日本経済の中長期的発展に向けて取り組むべきこと

  • 岩田 一政
  • 日本経済研究センター理事長
  • 聞き手:大臣官房審議官(経済社会システム担当) 豊田 欣吾

経済財政諮問会議の下に置かれている「選択する未来」委員会では、経済財政諮問会議で取り組む戦略的課題について、その裏付けとなる中長期・マクロ的観点からの分析、考え方を提示するとともに、今後の長期的な変化を見通した議論を深め、様々な分野横断的な問題を発掘し、その対応の方向性を明らかにすべく、検討を続けています。

同委員会における議論の中間整理1に関し、同委員会会長代理で成長・発展ワーキング・グループ主査の岩田一政 日本経済研究センター理事長にお話を伺いました。

「選択する未来」委員会中間整理のメッセージ

日本経済の中長期的発展に向けて取り組むべきこと イメージ01

— 「選択する未来」委員会では、人口減少などの構造変化を見据え、2020年頃を節目としつつ半世紀先までを展望しながら、目指すべき未来像実現に向けた対応の方向性について御議論いただいてきました。こうした長期のビジョンづくりについて、日本経済研究センターやOECDでも同様の検討をされているようですが、現時点でこのような長期展望作業を行うことの意義について、お考えをお聞かせください。

(岩田) 日本経済研究センターでは、「2050年への構想 グローバル長期予測と日本の3つの未来」いう報告書をまとめました2。その問題意識は、日本経済が直面している基本的な問題を考えますと、一つ目には、人口減少、少子高齢化が極めて早いスピードで進展していくことがあります。人口問題は、10年、20年の中期的なスパンで物事を考えても間に合わない話で、どうしても50年くらいの時間的な視野を持って議論することが必要です。二つ目は財政の問題です。社会保障制度の抜本的な改革を考える場合、例えば公的年金の改革一つとっても20年、30年はかかります。イタリアも改革を行ったのですが、やはり30年ぐらいかかっています。ですから、本当の社会保障制度の改革をするには、長い視野で考えないと問題が解決しません。三つ目はエネルギーの問題です。特に東日本大震災後、エネルギーの選択という問題が生じていますが、これも10年、20年では時間的視野が足らず、少なくとも2050年ぐらいまでを見通した上でないと、エネルギー問題に対する合理的あるいは整合的な取組ができないと思います。

このような問題意識があって、当センターでは2050年の日本と世界はどうなっているかを展望し、どういう対応が考えられるのかを検討しました。日本経済研究センターは、日本経済が直面する基本問題を、産業界と学界と官界の三つの知恵を集めて議論する場にしたいということで設立されました。その精神に戻って考えると、日本は、長期的な視野に立って解決策を考えなければならない三つの大きな問題に直面しており、長期的な展望に立って考えることが必要だということです。

OECDでも、その発足から既に50年程度経ちまして、そこでもう一度今後の半世紀を展望してみようということで、同様の問題意識で長期展望を議論しています3。1月下旬にOECDのセミナーに出席いたしましたが、多くの参加者の問題意識がうまくかみ合っていて、非常に有益なものでした。

アベノミクスの第三の矢でも、長い時間的な視野で考えて抜本的な解決策を考えなければなりません。そういう意味で、「選択する未来」委員会が設置されたことは非常に喜ばしく、歓迎すべきことだと思っています。

— 「選択する未来」委員会の中間整理では、「現状のまま何もしない場合、極めて厳しく困難な未来が待ち受けている。しかし、制度、政策、人々の意識が速やかに変わるならば、未来は変えることができる」というメッセージが打ち出されています。未来を変えていくために、あるいは制度、政策、人々の意識を変えていくために、まずは何に取り組んでいくべきでしょうか。

(岩田) とりわけ東日本大震災が発生してからずっと考えていることですが、日本は明治維新で大きな開国を経験しました。第二次大戦後も、明治維新とは違った意味ですが、経済社会が抜本的に変わるような開国の経験をしました。現在、日本は三回目の開国を迫られているのですが、それに対する心の備えが極めて希薄です。

