経済・財政一体改革の推進

  • 高橋 進
  • 株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメリタス
    経済財政諮問会議 前議員
  • 聞き手:参事官(経済社会システム総括担当) 西崎寿美

昨年6月に閣議決定された骨太方針2018において、新経済・財政再生計画が策定され、同じく昨年12月に、経済財政諮問会議において新たな改革工程表が決定されました。本日は、これまで6年間にわたり経済財政諮問会議の民間議員を務めてこられた、株式会社日本総合研究所の高橋進チェアマン・エメリタスに、経済・財政一体改革の推進を中心としたお話を伺いました。

6年間の経済政策の成果

画像:株式会社日本総合研究所 チェアマン・エメリタス 経済財政諮問会議 前議員 高橋 進

—高橋先生は、経済財政諮問会議の民間議員を政権交代直後から6年間、担ってこられました。安倍政権6年間の経済財政政策の成果につきまして、先生のお考えをお聞かせください。—

(高橋氏)6年前に経済財政諮問会議の民間議員に就任しときは、まだデフレの最中だったわけです。それを足元でデフレではないという状況にまで来たというのは、非常に印象深いことだと思います。もちろん、その背景には戦後最長となる景気回復があったわけで、この6年間の経済運営というのは、そこそこうまくいったのではないかと思います。

この間、雇用環境が改善し、とりわけ印象に残るのは女性の就業率がすごく上がったことです。これは、私は安倍政権の政策の評価として強調していいのではないかと思います。もちろん、高齢者の就労も促進されていますし、それから、若者の非正規雇用の正規化も進んでいる。これらは6年間の経済財政政策の成果です。

もう一つ、6年前を思い起こしてみると、『ベア』という言葉は死語だったのです。それが、この6年で『ベア』が復活したということ、これも一つの大きな成果だと思います。ちょっと余談かもしれないのですけれども、6年前に『ベア』を復活したいということで、経済団体や企業経営者の方と交渉したときには、「『ベア』の復活などという言葉は極めて違和感がある」というように一蹴されました。その後、経営者の考えも随分変わってきたというように思います。

財政の健全化ということも大きな課題だったわけですけれども、これについても景気の回復が続く中で、歳出改善努力と相まって一定の成果が上がったと思います。

対外的には、この6年間はTPPの交渉が長く続き、昨年ついに日の目を見たわけですけれども、現在、米中の貿易摩擦あるいはハイテク摩擦が激化し、世界が保護主義、反グローバリズムに動いている中で、このTPPが今後、日本にとって非常に重要な経済外交のツールになるのではないかと期待しています。TPPの成果あるいは効果が出てくるのはこれからだと思いますけれども、これも6年間の安倍政権の一つの成果として特筆していいと思います。

骨太方針2015における経済・財政再生計画の策定

画像:参事官(経済社会システム総括担当) 西崎寿美

—今、お話のあった財政健全化については、骨太方針2015において「経済・財政再生計画」が作成され、「経済・財政一体改革」を断行する、ということが決定されました。当時の問題意識はどのような点にあったのでしょうか。—

(高橋氏)2015年当時は、経済はもうデフレではないという状況にはたどり着きました。ただし、財政面をみると、中長期試算によれば、2015年度のPB赤字対GDP比半減目標を達成できる見込みとはいえ、2020年度には引き続き大幅なPB赤字が残るということが歴然としていました。そのため、2015年の経済財政諮問会議の大きなテーマとして、経済再生と財政健全化の双方を実現していくべきという提言をしました。これは言葉では簡単なように聞こえますけれども、増税をしてでも財政再建を急ぐべきではないかという考え方が主流の中で、あえて経済再生と財政健全化の双方をきちっと実現していくということを提言したことの意味は大きかったのではないかと思います。

具体的には、やみくもに財政赤字削減を図るのではなくて、デフレ脱却、経済再生を実現する中で財政健全化を進めること、すなわち、分母であるGDPと分子である財政収支(PB)が共に財政健全化に寄与する、そういう取組を原則とすべきだと考えました。PBについては、歳出と歳入、双方の改革の取組が必要ですし、一方で、分母については、成長戦略を加速することで潜在成長率を高めていくこと、これが大きな課題になったわけです。

—「経済・財政一体改革」は、「デフレ脱却・経済再生」「歳出改革」「歳入改革」の三本柱の改革で、これらを一体として進めることが重要です。しかし、物価上昇により歳出が圧迫されている局面では、特にそれ以上の歳出改革を進めることは困難との見方もありました。—

(高橋氏)まず、経済成長を阻害しない財政健全化を進めること、これが大前提だったと思います。無理に歳出を抑え込むと、想定どおりの税収増が確保できなくなる可能性がある。まだデフレが脱却できていない局面だったので、財政健全化は景気への配慮をしないといけない、慎重に考えるべきだ、と考えました。

歳出改革については、一律に抑制するということではなくて、分野ごとにメリハリをつけていくことが必要だと考えました。メリハリとは、あくまでも無駄なものは削って生産性、効率性、予算の質を高めていくこと、歳出全般を聖域なく徹底的に見直すということです。

