欧州経済の現状と課題

  • 伊藤 さゆり
  • ニッセイ基礎研究所上席研究員
  • 聞き手:内閣府大臣官房審議官(経済財政運営担当)中村昭裕

リーマンショック後の世界同時不況と欧州債務危機を経て、欧州においてはデフレや長期停滞のリスクが懸念されています。そこで、欧州経済を様々な視点からウォッチされている伊藤さゆりさん(ニッセイ基礎研究所上席研究員)に、お話を伺いました。

欧州経済の現状と見通し

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― 欧州経済の動向については、OECDやIMFといった国際機関も非常に慎重な見方をしています。OECDの会議でも大きな関心の一つが、「欧州が日本に続いて、長期的な停滞(Secular Stagnation)に陥るのではないか」ということでした。こうした欧州経済の現状と見通しについて、どのように評価されていますか。

欧州の経済状況については、方向、水準、スピードの各面で見ていく必要があると考えています。方向については、南欧は昨年回復してまいりましたが、大国は元気がない状態でした。イタリアは成長率を引き下げ、フランスも横ばい、ドイツも期待よりは成長率が鈍化しています。これらを総じてユーロ圏全体の経済水準は危機前のピークまで戻っておらず、その水準に戻るのに十分なスピードが得られていないといえるでしょう。

需要が大きく減少し、潜在需要が落ち込んでいることからデフレに陥るリスクがあるとみられています。しかし、政策当局の意識も変化し、従来の政策を転換する動きやユーロ安、原油安等がユーロ圏の経済に有利に働くことから、2015年以降の経済成長については緩やかに回復傾向になると考えています。ただ、以前の水準へすぐに回復できるほどの加速ではなく、あくまで緩やかなものとなるでしょう。

― ユーロ圏の消費者物価の上昇率は総合でみてマイナスになるなど、デフレのリスクも議論がなされています。ヨーロッパの物価やデフレの状況について、それがどのぐらい深刻なものなのか、また、かつての日本の経験などと比べて類似点があるのでしょうか。

ユーロ圏のデフレリスクについては、しばしば日本化、あるいは日本型デフレのリスクというキーワードが用いられることがあるのですが、私自身はユーロ圏の国ごとの状況の違いを非常に強く感じております。財政危機というものに見舞われた南ヨーロッパの国々は潜在成長率がマイナスという状況が長引いており、ある意味では日本をはるかに超えて深刻な痛みを負っていると思います。一方で、ひとり勝ちと言われてきたドイツは、世界金融危機の後、潜在成長率はむしろ加速しているような状況で、足元で若干の需要不足を抱えてはいますが、いわゆるデフレが懸念される状態に全くないと考えられます。このように、単一通貨を共有する国々の中でこれだけの格差があって、その格差を是正することがこれまでのところ全くできておらず、格差を拡大する方向になってしまっているのが、ユーロ圏にとって一番大きな問題なのではないかと思っています。

欧州中央銀行(ECB)の金融政策の評価

物価上昇率の低下を受けて、1月22日のECBの政策理事会においては、国債の買取りを含む資産買い取りプログラムの拡大が決定され、これにより、ECBも量的緩和政策に乗り出すことになりました。今回のECBの決定が持つ意味合いとその効果については、米国や日本の比較も含めて、どのように考えますか。

ユーロ圏では、なぜ量的緩和に踏み込むタイミングが遅くなったのかがポイントだと思います。1つには、ユーロ圏が財政の主権が分散している形の単一通貨圏であるがゆえのさまざまな困難があったということ、もう1つには、アメリカとは異なり、ユーロ圏は銀行の比重がかなり高い金融システムとなっていることが原因であったと思います。その結果として、ECBはこれまで非伝統的な政策手段としては、国債等の買入れではなく、銀行に対して長期資金を供給することをメインのルートとして活用してきたのです。

しかし、2014年を振り返ってみると期待ほどには成長は加速せず、需要不足の問題が持続する中でエネルギー価格の低下等もあって、一段とインフレ期待が下振れてきて、デフレスパイラルが非常に心配される状況になった。そこに実力に見合わないユーロ高がさらに拍車をかけることとなったのです。中央銀行として積極的に行える銀行への資金供給という政策は、あくまでも銀行の資金需要があってこそ実現するものだったので、それでは現在の状況に対応できず、資産の買い入れを開始したということです。ただ、これも当初は、できれば民間の資産で資金供給を行っていきたいという思いがあったわけですけれども、残念ながら、社債発行やABS等の民間の市場の規模が限られている中で、その効果は限られてしまい、結果としては中央銀行自らが国債の買い入れに踏み込まざるを得なかったという側面があったのだろうと思います。