経済社会が極めて速いスピードでグローバル化していますし、最近出た”The Second Machine Age”4という本でも示されているとおり、情報技術の革新によって大きな変革が起こりつつあります。こうした大きな潮流の中で、日本はどのように第三の開国を実現したらよいのか迫られていますが、対応が極めて遅れています。例えば、TPPについても、むしろ農業の改革を進め、日本がリーダーシップをとって開国を成し遂げていくべきだと思いますが、そういうところでの危機感や切迫感が乏しいのではないかと思います。

「人口急減・超高齢社会」に対する危機意識と対応の在り方

— 中長期の成長・発展の在り方を展望するに当たっては、人口減少とその経済社会に与える影響を考慮に入れることが極めて重要です。「選択する未来」委員会では、日本の経済社会が現状のまま推移した場合、人口急減と超高齢化は回避できず、その結果、日本経済全体でプラス成長を続けることが困難になるおそれ、人口オーナスと縮小スパイラルによって国民生活の質や水準も低下するおそれなどが指摘されています。このため、「50年後に1億人程度の安定した人口構成を保持することを目指すべき」と指摘されておりますが、人口が急減した場合に日本経済に与える影響、1億人程度の人口規模を維持することの重要性、そのためにとるべき対応策などについて、お考えをお聞かせください。

(岩田) 日本経済研究センターでも、人口の急減に対して何らか歯止めを置くべき、日本は人口の規模についても国家目標を持つべきという提案をしてきました。「選択する未来」委員会でも1億人程度の安定した人口構成を保持すべきいうメッセージを明確に出されたことは非常に望ましいことであり、日本経済が本当に維持可能な経済社会を構築する上で最初の前提条件になると考えています。

日本では、単に人口が減るだけではなくて、働く人たち、若い人たちの比率がどんどん落ちていくことになります。そうすると、財政の維持可能性とも密接に関連しますが、現在の社会保障制度を前提としますと、おそらく維持することができなくなってきます。それから、経済の縮小です。日本のマーケットはこれから小さくなっていくと考えると、企業は国内で投資や雇用を増やすよりは、むしろ海外で投資や雇用を増やそうとします。そうすると、どんどん縮小均衡の方向に経済活動全体が流れてしまいます。

そのために何をすべきかですが、日本経済研究センターでは、現在の合計特殊出生率1.4を1.8まで高め、足りない部分は外国から働き手に来ていただくというシナリオを提案しました。ただ、出生率を上げるのは決して容易ではありません。当センターの実証分析によれば、出生率を1.4から1.8まで上げるには、子どもを育てるための費用に8兆円、つまり消費税3%引上げによる国民負担増と同等の費用がかかります。仮に出生率を2.1まで引き上げるとすると、その倍です。そこで、具体的にどのくらいのコストをかけて、どういう政策を打つべきかを議論することが必要になってきます。

「選択する未来」委員会の議論では、希望出生率が1.8で、再生産人口維持出生率が2.1だと言われています。しかし、現実に子どもは何人いることが望ましいかと聞くと、基本的には2人なのです。実際にはこれだけ子どもが産めないことについては、私は経済的な理由が大きく作用していると思います。

青森県で、結婚相手の男性の年収はいくらが望ましいか女性に聞いたところ、400万円は必要だという答えがありました。これは、単に利己的な理由でそう言っているのではなく、子どもをちゃんと大学まで入れたい、それも1人ではなくて2人ということを考えれば、400万円でもむしろ足りないくらいです。しかし、実際、青森県で400万円以上の年収がある若い男性は非常に少ない。その意味では、長期間の経済の停滞によって若い人の非正規就業者比率が高まったりしたことが、出生率を下げる一つの経済的な要因になっているのではないかと思います。

