データの制約や分析手法の蓄積の不足もあり、これまで必ずしも定量的な分析が行われてきたとは言い難い。

本調査研究では、APECにおける貿易・投資の自由化の重要な課題となっている貿易の円滑化を取り上げ、経済効果の分析に取り組む。

本調査研究を実施するに当たっては、以下のようなアプローチを採用した。

  1. 第1に、関連する先行研究に関する文献調査を行い、最新の成果を本調査研究に取り入れる。
  2. 第2に、貿易円滑化の経済効果を分析するべく、定量的でありつつ実態的なデータセットの構築を目指す。
  3. 第3に、本調査研究の分析には課題・限界が残らざるを得ないことも想定されることから、経済効果の分析については試行的な位置づけとして、寧ろそこから改善・精緻化すべき課題や条件を明確化し、今後の関連分野の研究の更なる発展・進化につなげることを主な狙いとする。

2.既存先行研究に関する文献調査

貿易円滑化の経済効果に関する定量的なシミュレーションに当たっては、関税削減・撤廃の経済効果を分析する際に広く活用されているCGE(計算可能一般均衡)モデルのひとつであるGTAPモデルの活用が一般的である。最新の取り組みについて、2009年6月にチリで開催された第12回GTAP年次会合で発表された中から主要な論文を選択して文献調査の対象とした。

また、それ以外に、特に貿易円滑化、貿易にかかる取引コストの削減、海上輸送や物流コストの削減といったテーマを対象に経済効果の分析を行った既存の先行研究についても、文献調査を実施した。

3.貿易円滑化の経済効果分析に用いるデータセットの作成

2.の文献調査から、実態の経済データとして表された世界銀行のDoing Businessのデータが最も優れていると言えるが、過去においてDoing Business のデータを基に試算を行った例は少ないことから、本調査研究ではDoing Businessデータを利用した。

Doing Businessのデータは、コンテナ貿易に係るコストであるので、海上コンテナ貿易を対象に、データセットとして、各国別、品目別に貿易取引コストの関税等価率を算出した。なお、算出対象国は、APEC21カ国、その他アジア4カ国(カンボジア、インド、ラオス、ミャンマー)、EU27カ国の計52ヶ国とした。

コンテナ貿易以外のバルカー・タンカー・専用船による海上貿易、陸上貿易、航空貿易は対象から除外するが、世界の貿易量・金額の大半が海上貿易によって占められていることなどから、対象を限定したとしても近似的に全体像をつかむことは可能であると考えられる。

4.貿易円滑化の持つ経済的意義

4-1 貿易円滑化による潜在的効果

(1)貿易円滑化に伴う関税率削減に相当する効果

3.により得られた貿易取引コストの関税等価率は、輸出・輸入とも貿易額に対して数%程度であるが、産業分類によっては5%を超える率を示し、貿易円滑化の潜在的な効果は決して無視できないと言える。また、単純に貿易取引コストを関税等価率に置き換えるだけではなく、貿易円滑化がグローバルな産業・経済活動の効率化に波及していくという効果も見逃すことはできない。この点については、貿易円滑化の対象となる貿易取引コストを労働コスト、資本コストなどに要素分解することで、生産要素のどの部分に貿易円滑化が効いてくるかを明らかにすることができ、効率性・生産性に及ぶインパクトの推計が可能になる。

(2)貿易円滑化の効果経路の細分化

貿易取引コストを要素別に検討するにあたっては、以下のような分析の枠組みを採用した。

貿易取引コストのうち、まず「Documents preparation」に係るコストは、通関業者や物流事業者が顧客に対して手数料として請求する定額・定率のコストとそれ以外の部分とに大別できる。「Custom clearance and technical control」に係るコストは、手続コストと想定することとする。「Ports and terminal handling」に係るコストは、倉庫業、「Inland transportation and handling」に係るコストは、陸上運送業のサービスにほぼ該当すると考えることができるが、各国の産業連関表から、前者についてはSupporting and auxiliary transport activities、後者についてはLand transportを取り上げ、付加価値に占める労働コスト、資本コスト、マージン(粗事業利益=純事業利益+減価償却)、税金に分割した。

以上のような分析の枠組みを基に考えると、貿易円滑化の生産要素に則した経路別の効果としては、以下の点が指摘できる。

「Document preparation」については、貿易円滑化を通じた文書作成手数料の簡素化・引き下げの効果は限定的であり、寧ろ労働市場の環境による影響がより大きいと考えられる。「Custom clearance and technical control」については、貿易円滑化を通じて事務手続きコストが削減されることで総コストを削減できる余地は小さくないと見られる。「Ports and terminal handling」については、貿易円滑化によって投入される労働或いは資本の効率化につながる余地が大きいと考えられる。「Inland transportation and handling」については、国によって影響の経路は異なり、内陸輸送の効率化が、途上国では労働投入の削減を通じて、先進諸国では資本設備利用の効率化を通じて影響を及ぼすといえる。

4-2 今後の検討課題

本調査研究では、世界銀行のDoing Businessのデータを出発点として、貿易円滑化の潜在的な効果を試行的に分析した。方法論的には先行研究にも見られる2段階アプローチを採用したが、Doing Businessのコストデータを基礎に関税等価率の計算と当該コストの構成要素への分解を行った点は新たな試みであったと考える。

本調査研究で採用したデータ利用のあり方については、実態的な個別データに直接依拠していないという意味で限界がある。コストデータも生産要素への分解についても、既存の集積データを参照していることから、それらが実態と乖離しているリスクも否定できない。本調査研究では最後に、こうした限界に伴う今後の課題や、より長期的な検討の方向性として考えられる主要なポイントについて整理している。

(注)本研究調査は、内閣府経済社会総合研究所が(株)三菱総合研究所に委託したものである。

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