市場側は、ユーロ圏の経済状況がこれだけ深刻な状況でありながら金融緩和が十分ではないのを非常に不安視していましたので、今回のECBの決定は基本的に高く評価されてユーロ相場がかなり調整されました。このことは、恐らくユーロ圏経済の全体的な下支えにはなると思います。ただ、1点注意しなければいけないのは、経済状況や金融規制の厳しさの中で、銀行が貸出に積極的になれない状況が続いているため、本来、金融緩和の恩恵が最も届かなければいけない南ヨーロッパ、その中心的な担い手である零細企業等に届きにくいということがあります。また、ユーロ安を通じた効果に関しても、域外輸出の比重が最も高いドイツ経済に恩恵が届きやすいものになります。域内格差をどう是正するかという問題についても、この量的緩和の効果は残念ながら限られてしまうということになるかと思います。

― 中央銀行による資金供給は潤沢でも銀行貸出が伸びないという状況は、日本と似通っているといえるのでしょうか。

昨年アメリカのFRBが、また、イングランド銀行も割と早い段階で量的緩和を停止しましたが、これはアメリカの場合は社債市場等を通じた波及、イギリスの場合は住宅ローンに偏った貸出の拡大に結びつく効果があったと思うのです。それと比べて、貸出が伸びない、民間の投資意欲が非常に委縮しているという部分は、日本とヨーロッパは非常に類似した点があるとい感じています。

ユンケルプランの評価

長期的な停滞への懸念が高まる中で、潜在的な成長率を高めていくことが、欧州についての課題だと思います。昨年11月に、EUにおいては、バローゾ体制の後を受けて、ユンケル新委員長の下での新体制が発足しました。ユンケル新体制は、低成長が続いている欧州経済の活性化に向けて、発足後直ちに、投資計画を打ち出しました。この計画は、「欧州戦略投資基金」を新設し、EUの予算による160億ユーロの保証、欧州投資銀行(EIB)からの50億ユーロの拠出により民間資金を呼び込み、3年間で3,150億ユーロの投資を実現しようとするものです。このプランが、現在の欧州の状況を改善するのにどの程度貢献するものとお考えでしょうか。

この政策に対するヨーロッパの専門家、あるいは市場関係者の意見は非常に厳しいものがあります。欧州委員会が支出する資金が少なく、民間等からの資金というレバレッジに頼りすぎているのではないかということがあり、また、そもそも今の問題を解決するために3,150億ユーロでは小さ過ぎるという議論もあります。これをやることで新しい投資がどれほど行われるのかについても、もともと予定されていたプランをここに乗せて実行するだけにとどまるのではないかといった批判もあります。

一方で、私は注目すべき点があると考えています。この計画は、欧州政府が資金を出したところに官民の資金を呼び込むというものですが、従来はこの官の資金について加盟各国に負担額を割振ったり強制的に参加させるという方法でしたが、今回はあくまでボランタリーに資金供給を募る仕組みとなっています。また、このプランを利用すると、一時的に赤字目標や債務削減のパスから外れても例外として認められる等財政ルールを柔軟化できるため、過剰な債務や赤字を抱えている国でも公共事業を実施できる仕組みとなっている点は、評価していいのではないかと思います。この点は、各国の財政運営に求めるものが、今までと少し変わりつつあるということを象徴しているという意味で注目できます。各国に成長に優しい財政政策という趣旨では、欧州委員会は、従来、税制に重きを置いていました。これは財政規模が過大であるとの問題意識が出発点で、財政健全化を進めるためには歳出を削減して税制もできるだけ合理化し、企業の活動や働く意欲をそがない方向に税制改正していくというものです。この方向性はこれからも維持されるのでしょうが、今回、財政ルールの柔軟化とセットでこのプランを打ち出したことで、中期的な成長、潜在成長率の引き上げのために公共投資を推進し、民間投資を喚起することが重要という、これまで欠けていた視点についても、かなり明確にメッセージが打ち出されたと思っています。

― 公共投資の重要性が議論されていますが、一方で財政の健全化との関係で、それをいかに効率的なものにするかという議論もあります。ヨーロッパにおいては公共投資は経済成長のために適切で効果もあると考えてよろしいのでしょうか。