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経済成長を持続させていくことの必要性と対応の在り方

— 仮に人口急減・超高齢社会を回避できたとしても、当面、人口減少と高齢化が進むことは避けられません。人口減少と高齢化が進む中で経済全体の成長を求めなくても、一人ひとりの豊かさが維持されて幸せを感じられる社会であれば、それでよいという考え方もあり得ます。ただ、先ほど、マーケットが縮小している国に誰も投資をしないという話もありましたように、マクロの経済成長を持続させていくことが必要だという考え方もあると思いますが、その辺りについてお考えをお聞かせください。

(岩田) ジョセフ・スティグリッツやアマルティア・センが、フランス政府の下で、well-beingについて報告書をまとめたことがあります。その後OECDでも、well-beingを測る指標などについて検討が進められていますように、GDPだけで豊かさを測ることはできません。しかし、豊かさを議論する場合にGDPを全く無視してよいかというと、決してそうではありません。スティグリッツらの報告書も丹念に読みますと、実質GDP成長率だけ議論するのはあまり意味がなく、重要なことは一人当たりの実質消費が増えていくかどうかだとしています。日本では、実質GDP成長率でいろいろ物事を考え、何パーセントが必要だとか言いがちですが、個人にとっては実質消費、つまりより豊かな財・サービスを享受できることの方がより重要だと思います。

日本経済研究センターの標準シナリオでは2050年まで実質成長率がほぼゼロとしていますが、その場合、少子高齢化で社会保障費の負担などが増えるため、公的負担が相当上がってしまいます。今、足下では対国民所得比の公的負担が38%ですが、当センターでは55%まで上がらざるを得ないと予測しています。そうすると、実質GDP成長率がゼロでも、一人当たりの実質消費伸び率はマイナスになってしまいます。ゼロ成長でよいという意見もあるのですが、それでは消費生活がずっと貧しくなるという問題があるだろうと思います。私は一人当たりの実質消費が少しずつでも改善するような社会が望ましいと思います。

また、well-beingについては、客観的なデータだけではなく、重要なのは生きがいや希望ではないかと思います。戦後の日本もそれほど豊かではありませんでしたが、いずれ必ずアメリカやヨーロッパの生活水準まで豊かになれるという希望と期待があり、気持ちの上では非常に明るかったのではないかと私自身振り返っています。今は一人当たりの消費水準は相当高いところに来ましたが、先行きに関しては希望が持てない社会になっていることが、一番大きな問題だと思います。

— そうしますと、一人当たり実質消費を規定する公的負担が今後どうなるかが非常に大きく、今後、経済を見る上での財政の重要性がますます大きくなっていくということですね。また、経済成長を持続させ、一人当たり実質消費を伸ばしていくため、どのようなことに重点的に取り組んでいくべきか、お考えをお聞かせください。

(岩田) 経済の先行きを見ますと、労働力は増加率が既にマイナスになっており、仮に出生率の向上について努力をしない、外国からの働き手を増やすこともしないということであれば、今後も0.5%から1%くらいの幅で減少していきます。資本投入については、まだ若干プラスだという見方と、もう既にマイナスになっているという見方の二つがあります。私はどちらかと言うと後者の見方ですが、先行きを見ても恐らくマイナスになるので、経済成長を維持するには全要素生産性を高めなければなりません。

全要素生産性を高めるには、基本的には二つの柱があります。一つはもちろんイノベーションで、もう一つは構造改革です。私は、この両者は相互補完的だと考えており、片方だけではなく両方とも積極的に実施することで、初めて全要素生産性が高まっていくと思います。その時に考慮すべきことは、どういうイノベーションの中身を想定するのか、将来の日本の産業構造がどういう方向に変わっていくかということです。つまり、イノベーションといってもどういうタイプのものが望まれていて、それは産業構造ではどういうところに大きな変化が生じるものなのかが鍵だと思うのです。「選択する未来」委員会の成長・発展ワーキング・グループでも、2名の女性起業家と2名の男性起業家がいらっしゃいますが、私は、既存の大企業から新しい産業を引っ張っていくようなものが生まれるのではなく、どちらかと言えば大学発のベンチャーが育っていくのではないかと考えています。これには、先ほども少し言いましたが、経済が、機械が人間の肉体労働を置き換える”first machine age”から、頭脳労働を置き換える”second machine age”に変わってきていることにあると思います。

