フィードバックの仕掛けとしての政策分析

  • 田辺 国昭
  • 東京大学公共政策大学院長
    (内閣府本府政策評価有識者懇談会メンバー)
  • インタビュアー:内閣府大臣官房政策評価審議官 幸田徳之

― 本日は、政策評価、政策分析の第一人者であり、内閣府の政策評価有識者懇談会の委員でもいらっしゃいます田辺先生から、政策分析をどのように考えればよいかお話をうかがいます。

< 政策分析は5つのフェイズからなる >

田辺国昭

― まず、実証に基づく政策分析の意義や重要性、効果について、どのようにお考えでしょうか。

(田辺)政策分析というのは、policy analysisという英語を訳したものだと思いますが、そんなに特別なことではない、普通の行政官が立案のプロセスでやっていることだと思います。ただ、それをどのくらい自覚的に行い、かつ、どのくらいの水準で行うかというところが問題になります。

政策分析は大体5つぐらいのフェイズからなっています。課題を見つけるということ、それからその課題にどのぐらいの社会的なニーズがあって、政府が対応すべき問題であるのか否かを的確にとらえるということが第1番目の出発点です。

田辺国昭

2番目は、そのニーズや課題に対してどういう対応をすべきなのかということで、評価のコンテキストで言いますと、ロジックモデルという言葉が使われますけれども、こういう形で介入すれば、こういう成果が出るのではないかという介入とその結果のつながりの論理を頭の中で整理して明らかにしていくというのが2番目の作業です。

3番目は、これを具体的にどう実施するのか、執行体制をどのくらい固めていくのかを頭の中で描くということです。

4番目は、実際に政策を実施してみて、どういう効果がありそうか分析を行うところです。政策分析の中で一番中心になるのは、この社会的なインパクトがどういう形で出るのかを既存のデータを使って、ある一定の形で予測するところです。

最後に、効率性の判断というフェイズがきます。規制で対応するのか、それとも補助金をつけるのか等々、いろいろな政策手段がありますので、費用と効果に関する2つの指標から、その中で、効率性の高い政策手段を選びます。

これらの手順をたどってゆくこと自体は、そんなに特殊な技法や技能を必要とするものではありません。ただ、実証に基づくというところがポイントで、既存のデータ、フレーム、それから既存の研究等を利用して、それをできるだけ確かな推論にもとづき、客観的に数字を出していくというところが、政策分析の実証の最大のポイントであり、かつそこが一番難しい。

特に実際の分析においては、事前に政策分析を行う際にデータがそろっていない場合、あるいは使いづらい場合もあります。不完全なデータの中でどう作業するのかというところが、研究者が行う研究と政策分析という実務志向の分析方法との違いだろうと思います。データを補完するという意味で、経験値を適宜挿入するというような作業も出てくると思われます。

結局、この一連のニーズ、ロジック、執行体制、効果を個別に事前に明らかにしていき、どこで連鎖が切れてうまくいかなかったのかが事後的にわかれば、次の決定において修正をかけることができます。その点では、できるだけこの4つの部分を区別して明らかにしておくことに一つの意義があります。法的に問題がないかのみならず、実際に効果があるかについて議論を深める形で立案することが、今後ますます必要になると思います。

< チェックの積み重ねが政策の知恵になる >

― 意識的に政策分析をちゃんとやっている事例、あるいは取組を強化すべき事例など、具体的な政策分野についてお話しいただければと思います。

(田辺)例えば家電リサイクル法は、きちんとした費用便益分析を行っていたと思います。政策を実施したときに、そこでどういう費用が発生し、どういう効果が出てくるのかというのをロジックとともに効果、費用を金額に直していくという作業を行ったと思います。また、このような影響の客観的な推定ということのみならず、コンサルテーションの側面があり、関係者から意見を聞いて、計算の正しさを確認したり、合意形成をしていくという作業があろうかと思います。

事前の政策評価が義務づけられている規制や租税特別措置など、また義務付けられてはいませんが融資や補助金等に関しても、政策分析は必要になってくると思われます。

今、地方自治体に対するお金の渡し方というのは交付金のような形をとるものが多く、何が効いて、何が効いていないのか、実施した自治体のロジックというのは当たっているのかというところのチェックが全然できていない。政策分析で事前に予想をつけておいて、それを個別に報告させるフィードバックをつけることは、国の政策のマネジメントとしても、間違いなく必要になってくると考えています。