歳出改革を行う中で、公的分野での新たな事業創出、あるいは公共サービスを改革して民の力を引き出すことで産業化、活性化をしていく、それから、国民参加に向けたインセンティブ設計を強化していくということが打ち出されました。インセンティブ設計については、頑張る者が報われるという仕組みをつくることを掲げたわけです。また、公共サービスのイノベーションということも打ち出して取組を進めることとしました。そして、こうした取組を進めるためにも徹底した見える化が必要であるということも同時に強調しました。

経済・財政一体改革の中間報告

—2018年3月に「経済・財政一体改革の中間報告」が一体改革委員会から提出されましたが、高橋先生はどのように評価していらっしゃるでしょうか。—

(高橋氏)2018年3月に経済・財政一体改革の中間評価を行ったわけですけれども、その中で、なぜPBの改善が遅れているのかということについて、要因分析がされています。そこでは、4つの要因が指摘されていますけれども、その中でも、消費税率の引上げを延期せざるを得なかったこと、そして、その使途を変えざるを得なかったこと、この要因が大きいと思います。

一方で、2015年から進めてきた歳出面での効率化、これによって支出が抑制されるようになってきたこと、経済再生と財政健全化の双方を実現していくという流れの下で、実際に経済の好循環が続いて、結果として歳入が伸びたことはプラスの評価ができると思います。もっとも、2018年は想定よりも若干成長率の伸びが低くなって、思ったほどの税収増がなかったということも指摘しておかなくてはいけないと思います。

いずれにしても、これからも財政健全化を進めていく上では、やはり経済成長を加速させること、すなわち成長戦略に取り組むことが非常に重要だというように思います。同時に、財政面でもできるだけのことをするのも当然です。2015年当時から効率化を通じた社会保障支出の伸びの抑制、あるいは経済の活性化、新技術の導入等を進めるための非社会保障支出予算の確保、公的サービスの産業化による生産性の向上、公共サービスのイノベーション、政府のストックの活用、いろいろな手段を打ち出して財源を捻出しようとしたわけで、一定程度、その成果は上がったと思います。ただ、取組はまだまだ途中でして、2015年に掲げた取組をさらに強化していく必要性があるということも同時に指摘されました。

新経済・財政再生計画と新たな改革工程表

—2020年度のPB黒字化目標の達成は困難となったわけですが、PB黒字化を目指すという目標を堅持した新たな経済・財政再生計画が骨太2018で提示されました。—

(高橋氏)「経済再生なくして財政健全化なし」、この基本方針の下で財政健全化を着実に進めていく、このことには全く変わりはないというように思います。ただ、消費増税分の使い方を変えたことでPB目標の年限は遅れることになりました。けれども、全ての団塊世代が75歳以上になる前にPB黒字化を実現して、持続性のある社会保障と財政を構築していくことの重要性は変わらないと思います。

一方で、社会保障関係費の増大も予想される中で、もし経済が悪化すると財政健全化は一気に遠のいてしまいます。したがって、そのような場合には景気を腰折れさせないよう、機動的に対応し、経済成長を確実に実現することが必要であることも論をまたないと思います。

消費増税による消費の鈍化あるいは東京オリンピック・パラリンピック後の景気の崖あるいは財政の崖というようなことも指摘されている中で、当面の経済運営は非常に難しいと思います。一方で、経済成長という観点からは、近視眼的ではない、体質を強化する息の長い取組を通じて潜在成長率を引き上げていくこと、これが課題だと思います。

こうした状況を踏まえて、財政健全化目標については、2025年度のPB黒字化を目指して経済再生・財政健全化に着実に取り組むべきこと、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すこととしたわけです。そして、団塊世代が75歳に入り始める2022年度までの2019~2021年度を、社会保障改革を軸とする基盤強化期間と位置付け、持続可能な経済財政の基盤固めを行い、着実に歳出改革等を進めていくこととしたわけです。財政健全化を進めるためには、いろいろな分野での取組が必要ですけれども、私はやはり何と言っても社会保障改革をきちっとやり遂げることが最重要課題だと思います。そういう意味で「社会保障の改革なくして財政健全化なし」と言っても過言ではないと思います。

私も、もし民間議員を退任していなかったら、この改革に取り組みたかったのですけれども、その点は少し残念ですね。

—新再生計画において示された取り組みを具体化する新たな改革工程表が2018年12月に諮問会議にて決定されました。新たな改革工程表のポイントはどのような点にあるのか、お聞かせください。—

(高橋氏)新たな改革工程表のポイントは、主要分野ごとに重点施策の目標実現に向けた成果達成の道筋と政策手段との関係を見える化するよう努めたことです。KPIについては、成果をより定量的に把握できるよう、実績値が更新可能な形に見直しをしました。

また、社会保障分野の全44項目について、取組状況や成果などを明示するとともに、今までの計画からの流れを止めないよう、継続性にも留意しながら着実に推進することとしました。加えて、それ以外の分野も含めて、先進事例、優良事例の全国展開や見える化といった行動変容に働きかける取組の加速、拡大を進めました。これが今回の改革工程表の眼目です。