ドイツでは”Industry 4.0”という取組を行っています。これは、産業革命を細かく分類すると、現在は4回目の革命に位置付けられるという考え方です。その中身を見ていくと、ドイツは日本と似ていて製造業が強いのですけれども、製造業を丸ごと情報経済化する、つまり情報技術を主軸として製造業全体をリパッケージし、生産の現場から消費者までを一つの完結したネットワークと捉え、何から何まですべて見直すというものです。この中で、グローバルバリューチェーンやサプライチェーンの在り方も抜本的に見直すという大きな変化が起こってくるだろうと思います。

そういう大きな変化に対し、日本は立ち遅れていると思えてなりません。シュンペーターの言葉によれば、イノベーションは新結合(new combinations)で、科学的な発見や発明ももちろん必要なのですが、それだけでは足りず、それを技術として確立してマーケットに出せるようなビジネスモデル、さらにファイナンスも必要です。これら4つの要素をうまく組み合わせることで、はじめて日本はこの第四次革命にキャッチアップしていけるのではないかと思います。

それから構造改革について言えば、基本的には第三の開国、つまりグローバライゼーションをどう受け止めるかにあると思います。日本では、何かしようとしたときにどうしても世界的な標準から一歩遅れたところで議論が行われ、そこから進まないところが大きな問題だと思います。

— イノベーションと構造改革については、イノベーションのためには構造改革が必要で、また、構造改革をすることでイノベーションが推進されるという関係があると思います。成長・発展ワーキング・グループの中で、「多様性」とか「つながり」というキーワードが出てきましたが、イノベーションを推進する上でも多様な人がつながっていく、構造改革も多様な人たちがつながるような形のものが重要ではないかという議論もありました。

(岩田) ハーバード大学にメリッツ(Marc Melitz)という貿易理論の先生がいらっしゃって、TPPなどの取決めが経済に与えるインパクトは非常に大きいのではないかという議論をされています。つまり、直接の輸出企業ではなくても、サプライチェーンやバリューチェーンで輸出企業に関連し、間接的に貿易に携わるような企業の数は相当多い。そういう企業、これまでグローバルなマーケットに関心がなかった企業でも、よりオープンなところに出ていくことを考えると、経済に与えるインパクトが非常に大きくなる可能性があるわけです。

それから、私はオープンイノベーションがキーワードだと思っています。これまでも大学と産業界が連携してイノベーションに取り組んでいますが、そのパフォーマンスは海外と比べると相当見劣りします。ちなみに、2000年代初め頃にコンファレンスで韓国に行ったことがありますが、その時にソウル大学の先生が言っていたことが非常に印象的で、「特に2000年代に入ってから韓国の大学は変わりました。この前も工学部の先生がベンチャーを立ち上げ、50億ウォンを寄附しました。それが今ファッションなのです」とおっしゃったのです。アメリカではむしろ普通のことだと思いますが、日本では、大学の研究者でありながら自分でベンチャーを立ち上げて多額の寄附をするようなことはまだ起こっていません。

今回の「選択する未来」委員会の成長・発展ワーキング・グループでも、大学自体がベンチャーの意識を持たない限りは無理だという意見がありましたが、私もそのように思います。もちろんすべての大学がそうなるべきだとは思いませんが、そういう大学がいくつか生まれてくるということが望ましいと思います。

— 成長・発展ワーキング・グループでは、いわゆるブランディングやマーケティングも非常に重要だという指摘がありました。ブランディングやマーケティングもイノベーションの一つの形態ではないかと思いますが、そういうものも含めて様々な形態のイノベーションを起こしていくことが重要ではないでしょうか。

