人口減少下社会への課題

  • 山重 慎二
  • 一橋大学大学院経済学研究科准教授
  • 聞き手:内閣府政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(総括担当)野村 裕

経済財政諮問会議の下の専門調査会として置かれている「選択する未来」委員会では、経済財政諮問会議で取り組む戦略的課題について、今後の長期的な変化を見通した議論に基づきながら、人口、経済、地域社会などの分野横断的な課題を発掘し、その対応の方向性を明らかにすべく、報告書を作成しました。

同委員会における議論の内容に関し、とくに経済学の観点から人口問題と財政、社会保障制度に関して専門的な分析を行っていらっしゃる山重慎二 一橋大学准教授にお話を伺いました。

「未来への選択」(「選択する未来」委員会報告書)について

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― 政府では現在、アベノミクスが目指す脱デフレ・経済再生の取り組みを進めているわけですが、「選択する未来」委員会は、その先の中長期的な経済社会の姿、とくに50年後の日本の未来像を描き、そのために2020年頃までに取り組むべき課題を中心に検討を進めました。本報告書のキーコンセプトとして「未来」を「人口」に結びつけて描くとしており、50年後の未来を考えるうえで、確率の高い予測として掲げられる「人口」に焦点を当てて検討が進みました。本委員会の検討の過程においては、学術的な専門家というよりは広く社会で活躍をなされている識者にお集まりいただくことで一般的な目線も加えたわかりやすい率直な議論を交わすことを目的としたということがあるなか、人口や財政、社会保障をご専門となさっている山重先生からの率直なご意見をいただきたいと考えています。

(山重)この委員会の議論については、中間報告を含めて拝見しました。委員の顔ぶれ等の趣旨については知りませんでしたが、報告書の内容としては、ここに示された状況がすべて実現できたらいい世界になるだろうという印象をもち、方向性について違和感を抱くことはありませんでした。

ただ、財政を専門に研究している者としては、これらの方向性をどのように政策に落としこむのかという実現に向けたイメージがわきませんでした。2020年までに財源の確保がない中で実現することは非常に難しいというのが率直な感想です。そもそも、1億人程度の人口を定常状態とするというのは高い目標であると個人的にはとらえています。それを目標とする提案ですから、予算をはじめとする様々な制約は念頭に置かずに自由に議論されたということなのでしょう。

一方で、これから日本のかじ取りを行うなかで、1億人程度の人口を定常状態とするということを目標とするならば、外国人労働者や移民を受け入れていく社会経済にしないと本質的解決にならないと考えています。この報告書では、そうした内容についてあまり触れられておらず、日本人で頑張れば何とかなるというイメージを与える部分もあると思います。しかし、世界の潮流を見ても、成長のためには世界中から能力のある人を引っ張ってきてイノベーションを起こすということが大きなパターンになっていると思います。そのような観点からは、大学に勤める者として、留学生が大変貴重な存在になるだろうと考えています。4年間あるいは2年間の高等教育で、能力のある外国の若者を受け入れていくと、留学生活の中で日本の文化やコミュニケーションを学んだ学生が、卒業後も日本で就職し経験を積むことを希望するようになります。こうした外国人の力も積極的に取り込みながら、イノベーションを起こしていくことが重要ではないでしょうか。

― 本報告書の取りまとめにあたっては、シンポジウムを開催するほか、インターネットを使った意見聴取や世論調査、アンケートなどを行いました。御意見の半数は、移民に関するものでしたが、忌避する傾向の意見もあり、丁寧な議論の積み重ねを要すると感じます。

(山重) 政策を進めるにあたって、国民が心地よく感じる政策群に限定してその中で何ができるかを考える場合と、国民が必ずしも賛成していないことにも踏み込み、専門的な議論を踏まえて提案する場合とがあると思います。増税の提案も一例だと思いますが、現在の一人ひとりの国民の声にあまりに耳を傾けすぎると、望ましい状況に行けない局面となってしまうことは少なくないと思います。政策を進めていく中で、国民の考え方が変わることもあると思います。

今後まさに問題が深刻化していく中では、誰かが言わなくてはならないという状況に迫られると考えています。今回の報告書では人口問題に踏み込んだわけですから、もう一歩そこまでの議論があってよかったのではと思います。