いわゆる効率性の議論はユンケルプランにも存在します。公共部門がプロジェクトを選んで、実行することが果たして効率的なのかどうかといった議論がありますが、一方で、これまで、特に財政危機に見舞われてからの数年間欧州が取り組んできたマクロ経済政策は、日本と違い、かなり財政健全化に重きを置き過ぎていたといえます。そのため、中期的な成長に必要なインフラ投資や構造改革の効果を高めるような投資、たとえば、労働市場改革のための就業訓練や仲介機関の機能強化、あるいは教育等については、支出が削減されていたといえます。

財政健全化の取組みの結果として、ギリシャでも基礎的財政収支黒字化を実現し、ドイツでは財政収支均衡状態に至るなど、かなり多くの国の財政健全化が進展し、ユーロ圏全体でみれば過剰な財政赤字という状態を脱している状況です。そこで、財政健全化という1つの目標をある程度達成したところで、その副作用の潜在成長率低下、需要不足という問題に対して、ある程度のルールの枠内の限られた歳出の中で、インフラ投資と構造改革のための支出を強化していきましょうというのが基本的な考え方になると理解しています。

構造改革への取組

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― 長期的な停滞やデフレへの懸念が高まる中で、EUにおいても構造改革への取組みが強く求められています。潜在成長率の引き上げ、競争力の強化、財政改革、金融市場の改革等様々な課題に直面していますが、とりわけ、雇用の問題、特に、若年層の失業の問題は非常に深刻な問題です。こうした欧州における構造改革への取組の進展状況についてはどのようにみていらっしゃいますか。また、欧州が優先的に取り組むべき分野、進んでいない分野としてはどのようなものがありますか。

構造改革の進展状況については、OECDや欧州委員会では、各国の政策をモニターするためのいろいろな指標を活用して評価を行っています。例えば、労働市場の改革については、欧州委員会が労働市場関連の法改正の数をデータベース化したものや、OECDの各種の指標などがあり、これらによれば、この数年間、特に財政危機に見舞われた南ヨーロッパの国々では、EU-IMF支援プログラムの影響もあって、かなりの改革が進展したということは間違いないでしょう。

ただ、その効果については、解雇規制の緩和といった規制改革や、従来割高であった賃金を引き下げる意味での賃金決定方式の見直しなど、域内・国内需要に対して短期的にはマイナスが働きやすかったといえます。ドイツは改革を通じて競争力を回復した成功例と言われていますが、それでも当初は労働市場の改革によって失業率の増大などのマイナスの影響のほうがまず強くあらわれ、雇用増大という局面に転じるまで大体5年ぐらいはかかったと思います。強い産業基盤を持っているドイツですらそうなのですから、ダメージの大きかった南ヨーロッパの国々では、解雇規制が緩和されたけれども、新規投資を行う上で行政手続が煩雑であったり税制の障壁があったりして、なかなか新しい投資や雇用に結びつかないという課題がまだまだ多く残されているため、労働市場改革は進展しているもののまだ効果があらわれていません。効果が表れるまでには、まだかなりの時間がかかると考えなければいけないでしょう。

― 構造改革はどの国でも効果が出るのに時間がかかり、それまでの間にいろいろ副作用も出てきますので、ある意味改革疲れのようなことが起きてくると思うのですが、EUとしては構造改革をさらに進めるためにどのような取組をしているのでしょうか。

財政危機が起きた後に、EUの政策監視のルールで、一番大きく変わったのは、単に財政運営だけではなくて、各国の構造改革の進捗度もあわせてチェックするという体制に変わったことです。例えばスペインやアイルランドでの財政危機は財政運営が放漫であったからではなく、不動産バブルが崩壊して財政の問題に転化してしまったのですが、こうした問題を未然に防止するには構造改革も財政政策も両方一体で監視しなければいけないということになっています。各国は毎年EUに対して構造改革プログラムを財政の中期計画と同時に提出して、EUから評価・政策指針といったものを得ることになっています。新しい政策監視のフレームワークの中では、このEUからの勧告を無視し続けると制裁の対象になります。もちろん、制裁があるから改革をするということでは必ずしもないのでしょうが、国民に不人気な改革を、ある程度一貫性のある形でやらせようという仕組みになっているのが1つの特徴です。

ただ、これまでは財政の緊縮と構造改革をセットで進めたために、構造改革の効果を高めるために十分な支出が行えず、特に南ヨーロッパのようにより解決すべき課題が多い国にとっては厳し過ぎるとの反省から、もう少し現実的な方向に見直しつつあります。

