ESRI通信 第4号

平成20年12月15日
内閣府経済社会総合研究所 発行
Cabinet Office, Government of Japan
Economic and Social Research Institute

【巻頭言】

総括政策研究官の妹尾と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

経済社会総合研究所は、内閣府のシンクタンク的な機関とされていますが、私は、必ずしもそうした位置づけに居心地の良さを感じておりません。内閣府云々の前に、国民のシンクタンクであることを忘れてはならないと考えています。その意味で、皆様と直接コンタクトできるこのようなチャネルを極力活用していくことも大切なことではないかと考える次第です。

さて、研究というと、高度の専門知識を有する特定専門家の領域という意味で理解するのが通常だと思いますが、歴史のなかに出てくる政府の高官などは上司から下命を受ける際、「それでは、本件について研究し、近日中に報告いたします。」などと答えています。すなわち、研究というものは実は、ある問題意識のもとに、あることを調査し、一定の結論を提示するという、いわば広い意味でも使われてきたわけです。皆様の日常的な疑問に答えるためには、研究もスピ-ド・アップしなければならず、そこに研究ということの意味をどう捉えるかという問題、研究即高度な学術論文と考えるとややジレンマ的な要素を含む問題が現れるのだろうと考えます。しかし、国民の目線を意識しない研究では存在意義に乏しいとされるでしょう。

私は、この研究所の前身にあたる経済企画庁経済研究所時代のことを良く知っているわけではありませんが、大変強く印象に残っていることがあります。それは、今で言うディスカッション・ペ-パ-だと思いますが、日本人の働き過ぎに光を当てた論文が公表されたときのことでした。この論文の印象が深かったのは、当時の研究所の「研究」が大きく新聞報道され、テレビでも取り上げられ、週刊誌にも載ったからです。これは、換言すれば、研究所は浮世離れしているという観念に私自身が囚われすぎであったことの証左に他ならないといえばそれまでですが、国民的な話題を呼ぶような研究であれば、それが学術的には注目すべきものでなくても、役所の研究としてはむしろ望ましいのではないか、という考えを捨てきれないのだと思います。眼に見える知的貢献といってもよいかと思います。もちろん、私は、現在の研究所にその種の研究が無いといっているのではありません。例えば、所得格差の問題やフリ-タ-の問題などに関する論文も出ています。ただ、そのテ-マの設定、研究のスピ-ド、成果公表後のフォロ-などの点で、研究所としても皆様との連携もしながら模索し、成果を社会に還元するということも重要な使命だと感じているわけです。皆様とコンタクトするひとつの窓口と承知しておりますので、自戒を込めて申し述べさせていただきました。

平成20年12月

  • 内閣府 経済社会総合研究所
    総括政策研究官 妹尾 芳彦

【最新の研究発表】

  • 「法定労働時間変更に対する労働市場の反応:日本の経験から」(川口 大司、内藤 久裕、横山 泉)(平成20年12月)(本文は英語)

    日本の労働基準法は法定労働時間を定めており、これを超える労働時間に関しては2割5分以上の割増賃金率を支払うことを求めている。1987年に48時間であった法定労働時間は1997年まで緩やかに40時間で減少した。同期間に週当たり平均実労働時間は45時間から41時間に減少しており、法定労働時間の減少が実際の労働時間を減少させる効果があったことを示唆している。この論文は法定労働時間の減少のペースが産業と事業所規模に依存して異なっていたことを利用して、法定労働時間の減少が実際の労働時間に与えた因果的影響を推定した。分析結果は1時間の法定労働時間の減少が、実際の労働時間を0.14時間減少させたことを明らかにした。その一方で月の現金給与総額は変化しなかったため、時間当たり賃金率は上昇したが、これに反応して新卒労働者の採用は抑制された。

  • 「DYNARE による動学的確率的一般均衡シミュレーション~新ケインズ派マクロ経済モデルへの応用~」(矢野 浩一)(平成20年12月)

    本論文はDYNARE を用いた動学的確率的一般均衡モデル(Dynamic Stochastic General Equilibrium Model)のシミュレーションを解説する。近年、Yun (1996)、Gali (2002) などの研究に基づくミクロ経済学的基礎を持つ新ケインズ派(New Keynesian)マクロ経済モデル(New IS-LM)が金融政策の分析において注目を浴びている。また、New IS-LM を発展させたNew Keynesian モデル(Hybrid New IS-LM) がChristiano et al. (2005) などで提案されており、各国政府や中央銀行などで研究が進められている。本論文ではDYNARE を用いて、New IS-LM ならびにHybrid New IS-LM、Hybrid New IS-LM モデルに流動性制約下にある家計を導入したモデルのシミュレーションを解説する。また、DYNAREやNew IS-LM に詳しくない読者のため、Appendix に簡潔なDYNARE 入門であるCollard and Juillard(2001b) 全訳とNew IS-LM の導出過程、Sims (2002) の解説を付する。

