男女共同参画推進における政策分析・情報発信の大きな可能性

  • 佐藤 博樹
  • 東京大学大学院情報学環教授
    (内閣府仕事と生活の調和推進官民トップ会議構成員、元・内閣府男女共同参画会議議員)
  • インタビュアー:内閣府男女共同参画局長 岡島 敦子

< 男女共同参画推進と政策分析の経緯・意義 >

佐藤博樹

― 男女共同参画については、内閣府が中心となって関係省庁と連携しながら施策を進めています。また、地方公共団体や、産業界、企業、大学、NPO、NGO等多様な主体との連携も図りながら進めています。その中で、「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識が未だに根強く、様々な社会制度や働き方がこうした意識と表裏一体をなすため、男性は長時間労働で子育てにも関わりにくい一方、女性は出産・育児で6割が仕事をやめているのが現状です。これが、男女の管理職比率の差や賃金の差にもつながっています。

もう一つ、これまで男女共同参画を進めてきた中で「働く女性のための男女共同参画」というイメージが広がってしまったということ。その結果、男女共同参画は社会全体の問題という認識が欠けてしまい、推進力が十分でない側面があります。

こうした状況の中で、男女共同参画を進めていくための政策分析の意義等についてお話しいただければと思います。

(佐藤) まず一般的に、社会的課題の構造を理解するためには、具体的な指標の分析が必要ですし、政策を立案するときには、その政策の有効性を、エビデンスに基づいて根拠づけることが、どのような政策分野でも大事になってきています。

佐藤博樹

どの役所でもエビデンスベースドポリシー(Evidenced Based Policy, EBP)は大事ですが、とりわけ内閣府は、他の省庁と政策の立案・調整を行うという役割を持っており、政治家や各省の政策担当者、国民の理解を得て政策を進める必要があることから、EBPはより重要だと考えられます。

特に、男女共同参画については、国民の意見がかなり分かれている部分もあるため、施策を推進していく上で、「なぜ必要か」ということについて、データに基づいて、国民に発信していくことがより求められると思います。

それともう一点。男女共同参画基本法ができて、もう13年。男女雇用機会均等法もできて、もう20何年。にもかかわらず、女性の管理職比率などをみると女性の社会参加がなかなか進展していないことがわかります。それがなぜなのか、原因を分析することがとりわけ大事です。男女局がワーク・ライフ・バランスの重要性を提起してきたことに関しても、国内・海外のデータ分析を通じて、既存の働き方を前提にしていては女性の活躍の推進が難しいということを明らかにすることによって、働き方を改革しないと女性の活躍の場の拡大が進まないということを提言したわけですから、データに基づいた研究の成果と言えるのではないかと思っています。

< 政策分析における内閣府の役割と官民の役割分担 >

― ありがとうございます。では、内閣府における政策分析に関する人材の確保については如何お考えになられますか。

(佐藤) 内閣府で総合調整なり政策立案をする人自体がそういう政策分析能力を持つことは勿論重要ですが、同時に、社会の現実が急速に変化していく中では、必要な政策も変わっていくわけで、その全てについて深い政策分析を担える人材を確保することはなかなか難しいです。だから、この問題は二つの方向から考える必要があると思います。

一つは、内閣府として、また、男女局として、その分野について適切な政策分析をできる人を可能な範囲で確保する努力をすること。

と同時に、外部の政策研究資源を使える力量を持った人、つまり、そのテーマについてはどんな研究者がいるのか知っていて、研究の質も評価できて、ある政策立案の現場からこういう研究をやって欲しいとか、この研究にはこういう人がいるというネットワークなりを持っている人材を確保することが大事になります。そういう意味では、大学の研究者とは違う能力として、外部の研究資源をオーガナイズできる能力を持った、いわば政策立案のための研究を組織できる能力がある人が、一定量いるというのが大事になってきています。

ただ、内閣府の場合は、各省庁から出向で来ている人も多いため、内閣府が持っている機能はどういうもので、どういう人材が必要かということを、各省庁に対しても発信することも大事になります。

もう一つは、内閣府が確保したい人材が各省庁と違う面があるのなら、どういう人材に来てほしいか、内閣府が求める人材像を明らかにすることも効果的だと思います。政策分析を行うには、データ分析の仕方とか、統計分析の方法とか、あるいは政策分析などに関して、専門的なノウハウを持った人が必要です。しかしながら、日本の行政職の役人には、国際的にみても、そうした人材が少ない現実があります。修士卒の採用や、役所に入った後、海外留学とか国内留学で、あるキャリア段階までに修士号を取得することが、さらに言えば、博士号を持っている人材が確保できるようにしていくことが求められていると思います。とりわけ内閣府は急いで、人材育成を進めなければいけません。