(岩田) 先ほどお話した”new combinations”で言うと、ビジネスモデルがそれに当たります。ブランディングですとか、最終消費者とのインタラクションの中でその需要に応えていくことでマーケットを拡大していくといったことも、ビジネスモデルの一つの在り方だと思います。

— 今後を見据えると、先ほど出てきた人口動態の話以外にも、長期的な観点から見て構造変化が起こってくるだろうと思います。例えば、グローバル化が更に進み、新興国がより台頭してくると考えられますが、その中で日本はどうやって競争力を維持していくのか。また、日本の経常収支が、基調として赤字体質になっていく可能性もあります。そうなると財政との「双子の赤字」になるわけですが、そこで日本経済は成長し続けられるのかが問題です。さらに、デジタル・ディバイドなど、情報化が進むことによって生じる問題も考えられます。これらについてのお考えをお聞かせください。

(岩田) 経常収支はこのところ数か月間続けて赤字になったことがありました。その背景には貿易収支の赤字がありますが、中長期的な視点に立つ場合には、国内の貯蓄と投資のバランスが重要です。家計の貯蓄率は1%程度まで落ちてきていて、先行きもマイナス幅が膨らんでいくことは避け難いと思います。つまり、高齢化が進めば退職世代が増え、貯蓄率がマイナスの世帯が増えることになりますので、構造的な流れとしてこれを止めることはできません。しかしそうなると、日本は財政赤字が大きいですので、「双子の赤字」を抱えたままでうまく経済が回っていくのかという問題が生じます。

アメリカやイギリスではずいぶん長い間経常収支が赤字で、「双子の赤字」を切り抜けてきましたが、これは国際的な金融仲介を展開することで、経常収支が赤字であっても所得収支では黒字を維持し拡大することでマネジメントしてきたのだと思います。ただ、日本の場合には財政の赤字幅がかなり大きいので、経常収支が赤字になりますと、国内投資家がほぼ吸収してきた国債をどうしても外国の投資家に買ってもらわなければならなくなります。外国の投資家は国内の投資家より敏感にリスク評価に反応して行動するところがありますので、これまでのように国債価格がずっと安定したままでいられるのかどうかという問題があります。

経常収支の赤字がもたらす危険性を避けるためには、二つのことが必要です。一つは、日本の金融サービスをよりグローバル化し、国際的な金融仲介活動を活発化させることです。もう一つは、財政について、今は基礎収支の黒字化という目標しか掲げていませんが、中長期的に債務と名目GDPの比率を一定の範囲内に抑えるという目標も重要です。

競争力については、先ほど申し上げたイノベーションと構造改革をどのくらい大胆に進められるか、つまりドイツでいうような第四次産業革命を日本で起こすことができるのか、あるいは”second machine age”において必要なイノベーションを積極的に進めていくことができるかにかかっていると思います。

情報化が進むことによって生じ得る問題についてですが、”The Second Machine Age”の二人の著者へのインタビューの中で、情報技術の発達で機械が肉体労働も頭脳労働もやってくれるようになると、その時に人間は何をしたらよいのかという質問がありました。私は、人間としてより価値があると思われることに自分のエネルギーを注ぐ、人間がより人間らしくなる社会になっていくのではないかと思います。人間としてすることがなくなるので技術革新は止めてしまえとか機械は壊せとかいうことではなく、人間が人間らしく生きられるような経済社会をつくるための技術的な基礎ができたと受け止めるべきだと思うのです。

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— 今後の日本経済については、エネルギー制約の与える影響も大きいのではないでしょうか。

(岩田) エネルギー制約はなかなか大きい問題ですが、人口が例えば1億人になったとしても、現在に比べて2、3割少なく、その分エネルギー需要も減ることになります。また、スマートメーターなど、情報技術の発達と関連して省エネ技術も進んでいくことがあります。家計でも太陽光発電と燃料電池を活用すれば、電力会社から電気を買わなくてもエネルギー収支が合うようになると言われています。ほかにも、バイオテクノロジーで水素を作るなど技術的ブレークスルーが進むことで、思ったより新エネが進む可能性があります。足下では日本のエネルギー制約は非常に深刻なのですが、長期的にはいろいろな可能性があるのではないかと思います。