少子化政策の在り方について

― 若い人たちの間では9割が家庭を築き2人超の子どもを持ちたいと考えているという出生動向基本調査の結果は過去から変わっていません。人口問題は取り上げ方に注意を要しますが、希望を実現していくという語り口が重要だという議論が委員会ではありました。その上で、報告では少子化対策予算の倍増を提言しています。

(山重) 子育て支援に関しては、希望が叶えられる環境を整えていくという方向性でよいと思います。一つの柱として、子育て支援をしっかりやっていくことは重要です。その出発点は、希望が叶うような環境を整えていくということだと思います。そこはしっかりと国民、特に女性の声に耳を傾けて、何が障害になっているのかということをはっきりさせていくことが大事ですね。ただ、人口が安定するためには、一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均値である出生率は2を越える必要がありますが、その達成はとても難しいと思います。1.8程度の目標であっても、現在の日本人だけで実現することは大変そうです。そう考えると、定常状態に至るためには、もう一つの柱として、やはり移民の人たちにもっと来てもらうことが必要なのではないかと思います。こちらについては、現在の国民の声のみに耳を傾けすぎないで、将来の国民の声にも耳を傾けながら、必要なものは必要と提案していくということが大事だろうと思うのです。

一方で、少子化への対応策の議論を進めるに当たっては、そもそもとして、少子化がどうして起こったのかという議論が不十分ではないかと考えます。これは、専門家の議論が足りないということによるのだと思いますが、少子化がなぜ進んだのかということについては、なんとなく価値観が変わったからだとか、女性の社会進出が進んだからだという話にとどまっていて、科学的な分析に基づく理解が十分でないままに、 人口減少下社会への課題 イメージ03 少子化施策の議論がなされているように思います。少子化の原因について理解を深めることは、国民に政策実施の必要性をアピールする際のロジックの組み立てに重要だと思います。

私は、社会保障の充実が少子化をもたらした大きな一因と考えています。つまり、社会保障が充実して老後の生活を政府が面倒を見るようになり、子どもはかわいいから持ちたいと思うが、もし子どもを持つ機会がなければ、それでもあまり困らないので、それも一つの人生であるという選択が行われる時代になったといえるのです。そして、適齢期に結婚をして子どもを持つという選択が、必ずしも行われなくなってきたと考えられます。しかし、社会保障の充実で子どもを持つことは必要ではないということになると、将来の社会保障の持続可能性が低くなります。つまり、社会保障の充実という政策の副作用が起こっていると言えます。この副作用を取り去るのが子育て支援と考えているのです。

原因を考えることなく、ただ子育て支援をしましょうということになりますと、産めよ増やせよ政策をしているようにも聞こえます。しかし、そうではなく、高齢者の生活保障を社会化したのだから、その副作用を緩和するために、子育ても社会化することでバランスのとれた社会にすることが必要なのだと説明する方が、より強い根拠を持って説得できると思います。

若い人たちが平均的に2人ほどの子どもがほしいと考えているということの希望を叶えることは重要です。そのためには、子どもを育てていくのにおよそどれくらいの支出が必要で、そのうちどれだけ社会全体で支援できるかということを考える必要があるでしょう。十分な支援をしていこうとすれば、諸外国の事例を踏まえると、私は現在の約2倍の10兆円程度の追加支援が必要ではないかと考えています。子育て支援経費は今後約1兆円を追加すると聞いていますが、それではせいぜい20%程度の増加です。この報告書の子育て予算の倍増という提言はよい方向だと思います。

社会保障政策と少子化について

― 社会保障の拡充が少子化の遠因であり、社会保障の拡充の中には内在的に少子化対策が位置づけられていなければならないという考え方は専門家の間で共有化されているのでしょうか。

(山重) 残念ながら、家族や出生行動については、これまで経済学的に研究するという傾向があまりなく、社会学の分野で取り組まれる問題という認識が強かったと思います。もちろん出生行動や少子化に関心のある経済学者の間では、社会保障政策の副作用を緩和するために子育て支援が必要という認識は共有されていますが、幅広いコンセンサスが得られているとは言えません。私も、1973年の福祉元年宣言前後の意識調査を比較し、社会保障が充実した2000年代には「子どもは老後の支え」と答える世帯が大きく減少しており、社会保障の充実により子どもを持つ動機が低下していることや、子ども及び家族向け社会支出と高齢者向け社会支出の割合と出生率を比較し、高齢者向け社会支出がより大きい国ほど出生率が低くなる傾向があることなどを明らかにしてきました*。こうした認識を広げていきたいと考え、学会等を通じて発言をしていますが、一般の方の間で広く理解が及んでいるとは言えないでしょう。