― では、分析の素材としてのデータの整備や利用といった点に関しては、どのようにお考えでしょうか。

(佐藤) 世の中の変化は早いため、EBPと言ったときには、政策立案にかかわる人たちが、そのときの課題に関してデータ分析をやることも大事ですが、同時に、課題に関わる研究が世の中に蓄積されているということが重要です。必要だからやるのではなくて、もう既にいろいろな人が必要だと思って研究をやっていて、その中から良いものを使えるようにすることを考えなければいけません。だから、データを整備し、行政内外でそういうデータにアクセスして政策研究が蓄積されることを支援することを通じて、全体の相乗効果みたいなものを考える必要があるかなというふうに思っています。今、東大の社会科学研究所が運営しているSSJデータアーカイブでは、様々な社会調査データを収集、保管し、研究者にマイクロデータを提供しています。内閣府からは、特に統計法にカバーされていないデータ、委託調査等のデータをデータアーカイブに寄託していただいています。データアーカイブがマイクロデータを収集、保管、提供することによって、従来であれば一つの研究が終わると、もうそのデータは使えなかったものが、若い研究者も含めて政策研究で使えるようになっています。これも、行政と大学の連携のひとつの成果だと思います。

それと、大学院は、今までは研究者養成が中心でしたが、データ分析、政策研究などの人材が行政で一層求められるようになってくると、もちろん研究者になるということもありますが、例えば役所に勤めて、それから大学院に進学しても良いわけですから、政策研究を担う研究者が育っていくことにもつながります。

― 先生がおっしゃるようにしていくと、政策研究の研究者が増え、様々な政策分析が行われるようになり、政策の選択肢が増えてくるのですね。

(佐藤) その通りです。現実というのは複合的で、一つのことだけで解決できるわけはないため、いろんな人が政策研究をやるということが大事なわけです。

例えば今、非正規の人が増えてきて、非正規の人は結婚しにくいと言われます。そのとおりですが、一方で、大企業のホワイトカラーの未婚率も上がっています。そうすると未婚化の原因を考えたときに、非正規の増大の寄与分は、その全部ではないということになります。

― 長時間労働の問題や、周囲からいろいろ言われなくなったとかいろいろあります。

(佐藤) そう、だから実は複合的で、非正規、正規の問題だけを解決すれば未婚化の問題が解決するわけではありません。

女性の管理職があまり増えていないということについても、要因は一つだけではありません。女性の勤続年数が少ないというのは一つの理由で、それに対しては、ワーク・ライフ・バランス支援の取組をしてきたわけです。でも、女性が働き続けようと思うのは、両立支援の施策が充実しているということだけで決まるのではなく、結婚前のキャリアの初期段階での均等の実現が重要で、仕事で充実感を実感できることなど、つまり均等が大事なのです。つまりこれも複合的な要因によるものです。

現実が非常に複雑になってきている中で、見落としがないように目配りするためには、いろいろな研究、政策研究があることが望ましいと思います。

その意味では、男女局として、データアーカイブに寄託しているデータを使った研究論文の中から良質な論文を表彰することなども、政策研究を促進することに効果があるかも知れません。

< 効果的な情報発信の在り方 >

(佐藤) それから、企業におけるワーク・ライフ・バランス推進のためには、男女共同参画なりワーク・ライフ・バランスを進めることが、企業の経営なり人材活用にどういう意味があるかということを発信していくことがとても大事です。

ただ、企業経営者にとっては、自分の会社がどうなるかが大事なわけです。たとえば、女性管理職が多いことが経営面でプラスになることが統計的に有意で、女性管理職の多い企業のすべてがもうかっているわけではないです。だから、ワーク・ライフ・バランス支援や女性の登用が経営にプラスになると広報することは、日本社会全体としては統計的に正しくても、個々の企業経営者にとっては「うそだろう」という話になるわけです。女性の持っている能力を生かすことが、経営にプラスになるかどうかわからないけれども、「女性の活躍の場を拡大しないと損をする可能性が高い」と言う方が正しいわけです。そういう情報の出し方の方が、企業経営者には理解してもらえるのではないでしょうか。つまり、「いまの働き方のままでは女性が活躍できずに損する」「今の働き方では外国人を採れない」「女性に補助的な仕事をさせていては、幾ら優秀な女性でも足踏みしちゃって伸びないよ」とは言えるわけです。

― 個々の企業に対しては、「変わらないと如何に困るか」を中心に情報発信していくということですね。では、社会全体への情報発信には何が求められているでしょうか。

(佐藤) 女性の活躍の推進もダイバーシティの推進も、企業に変わってもらわなければいけないわけですが、制度によってできる部分というのは、すでにかなり取り組んできたと思います。今残っている課題は、職場の風土、職場のマネジメントの部分です。ここをどう変えていくかを考えるときには、男女局がやっているような、広報や意識啓発で社会全体の考え方を変えていくという取組が実はとても大事です。