ヨーロッパでは常にヨーロッパ全体でエネルギーバランスを考え、その中で自分の国はどうかということを確かめながら政策を論じていますが、日本ではアジア全体という発想が非常に弱いように思います。アジア地域全体でエネルギーバランスがどうなり、電力バランスがどうなり、エネルギー源構成がどうなるか、そういう視野で物事を考えることで、今考えているよりも大きな可能性が開けていくかもしれません。これは発想の問題ではありますが、何となく過去と同じようにやっていると、あまり希望の持てる先行きが見えてきません。

「選択する未来」委員会で今後取り上げたいテーマ

— 「選択する」未来委員会の中間整理では、そこで取り上げた重点課題への対応策を具体化させていくため、掘り下げた議論を進めていくとされています。年後半の議論において特に掘り下げて議論していきたいテーマについてお聞かせください。

(岩田) 一つは、中長期的に経常収支赤字が膨らむリスクが高いとすれば、それにどう対応するか明確にすべきだと思います。もう一つは、今後10年間での実質GDP成長率が平均2%という政府の目標に関し、こういう施策をやればどの程度全要素生産性が改善するかという分析を丹念に行うことがあります。各国の経験を集めて学んでいくことで、イノベーションについてもう少し詰めた話ができると思います。例えば、フィンランドは教育と情報技術だけでイノベーションを実現してきましたが、そのパフォーマンスを見ると相当よいのです。それから、つながりとか多様性がどの程度全要素生産性に影響するのかについても、もう少し分析的に詰めて考えることが必要だと思います。

— 中間整理では、中長期的な政策枠組みに関する検討も行っていくと言及されています。例えば、以前日本には経済計画がありましたし、内閣府の発足以降も、「構造改革と経済財政の中期展望」や「日本経済の進路と戦略」といった、複数年を見据えた計画的なものがありました。そうした中長期的な政策枠組みの在り方に関して、お考えをお聞かせください。

(岩田)中長期の政策枠組みでは、マクロ経済の見通しを参考資料という位置付けではなく、政府としてこういう姿が望ましいという形で肉付けを行うことが必要ではないでしょうか。ただ、そうするとどうしても政府として望ましい姿だけが出て、現実と乖離があるといった批判や、高い信頼性を持ち得ないという問題があるかもしれません。また、先ほど申し上げた財政赤字と名目GDPの比率の目標についても、中長期の枠組みの中でどのように実現できるのか客観的に示す必要があると思います。なかなか言うは易く、実際に行うには非常に難しい問題だと思いますが。

— 最後に何かコメントがありましたらお願いいたします。

(岩田) 「選択する未来」委員会の成長・発展ワーキング・グループでは、ベンチャーをやっておられる方が4人出席されていました。こうした方がこのような会議に出席されること自体が新しく、非常に印象深いものでした。日本は、変わるときは意外と変わるといいますか、皆さんが納得すればそれなりのスピードで動ける国ではないかと思うのです。その意味ではこのワーキング・グループをやって本当によかったと思います。

— 本日はどうもありがとうございました。年後半もまた御議論を進めていただくことになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(本インタビューは、平成26年5月9日(金)に行いました。)


1 http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/shiryou.html

2 http://www.jcer.or.jp/research/long/detail4723.html

3 詳細については、Economic & Social Research(ESR)第5号 政策の動き「OECD加盟50周年に向けた我が国の取組」を参照

4 著者は、マサチューセッツ工科大学(MIT)のエリック・ブリニョルフソン(Erik Brynjolfsson)氏とアンドリュー・マカフィー(Andrew McAfee)氏。2014年1月発刊

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