― 内閣府には企画立案、総合調整をやっている部分と、それから自分で執行している部分があります。前者の各府省政策横断的に考えていくに当たっての政策分析の手法や領域について何かお考えはございますか。

(田辺)内閣府は各省横断的な部分を担っていると思いますが、そこに2つありまして、一つは昔の経済企画庁がやっていた経済分析の部分と、もう一つは男女共同参画や少子化等のいろいろな基本計画の中でどういう分析を行うのかという部分があると思います。

前者の、昔の経済企画庁の知的財産を引き継いだところの分析というのは、かなり広がりがあり得ると思います。経済予測のような作業だけでなく、80年代、90年代、それから21世紀に入ってからも、例えば規制の緩和を考えていったときに、それが一国の経済全体として、どのくらいの影響があるのかという数字を出してきた。数字の正確さはともかくとして、経済分析のスキルを使った応用で、改革の全体の方向性を指し示す値や、その影響を明らかにし公表していく力を内閣府は持っていますし、その作業は他省ではやりそうにない気がします。

2番目の基本計画に関してどういうことが必要になるのかというと、政策分析自体は、個別の施策であるとか事業とかいうところは、一定の客観性を持って分析することができますが、基本計画レベルになると、インパクトがどうこうという問題よりも、むしろ全体の体系やロジックがどうなっているのか、その中で各施策、事業が適切に位置づけられているのかというロジックのレベルの問題の方がむしろ重要になってくるのではないかと思います。

― 先生は、内閣府の政策評価の有識者懇談会委員でいらっしゃいますが、政策評価について、こう改善すればいいのではないかといったようなお話をお聞かせいただければと思います。

(田辺)今、総務省が政府全体のものとして作ろうとしているフレームは、事前にロジックモデルをはっきりさせて、それに数値目標を張りつけ、その数値目標が達成できたか否かをチェックするという、事前と事後を組み合わせた形で実績の評価を組み立てていく方法をとろうとしています。それ自体は間違いではないとは思いますが、ただこれはうまく機能する省庁と、うまく機能しない省庁があるのだろうなというのは、予想されるところです。

うまくいかなそうなところは、やはり制度官庁でありまして、事業をやっている省庁に関しては、例えば厚労省にせよ、国交省にせよ、このロジックモデルプラス数値目標で、かなりの部分動くところはあると思いますけれども、内閣府のように基本計画を策定しながらも自分で事業を執行しない部局では、なかなかこのフレームに乗りづらいところはあろうかという気はしています。

ただ、事前のロジックモデルがないところで、事後に評価せよと言っても、結局のところ、うまくいったのか否か自体がわからない。どこが間違っていたかという情報もフィードバックできないということになりますので、このフレームができるだけ動くような形で、各事業官庁と内閣府の役割分担というところを念頭に置きながら、制度設計していくことが必要です。

2番目は、特に内閣府でいろいろな基本計画を持っていますので、その進行管理としての政策評価という形態はあり得ると思っています。もちろん基本計画の中の各年度計画の中で、ここまで達成する予定であるというものは出していると思いますけれども、それを政策評価としても応用するというか、どこが進んでいないのかという点のチェックに使うということはあろうかと思います。

3番目は、やはり政策評価は、基本的にうまくいったということが列記されているような紙であっては、意味がないと思っています。うまくいかないときは、努力の問題というよりも、むしろ状況の変化や当初予定していたこと自体が変わってくることがありますので、どこを修正すればいいのかという情報が上がってくるような評価をお考えいただきたい。また、実績評価は府省の仕事全体を把握できるので、社会や政治家等に対して、このように動かしていって、こうなっていると全体像を見せながら、個々の施策や事業に修正をかけていく上で必要になっていくと考えています。

内閣府にせよ各省にせよ、未曾有の課題に対応せざるを得なくなってきて、標準的なモデルがなくなっています。そのときに絶対に失敗してはいけないということだと、恐らく何もいい案が出てこない。その意味で、特区などはその典型なのかもしれませんけれども、実験を許容する行政文化というのが少しずつ出てきていますし、また出ざるを得ない状況に我が国が置かれていると思います。評価という仕掛けが、実験とその結果の公表手段やフィードバックの仕掛けとして利用する価値が出てくるのかと考えています。

< 課題の発見力、調整力、段取り力、発信する能力 >

― 政策分析なり政策評価のマインドを持って、内閣府のこういう役割を果たしていける人材育成が非常に課題になっておりまして、職員に求められる資質や経験、スキルについて、お聞かせいただければと思います。