― 欧州では、日本と比べると大変高い失業率が続く状況ですが、高い失業率の実態をどのように評価しておられますか。また、どのような施策が必要でしょうか。

ヨーロッパの構造的な失業は、70年代ぐらいからさまざまな形で、さまざまな国で問題になってきました。なぜ不況になると失業率が上がって、その後も下がらない状態が続いてしまうのかというと、雇用を守り過ぎているということが一つあります。それゆえに、例えば支援を受けた国の構造調整プログラムの中でも、解雇規制や賃金決定方式をもう少し生産性にリンクさせ、新しい雇い手があらわれて構造的な失業状態が解消してくいことを目指す手法が取られています。

しかし、南ヨーロッパでは労働市場の規制改革は少なくとも進んでいるものの、先述のとおり新しい雇用の動きが鈍い、つまり、新しく人を雇って事業をやろうという意欲を持つ層があらわれてこないという問題があります。非常に分析としては難しいのですが、潜在成長率がマイナスになっているような状況で、企業が積極的になれないということもあるでしょうし、労働以外にいろいろな投資に関する規制が厳し過ぎて、ヨーロッパの中で投資するよりは、むしろ外に投資が向かってしまうケースもあると思います。今回のユンケルプランではそういう投資を妨げる規制改革もあわせて見直していくという狙いもあり、構造改革の課題の取り残されていた部分として進展すれば、構造的失業の改善に資する可能性はあると考えています。

先行きのリスク

欧州経済の先行きを見るうえで、幾つかリスク要因がありますが、その1つとして、地政学的リスクということがよく言われています。ロシア情勢とかウクライナの情勢が様々な面でヨーロッパの経済の足を引っ張っているのではないかということが言われております。ロシア・ウクライナ情勢が今の欧州経済にどの程度のインパクトを与えているのか、また、今後の先行きについてどのようにみておられるのかについてお教えいただけますでしょうか。

ウクライナをめぐるロシアとの緊張の高まりについては、経済制裁と報復という段階に至ることは極力回避されるだろうという期待が今から1年ぐらい前はあったと思います。過去25年余りの間にロシアとEUとの経済関係が非常に密接になったことを背景とすれば、制裁・報復を行うことによるマイナスが非常に大きいという予測があったわけです。しかし、この1年余りの間、残念ながらほとんど期待を裏切る展開が続き、マレーシア機撃墜事件以降は、いわゆる制裁・報復が実行に移され、その後もなかなかこれを解除するというところまでウクライナ情勢の安定化は果たされていない状況です。

EUの規模に対してウクライナの規模は限定的ですし、ロシアとの貿易・投資・あるいは銀行等を通じたエクスポージャーの額等々から見ても、非常にロシアとの結びつきが強いとされるドイツ経済などであってもその影響は限定されるはずでした。ただ、昨年のいろいろな国々の経済指標を見ていると、ロシアとの結びつきの強い国ほど経済成長率の下方修正などがみられます。推測の域を出ませんが、1つの要因として、ロシアとの緊張関係について、冷戦構造終結以降の東西の融和といった流れが、あの問題を境に1つ変わってしまったというようなマインドが企業等の間に広がり、実態の結びつき以上に経済への影響を大きくした側面があるのではないかと感じております。

この問題は、短期間に修復されて元の状態に戻るということは考えづらいので、前向きな投資の拡大、信頼の回復を必要としているEUにとって、重石となることは間違いがないということです。

― ギリシャでは1月25日に総選挙が行われ、その結果、厳しい財政緊縮政策の見直しを求める急進左派連合が第1党となりました。現状は、金融市場も同政権とEUの間での調整を見守っている状況ですが、こうしたギリシャの情勢が、ようやく収束しつつあるユーロ圏の債務問題等に与えるリスクについて、どのように見ておられますか。

新たに発足したチプラス政権は、5年目に入ったEU・IMFの新プログラムが大きくギリシャ経済を傷つけたと強く主張しています。EU・IMF・ECBの3者をトロイカと呼び屈辱的なプログラムの象徴であるとして、トロイカとの関係はできるだけ早く断ち切りたいとしています。関係を断ち切ってもチプラス政権として改革はしっかりやって財政の基礎的収支の黒字や均衡は守るとしていますが、この部分の確約が得られないという中で、トロイカとの関係を一方的に断ち切るようなことになってしまえば、ECBはギリシャをほかの国々と均等に扱うことができなくなってしまうため、事実上のユーロ離脱になってしまい、マーケットにかなり大きな動揺をもたらすリスクはあると考えられます。