  • 「金融の量的緩和はどの経路で経済を改善したのか」(原田 泰、増島 稔)(平成20年12月)

    本研究は、量的緩和政策の経済に与える全体的な効果とその波及経路をHonda et al.[2007]に基づいて分析を始めている。VARモデルによる検証を通じて以下の4つの点が明らかになった。第1に、マネタリーベースの増加は生産を増加させる効果がある。第2に、その経路としては、資産価格を通じる経路、銀行のバランスシートを通じる経路が重要であり、銀行の情報生産機能を通じる経路、為替レートを通じる経路、時間軸効果を通じる経路は確認できない。以上はHonda et al.[2007]の確認であるが、銀行のバランスシートを通じる経路は新しい発見である。さらにこれらの経路は、経路をより厳密に分析した場合にも確認できた。第3に、量的緩和は長期的には金利を引き上げる効果があり、時間軸効果、特にシグナル効果の存在には疑いが持たれる。第4に、量的緩和政策が行われていた時期と同様、伝統的な金利政策が行われていた期間においても、マネタリーベースは生産に影響を与えていた。これらの結果は、長期にわたる景気低迷を緩和する手段として金融政策が有効であったことを示唆している。


【最新のシンポジウム・フォーラム】

<議事次第(配付資料)の掲載>


【最新の統計】

<SNA統計>

<景気動向指数>10月速報(平成20年12月9日)

  • 10 月のCI(速報値・平成17 年=100)は、先行指数:85.0、一致指数:97.6、遅行指数:98.2 となった。
    先行指数は、前月と比較して4.2 ポイント下降した。3 ヶ月後方移動平均は2.10 ポイント下降し、4 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は0.83 ポイント下降し、26 ヶ月連続の下降となった。
    一致指数は、前月と比較して2.5 ポイント下降した。3 ヶ月後方移動平均は1.83 ポイント下降し、3 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は0.69 ポイント下降し、8 ヶ月連続の下降となった。
    遅行指数は、前月と比較して0.3 ポイント上昇した。3 ヶ月後方移動平均は0.73 ポイント下降し、7 ヶ月連続の下降、7 ヶ月後方移動平均は0.96 ポイント下降し、7 ヶ月連続の下降となった。
  • 一致指数の基調判断
    景気動向指数(CI一致指数)は、悪化を示している。

<機械受注統計調査報告>10月実績(平成20年12月10日)

  • 機械受注総額(季節調整値)の動向をみると、20年9月前月比3.0%減の後、10月は同14.4%減の2兆258億円となった。
  • 民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の動向を見ると、20年9月前月比5.5%増の後、10月は同4.4%減の8,997億円となった。このうち、製造業は同2.2%減の4,244億円、非製造業(除く船舶・電力)は同2.3%減の4,829億円となった。

<消費動向調査>11月調査(平成20年12月12日)

  • 平成20年11月の一般世帯の消費者態度指数(原数値)は、10月の29.4から1.0ポイント低下し28.4となった。
  • また、消費者(一般世帯)を対象に、世帯として「日頃よく購入する品物」の価格について、一年後の見通しを調査したところ、「上昇する」と思うとの回答割合は77.2%となり、前月差は7.2ポイント減少し、4ヶ月連続の減少となった。

【参考】<月例経済報告>11月(平成20年11月21日)

  • 景気は、弱まっている。さらに、世界経済が一段と減速するなかで、下押し圧力が急速に高まっている。
    • 輸出は、減少している。生産は、減少している。
    • 企業収益は、減少している。設備投資は、弱含んでいる。
    • 雇用情勢は、悪化しつつある。
    • 個人消費は、おおむね横ばいとなっているが、足下で弱い動きもみられる。
  • 先行きについては、原油価格等の下落による一定の効果が期待されるものの、世界的な金融危機の深刻化や世界景気の一層の下振れ懸念、株式・為替市場の大幅な変動などから、雇用情勢などを含め、景気の状況がさらに厳しいものとなるリスクが存在することに留意する必要がある。

<統計調査公表予定一覧>

<統計調査公表予定一覧>
景気動向指数
速報
景気動向指数
改訂状況
機械受注統計
調査
消費動向調査
(全国・月次)
法人企業景気
予測調査
12月9日
(10月分)
12月17日
(10月分)
12月10日
(10月分)
12月12日
(11月分)
12月24日
(10~12月期)
1月9日
(11月分)
1月21日
(11月分)
1月15日
(11月分)
1月20日
(12月分)
2月6日
(12月分)
2月18日
(12月分)
2月9日
(12月分)
2月10日
(1月分)

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