例えば、男性にとっての男女共同参画の推進を第3次男女共同参画基本計画で取り上げたことは意義のあることで、企業で、女性が活躍しやすいワーク・ライフ・バランスに取り組んでも、他の会社で働く夫の働き方までは変えられません。だから特定の企業が自社の働き方を改革しても、やっぱり限界があるわけです。そういう意味で、社会全体として、男性の、例えば子育てについての考え方、働き方を変えるための啓発はとても大事になってきます。

個々人の生き方やキャリアの選択では、事前に必要な情報を得ることができることがそうした選択ではきわめて大事になると思っています。例えば、女性の場合、子どもが生まれてやめてしまって、再就職しようと思ったらできなかった、初めに分かっていたら続けたのにということがあるわけです。結婚して専業主婦になって、夫が失業するとは思っていなかったとかですね。そういう意味でも、女性だけでなく男性も、色々な情報を持った上で生き方やキャリアを選択できるようにしていく必要があります。

ところが、その情報の提供の仕方が難しいのです。たとえば、派遣で働かなければ派遣法を知らなくて良いですし、子どもを産まなければ育児・介護休業法を知らなくて良いわけです。つまり、どういう働き方とか生き方を選択するかによって、知っていた方が良いことが分かれてくる。そうすると、「これは僕、関係ない」となりがちなため、働き方であればそういう法律などのルールを事前に知っておいた方が良いよということをわかりやすく示すことが大事だと思います。

あと、日本の状況は変わってきているわけですが、まだ海外から見た日本のイメージは昔のままで、これも変えていく必要があります。海外からは、日本人はすべて長時間労働で、会社のためだけにみんな働いていると思われている。今でも7、8割はそうかもしれないけど、変わり始めていることを知ってもらうことも大事です。企業が国際展開していったときに、日本の企業ではどういう働き方をしているのかというイメージは結構大きな影響を持つと思います。

< 今後の課題 >

― 今後の分析のフロンティアについて、お知恵をいただけますでしょうか。

(佐藤) ワーク・ライフ・バランスと男女の均等の両方を結び付けてみていくことが大事だと思っています。例えば、ワーク・ライフ・バランスについては、企業単位で言えばその成果は男女の勤続年数の差が少なくなるという形で現れるはずで、それが一番分かりやすいワーク・ライフ・バランスの実現度です。一方、均等の指標のひとつは女性管理職率です。だから、この両方の視点で企業を評価すると、両方が高いところがワーク・ライフ・バランスと男女の均等が進んだ企業ということになるわけですが、こうした企業が増えているかどうかが、今後の課題です。ちなみにこれは既存の公表データを分析すればわかるもので、過去との比較で進捗状況もわかるはずです。

今までは、大企業では様々な制度が手厚いと言われてきましたが、中小企業には制度はなくてもこうした指標で見ると両立や均等が実現できている企業が結構あるのではないかと思います。両立と均等の片方だけを分析したものはありますが、意外に両方合わせて分析したものはきわめて少ないです。

現在いろいろな表彰がありますが、その対象は制度が主になっています。制度が手厚いところは良い企業というようなことになっていて、そうすると大企業がよく見えてしまう。情報を出して、ワーク・ライフ・バランスと男女の均等の両方が進んでいるところに人が行くようにすると企業も変わることになるでしょう。そのための誘導が情報発信です。法律をどうこうするのではなくて、企業毎の両立と均等の情報が提供されると、学生の企業選択も変わるでしょう。

これは、都道府県単位でやっても良いと思います。賃金構造基本統計調査でやればできますね。女性が活躍していて働き続けられる県とか。

― 様々な情報を出し、その情報に基づき学生や働く人が企業を選択する。その選択の結果、企業も変わらざるを得なくなっていく。良いご示唆をいただきありがとうございます。

(佐藤) あと一点。これからは「介護」です。これも、まさに意識啓発です。今の介護保険制度は、介護しながら働く家族を支援するという発想がきわめて弱いです。デイサービスにしても、10時ごろから4時ごろでしょう。「家族が一日じゅう介護すると大変だから、預かります」という、介護する家族を支援する制度にとどまっています。でも、その人が働いているとしたら仕事と介護の両立が難しいのです。働く家族が介護しているという前提に、介護する働く家族を支援するという仕組みにすべきだと言っていく必要があります。

すぐ法改正ということではなくて、具体的には仕事と介護の両立支援というものをどう考えるかぐらいから始めるというのでも良いと思います。例えば、40歳になると介護保険に入りますが、そのときに、「介護保険には、親御さんも入っているので、親御さんの介護支援のサービスの費用はそこから賄われます。」というようなことも含めて、基本的な情報の提供を行っていくべきではないでしょうか。

― 制度の理解を進めるためにも、情報発信が必要だということですね。その中で、より良い制度にしていくことができると。

政策に関する情報の分析と発信の重要性を多くの具体例と新しい発想からお話しいただき、どうもありがとうございました。

(このインタビューは平成24年1月20日に実施しました。)
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