しかし、ECBは、ギリシャ中央銀行が国内の銀行に緊急の流動性支援などをやることは認めておりますし、新たに打ち出した量的緩和でも条件が整えばギリシャの国債も対象にするということを考えている。また、ギリシャが主張している債務の再編を行うということです。もともといわゆる借金の棒引きという話でしたが、最近は債務交換によってという話があり、支援者側としても受け入れの余地はあると思います。また、ギリシャが望んでいる公共投資や弱者救済のための支出といったものについても、成長重視の財政政策に転換しようというEUの中では、ある程度受け入れられる余地があると思います。そういう意味ではいわゆるトロイカとギリシャは必ずしも敵対的な関係ではなくて、歩み寄りの余地があるのだろうと思っており、基本的には最悪のシナリオに発展することは回避されるだろうと思っています。

欧州で最初に政府債務危機問題が出てきたころは、金融安全網自体が存在せず、安全網が始動し始めてからも、資金量の限界への不安がつきまといました。ECBがどこまで危機対応できるのかわからないという不安もあって、域内でその影響が伝播するリスクが大きかったといえます。今は、安全網が備わっている上に、ECBの量的緩和への期待もあってギリシャの国債に対して市場で厳しい評価があるものの、ほかの国々の評価は安定しています。最悪の事態に発展した場合の影響も、かつてよりはコントロールされているということではないかと思います。

EU統合深化の行方

― 最後に、EU統合の深化についてお伺いします。金融面では、単一通貨ユーロの下、ECBによる金融政策が行われ、また、足元では、「銀行同盟」の構想が進められる一方で、財政面では、各国の財政監視の仕組は確立されているものの、欧州委員会が成長や雇用、加盟国間格差といった問題に対して、十分に取り組めるような仕組みにまではなっていません。さらに、政治的にも、今回のギリシャにおける選挙結果も含め、各国で反EU的な政党が勢力を伸ばすなど、統合の深化に逆行するような動きも見られますが、今後、EUの統合の深化についてどのような見通しをお持ちですか。また、銀行同盟、財政同盟、経済同盟、政治同盟という4つの側面から、EUが統合を深化させていくには、どのような課題があるとお考えですか。

ヨーロッパ統合の評価に関しては古くから、進展したことを評価する見方と、到達レベルを評価する見方の2つの評価があり、到達レベルとしては明らかに足りないということなのだと思います。ユーロ圏のデフレリスク、域内格差の問題に対処するためには、少なくともユーロ圏の共通予算的なものによって柔軟な対応ができれば、問題解決はより容易なのだろうと思います。ところが、ユーロ圏共通予算の議論は、2012年にユーロ危機、それこそユーロ崩壊というようなリスクが噂された時期に、銀行同盟などとともに財政同盟の一環として公式な議論のテーブルの上に乗りかけたこともあったのですが、結果としては銀行同盟のほうは実行に移されたものの、財政はルールを強化して、お互いに監視するというところに基本的にとどまりました。

この財政の仕組みが、今直面している問題の原因になってしまった側面もあったといえます。その結果として痛みが大きかった国々は、反EUあるいは反緊縮というモードが出てきており、一方で、支援をしたのに感謝されないドイツ等の債権国側も逆に不満が強まって、極右的な動きが出てきています。こうした各国情勢、とくにEUへの支持の低下が目立つ中では、EUの深化といった今後の進展をみすえるに、基本条約の改正といった大きなステップを踏み出すのは、ほぼ不可能に近いような状況だろうと思います。そのため、基本的には今の基本条約の枠内でできることをやっていくという選択をせざるを得ないでしょう。例えば今回のECBの量的緩和では損失が生じた場合の負担の割合は抑えるという変則的な形になりましたし、ユンケルプランではEUから一部のお金を出すのでボランタリーな形でお金を出してくださいと強制的に負担をさせるような仕組みをとりませんでした。恐らくはこれから少なくともしばらくの間はこういう形で、今の枠内で現実的にできることをやって、制度を維持することが模索されるのではないかという気がします。

こうした政策の転換によって、域内格差の問題にある程度の収拾がつけば、遠心力が強まっているEUについても少し求心力を取り戻すことができるのかもしれません。逆に一層事態の解決が従来の仕組みでは難しくて、遠心力が強まることになれば、政治レベルで少し危機意識が高まって、もう少し本格的なイニシアチブを推進しようではないかという方向に転換する可能性もあるのではないかと思います。

グローバルな競争が行われ、さまざまなグローバルプレーヤーがあらわれていく中で、ある程度価値観や民主主義において連帯感のあるグループとして行動することにより、それぞれの国が多かれ少なかれ恩恵を受けているところだと思います。これからの時代、EU的なもの、ユーロ的なものを必要とする機運は高まっていく側面もあるのではないかと思います。

― 本日はどうもありがとうございました。

(本インタビューは、平成27年 2月 4日(水)に行いました。)

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