― 社会保障・税一体改革の折にも、年金・医療・介護の3本柱だけではなく、子ども子育てを加えた四分野を柱とするということは、社会保障制度の中に、内在的に少子化対策を位置付けなければならないといったきちんとした議論のもとになされているというよりは、7000万円程度の予算を補完してつけたという取組にとどまっている印象ということでしょうか。

(山重)はい、そこが残念なところです。

先ほど、子育て支援政策で10兆円ほど追加するという案を示しましたが、実は10兆円という額も高齢者向けの社会支出の額と比べてみるとかなり小さい額になります。いかに日本の社会保障が高齢者向けとなっているかということがわかるでしょう。今回拡大目標としている倍増の場合でも、対GDPで2%程度と他の先進国の予算と比べると少ない状況です。

共働きで子どもを育てられるようになることが、若い人たちの希望を叶えることにもつながります。そのためには保育施設の整備が重要になります。例えば、スウェーデンでは保育所の利用率が大変高く、出生率も女性の労働参加も高いのですが、このように対応するには大変お金がかかります。子ども子育て新システムではニーズ調査を行うことになっており、これは大変良い方向と考えます。見込みも徐々に変化しますので、定常的にニーズ調査は行うべきでしょう。ただ、現在の追加予算では、現時点のニーズも満たせないのではないでしょうか。

― 先生は、子ども・子育て支援新制度を巡る議論の際、基礎自治体の役割ばかりを強調することに懸念を示されていたと思います。

(山重)子育て支援施策の多くは、基礎自治体が担うことになるでしょう。しかし、国の方の追加予算が7000億円とか1兆円といった今の潜在的需要さえも満たせないような水準なら、お金は出せないので基礎自治体で頑張ってやってくれといったような対応になってしまうわけです。そうなると基礎自治体では、何らかの形で保育施設の整備を抑制するという動きが出てきてしまうと考えられます。したがって、国として、自治体がしっかり子育て支援に取り組めるような環境をきちんと整備していくことが、子ども・子育て支援新制度という良い制度を着実に育てていくために一番重要ではないかと考えています。


* 「家族と社会の経済分析:日本社会の変容と政策的対応」2013年 東京大学出版会


少子化政策と政府の関わり

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― 保育サービスの提供主体として自治体の話が上がりましたが、国・自治体に加えて民間セクターの役割についてどう考えていらっしゃいますか。たとえば、規制改革では事業者の資格の障壁が下がっていると考えられます。しかし、まだまだ公的に提供されているサービスが多いですし、民間参入とは言っても、社会福祉法人が主であり、株式会社やNPOが入ってくる例などはほとんどない状態です。もっと新しい主体の民間法人が入ってくることで、おそらくはサービスの向上や多様化といったものも期待できるのではないでしょうか。

(山重) サービス提供の面と財源確保の論点で分ける必要があります。保育施設の公民比較を行ったこともありますが、ご指摘のように、サービス提供については、これまで以上に民間による効率的な提供が進むようにすべきだと考えます。一方、保育費に関しては、子育て支援のための補助を、国が十分提供することが重要と考えています。いくら民間が効率的にサービスを提供したからといっても、質の高い保育のためには、それなりに高い保育費が必要になります。できるだけ安くというのはよいのですが、質の低い保育サービスが提供されるようになったり、自己負担率が100%に近くなったりすると、なかなか働く女性の子育て支援という結果につながらないと思うのです。このため適正な保育サービスを適正な保育料負担で利用できるように、国がしっかり財源確保をしておくということが必要なのだと思います。