新たな改革工程表が策定されたことで、一定の方向付けができましたけれども、その上で、今後、これを具体的に推進していくことが必要だと思います。

もう一点付け加えると、取りまとめに際して議論になったことは、これだけの取組が今まで行われてきたわけですが、改革の趣旨がどれだけ国民全体に浸透しているかという点でした。そのため、気付きを与え、国民全体の行動変容を促す広報活動、メディア戦略が重要だと思います。例えば改革工程表のPR資料、経済・財政一体改革と国民の暮らしとの関係を解説したレポートなどによって、地方自治体や国民に経済・財政一体改革の取組を訴えかけていくことが重要だと思います。

経済財政諮問会議の役割と官庁エコノミストの育成

—高橋先生は6年間にわたって経済財政諮問会議の議論を精力的にリードしていただいてきました。高橋先生が御退任した後も、先ほど先生も御指摘ございましたとおり、日本経済が抱える課題は山積みです。民間議員としての御経験を振り返りまして、今後の経済財政諮問会議が果たすべき役割について御見解をお聞かせください。—

(高橋氏)(高橋氏)この6年間、マクロ経済政策の運営については内閣府の皆さんとそれなりにやってきた、そして、成果も上がっていると思います。こうして経済政策に携わってきて、今、感じるのは、こうした取組を進めれば進めるほど、逆に日本経済が抱えている構造的な問題が目立つようになってきたということです。今後は、そういった問題に腰を据えて取り組んでいくことが求められていくのではないでしょうか。

そういう意味で、経済財政諮問会議は、引き続きマクロ経済政策の司令塔であることには変わりがないと思います。未来投資会議など、さまざまな会議を通じて政策が実行されていくわけですけれども、そうした政策の経済全体あるいは財政への効果や影響などを見きわめつつ、経済と財政のバランスについて議論できる場は経済財政諮問会議しかありません。あるいは先ほど申し上げた構造問題、こういったものについて息の長い取組のあり方を考える場も、私は諮問会議しかないのではないかと思っています。加えて、経済財政諮問会議に民間議員が含まれているということの意味も大きいと思います。政府そのものとは一線を画す形で経済運営に助言、アドバイス、必要なら苦言を呈していくということも機能として求められていると思います。

さらに、経済財政諮問会議は、経済政策や他の政策との関連も含めた経済運営方針を、骨太の方針を通じて明示し、その後の経済運営の指針としていくという、政府の一員として説明責任を果たすことも期待されているのではないかと思います。ただ、この点で、一言だけ苦言を呈させていただくと、骨太の方針と言いながら、最近は、骨はあると思いますが、一方で、小骨がたくさんついていたり、ぜい肉がついていて、少し政策の百貨店みたいになってきた点が気になるところです。

—内閣府で経済財政諮問会議の事務局を担当している経済財政政策担当部局は、経済財政白書の作成など、これまでも官庁エコノミストを多く輩出してきました。しかし、近年、その力が弱まっているとの指摘もあります。経済財政諮問会議の事務局を担っている職員に必要とされる能力、そのための人材育成について、お考えをお聞かせください。—

(高橋氏)私は、力が弱まっているのは、官庁エコノミストだけでなく、民間エコノミストも同様だと思います。

経済財政諮問会議の事務局には、経済財政運営を行うための政策立案能力に加えて、分析力を有し、最新の経済理論にも通じた職員が必要だと思います。OJTが基本ではありますけれども、企画立案、経済分析力を養成するための人材育成プログラムなどを強化して、それに積極的に取り組んでいくということが必要だと思います。

官庁エコノミストの強みは、経済理論、分析力に加えて政策立案にも直接・間接に関わっているということだと思います。マクロ経済全体を相手にしているので、自分のところの政策だけではなく、他の官庁の政策についても、その経済や財政への影響を考えながら政策立案にあたらなければいけないわけですから、広い視野を持つことが求められます。そして、立案した政策の効果や経済への影響を見きわめていくことも求められます。

一方で、官庁エコノミストの弱い点を挙げるとすれば、やはり経済予測の能力が民間エコノミストに比べてやや落ちるということです。そこが身につけば、私は民間エコノミストも及ばない状況になって鬼に金棒ではないかなと思います。

また、役所の皆さんは、国際会議などに出る機会も多いと思います。そうした機会を活用して世界の経済に関する最新理論を学んで日本に紹介することも官庁エコノミストの役割だと思います。そして、政策立案能力を養成すると同時に、結果として出てくる政策の効果についても冷静に分析して、次の政策立案に活かしていくという、政策のPDCAを回す訓練を通じて、官庁エコノミストとしての力をさらに高めていただくことを期待します。

ただし、これからは官庁エコノミスト、民間エコノミストという区分ではなくて、人材交流などを通じて互いに切磋琢磨する仕組みができると、官庁エコノミストの皆さんも景気予測のノウハウなどを磨くことができ、結果的にエコノミストとして鍛えられていくことになると思います。

(本インタビューは、平成31年2月4日(月)に行いました。)

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