(田辺)社会全体の行くべき方向を、決定はしませんけれども、見取り図や具体案を描いていく作業の中で、やはり分析能力は活きてきます。

ただ、ウエイトがどこなのかというのはわかりません。つまりニーズや課題を見つけるところに力点があるのか、それとも客観的に政策を組み立てていくところにあるのか、それともそのインパクトを客観的に分析するところに必要な資質が求められているのか。

課題の発見力に関しては、前の東大総長の言葉を使うと、日本自体が「課題先進国」になってくると、人口推計でも絶望的な数字が出ていましたけれども、そこでどういう政府としての社会問題が出てきて、何をしなければ間に合わないか把握するところは、かなり力を付けていかなければいけない部分だと思っております。

2番目は、調整力です。特に基本計画を動かしていくということは、各省間の調整に委ねられているところが多いので、内閣府が指導する形にしたほうが整合的な計画ができ上がる場合も多いのではないか。各省の計画をただまとめ合わせるというのも1つの手ではありますけれども、それだけにとどまらなくなってくる部分があります。

3番目に、内閣府は事務局となっている会議が多い。となると、段取り力がないと困ると思います。一定のスケジュールの中で結論を得るための会議運営というか、段取りをつけるのは行政官の役割なのではないのかと思います。

4番目として、霞ヶ関の中だけの話ではなく、社会に対して発信する能力は、今後ますます求められる気がします。

そういう能力の中でどれが大事になるのかというのは、内閣府の中にもいろいろな仕事があるので、多様な能力を持った人を中に備えておくべきです。ただ、いろいろな施策を統合するときに、社会がどう動くのかというのと、こうやったら社会経済は動かないというところに関する見通しは必要ですので、経済学に関する基本的な能力を身につけておいた方が、今後の内閣府の専門性を高める一つのばねになると思います。また、オン・ザ・ジョブ・トレーニングの観点から体系的な配置等を考えた方がいいかもしれません。

< 反対する側も賛成する側も共有情報で議論 >

― 最後になりますけれども、政策分析、政策評価について、海外の先進事例、こんな面白いことをやっているとか、日本も採り入れたらいいのではないかとのお話があれば、お聞かせいただければと思います。

(田辺)日本の場合、政策評価や政策分析を考えるとき、組織の内部でやることを前提とした制度構築になっていますけれども、外部評価であるとか、外部の分析を取り入れる仕掛けというのはあり得ると思います。

幾つか例はありますけれども、例えばアメリカ連邦議会についているCBO(議会予算局)という機関は、コスト・ベネフィットを行う専門家の集まりです。もちろん議会についているわけですから、共和党がいて、民主党がいてという、非常に政治的な対立が強いところで分析をせざるを得ないのだと思いますが、そのときに、共和党あるいは民主党が主張する施策、そのどちらがいいかというのは言わないのですけれども、個々の施策にどのくらいのコストが実際にかかりそうなのか、どういう効果がありそうなのかというのを調べて、できるだけ客観的に委員会に対してレポートするという役割は持っています。

それから、OMB(行政管理予算局)というところがあります。これは大統領府の中にあるもので、非常に経済的に影響が大きいというものに関しては、このOMBが独自に分析する場合があります。独自にエコノミストがいて分析するという側面もありますけれども、他方で、大統領の方針に合っているか、政策を一定の方向で整合性を持たせて、客観性を持たせるためのチェック機関として、評価というフレームを使いながら、いろいろ活動しているという感じはあります。

あと外部機関ですとGAO(会計検査院)。その活動の半分以上はほぼプログラム評価で、財務監査は大分ウエイトが小さくなっています。そこでは割と重要なレポートを出しています。基本的には細かいテーマのレポートが多いですが、その中で次の政策のアジェンダにつながるようなものも公表しています。

また、内部評価についても規制影響評価のようなものもありますし、公共事業等の評価のフレームも共有化されています。

イギリスの例ですと、かなり大きな金融制度改革を行った際に、規制影響評価を実施して、1次案、2次案についてコンサルティングをかけながらうまくまとめてゆきました。

やはり大きなことを動かすときに、政治的な合意形成の中にどういう情報を入れ込んで、共有化できる情報はこれだというところを確定させつつ議論していくというスタンスは、反対する側も賛成する側も共有しているので、客観性を確保した情報をもとに政策を決め動かしていく仕掛けになっているのではないかと思います。

― 本日は有意義なお話をどうもありがとうございました。

(このインタビューは平成24年2月1日に実施しました。)
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