こうした補助を含めた子育て支援政策が海外でなぜできたかということなのですが、これは女性の労働権を保障することの重要性が広く認知されていたからだと考えています。子どもを生み育てる女性が働く権利を、国はきちんと保障しなければならないということです。子どもを生み育てる女性が働きたいと思っても、保育所を利用できないとすれば、結局のところ、実質的に働けないという状況に陥ってしまいます。子どもを持つ女性にも働く権利が認められていると考えるならば、それは労働権の保障という観点から問題だということです。そこで、子育てをしながら働きたいという女性の労働権の保障のために、適正な保育サービスを、希望する方に提供するということが必要になり、そのために保育所の大幅な拡充が行われたということでしょう。

― つまり、基本的権利の保障が根底にあり、別に少子化が問題になって対応したということではないということですね。

(山重)少子化への対応と基本的人権の保障という2つの観点から、保育所の拡充が行われたのではないかと思います。ただ、子ども持つ女性も働くことができるということを第一に尊重し、それを前提にどのような仕組みを作っていけばいいのかを考えるという思考回路が、海外の先進国では色濃くあるように感じています。

―女性の労働や働く権利といったものは、今や日本社会に深く根ざしていると思います。また、若い人たちはずいぶん考え方も変わってきているという気もしますので、やればできるということでしょうか。

(山重)日本でも、このような状況をもたらすには、女性がもっと声を上げる必要があると思います。女性の閣僚の比率を上げて政策に女性の声を反映するということも重要でしょうし、女性の声が弱いなら、女性の労働権の保障を男性も代弁して主張すべきです。社会の仕組みや実態が変わっていくと、人々の考え方も少しずつ変化して、政治への反映も進むということはこれから起っても全然不思議はないと思います。

― 80年代後半からの少子化の深刻化の背景として、男女雇用機会均等法の施行の影響が指摘されています。均等法時代の雰囲気を団塊ジュニア世代が強く被ったことが、同世代の未婚、晩婚、少産に影響しているという指摘です。

(山重) 私は、男女共同参画で女性の社会進出を進めるというのは素晴らしい政策であると考えます。しかし、これについても政策の副作用があったと考えられます。つまり女性の社会進出が推奨されたのですが、同時に子どもをあきらめなくてはならない状況が生まれた。本当は、育児休業取得後も安心して働けるように、保育施設の整備等を含めた子育て支援政策を行うことでこうした副作用を防ぐことができたのですが、それを十分に行わなわなかったのは政策の失敗といえます。政策には副作用があるという認識が重要で、副作用を緩和する方法を同時に政策的に考えていく必要があります。確かにこれまで副作用の緩和に取り組まなかったことは問題だと思いますが、今は、それに気づいて少しずつ取り組もうとしているのではないかと思います。

海外の多くの国では、女性の労働参加率も出生率もともに高い水準となっています。これは、意図してかどうかはわかりませんが、女性の社会進出の副作用を緩和するような政策も一緒に取り組んだからではないでしょうか。

団塊ジュニアの方々が均等法の影響を受けたという気持ちもよくわかるのですけれども、問題はその均等法により男女共同参画を推進したことではなくて、その副作用に対応する施策を十分行わなかったことだったということを理解したうえで、これからどうすべきかということを議論していくのがいいと思います。

― 高齢者向けの社会保障を確保することも、女性が社会進出をすることにも異論はないと思います。しかし、こうした政策の重要性が高いほど、副作用に気が付かず影響が大きくなる可能性がありますね。ただ、当時には逆戻りできないので、今からどのように政策体系を整えるかが重要だと認識されました。

(山重)そうですね。さらに言えば、子育て施策、特に保育施設を充実することは、効果的な成長戦略であることに気づくことも重要だと思います。まず、ミュルダールが「消費の社会化」と表現したように、増税の税収の一部を保育サービスの拡充に使えば家計の消費は下がりますが保育サービスへの公的支出が増えて一国の総支出は増加します。さらに、女性が社会で働くことで家事等の場合はカウントされなかった付加価値が生み出され、家事サービスへの新たな需要も生まれるでしょう。また、税収や社会保険の拠出も増大し、財政的にもプラスになると考えられます。もちろん、将来的に子どもが増えることでのリターンも大きいと考えられます。保育施設の拡充は、需要と供給を大きく刺戟する効果的な成長戦略と考えられるのです。

― 本日はどうもありがとうございました。

(本インタビューは、平成26年11月20日(木)に行いました。)

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